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◇14 愛の絆と奇跡
しおりを挟む神殿の祈りの場は、神官達が祈祷する部屋で、一同が入れるほどの広間だった。
カーペットは強いてあるけれど、椅子はない。ここで立って、祈りを捧げるそうだ。
金色の巨鳥のステンドグラスがあるので、それと向き合うように立つ。じゃんけんの末、私を抱える権利を得たレオの両手の上に乗った私は、一応翼を合わせて祈るポーズをしてみた。
カッと、白の光りに包まれる。瞼を恐る恐ると上げると、祈りの場ではなく、白い空間にいた。
そして目の前には、神殿前の像よりも大きな巨鳥が舞い降りる。
「我が名は、トルトアウェス。異世界の者達よ。説明を欲していたはずだ。説明しよう」
「あ、はい」
煌びやかな黄金色の巨鳥の嘴から零れる声は、凛とした男性の声だった。どこかぼやけたようにも響いて聞こえる。レオの手の上で見上げたまま、頷いてしまった。
「先ずは、フェンスに引っかかっていたところを助けてくれて感謝する」
え!? まさかあのインコみたいな鳥、神様ご本人!?
「我は異世界を探検する趣味があってな。姿を変えて放浪していたところ、羽根が引っかかっていたのだ。そこで助けてくれたのがそなただった。ありがとう」
「あ、いえ、どういたしまして……」
軽く頭を下げる神様に、私もお辞儀をし返す。
「しかし、そのせいでそなたは命を落とした」
心臓がギュッと縮む。改めて言われると、衝撃的だ。私はやっぱり死んだのね……。
「我を助けるためにあの場にいたせいで、轢かれたも同然。償いとして我の世界へ転生させた。迷惑だったかな?」
「いえ、そんな。新たな生をいただけたのに、迷惑だなんて……」
「お礼を申し上げます。おかげで我々は同じ世界で生きられますから!」
小首を傾げてこちらを伺う神様に、恐れ多いと首を振ったが、ここでシンが発言。
そう言えば、私はともかく、なんでシン達も異世界転生してもらったのだろうか。
「あー、ソレなんだが」と、神様は言いにくそうに言葉を絞り出した。
「我の眷属として異世界転生したそなたならともかく……何故、他も異世界転生したのだ?」
「「「……???」」」
神様の言葉に理解が追い付かず、ちょっと宇宙を見た気分に陥る。
「え……トルトアウェス様は関与、していない……のですか?」
「我はそなただけを転生させたつもりだったのだが、何故か他もついてきた。定員オーバーだったためにおかしなところに降ろしてしまったのは、そのせいだ。本来、王都の神殿の祈りの場に召喚するつもりだった」
「……!!」
嘴をあんぐりと開けてしまう。
何故かついてきて異世界転生してしまったレオ達って、一体何……?
それで私とレオは森の中にいたし、シンはこの街の近くだったし、セブは行方不明なのか……。
「きっと愛です」
「シン???」
見上げてみれば、横で真剣な顔つきでシンが言い退けた。
「タイミングがよかったのもありますが、我々とご主人様との愛の絆が成し遂げた奇跡です」
シンー!!! 真顔で言い切らないでー!
異世界転生についてきちゃうほどの激重感情という名の絆で結ばれていたのー!?
よしよししないでぇ、レオ~。
「ふむ、なるほど」
神様が納得しちゃった!
「厳密に言えば、獣人達は異世界転移だ。そちらの世界の神との力の影響で、イレギュラーを起こしたのだな。否、奇跡か」
厳密には、レオ達は異世界転移。なるほど。ゲームの中のキャラクターだけれど、ゲームはゲームとして異世界となっていたから、この異世界に転移した形になるのね。私の巻き添えで。
「して、もう一人の獣人の居場所を知りたいのだろう?」
「ご存知ですか!?」
「ああ、急いだ方がいい。迫害を受けている」
ヒュッと息を呑み込んだ。はく、がい……。
「その街から東南の最果ての街へ行けばわかる」
「瘴気の谷がある場所では?」
「そうだ」
シンの顔をしかめた確認に、神様は重く頷く。
「わかりました。すぐに向かいます。ところで、ご主人様について質問です。普段はこの姿なんですけれど、二回人の姿になりました。人と言っても、翼が背中からは得てましたけれど。一回目からは翼が四つになりましたけれど、何か意味があるのですか?」
レオは冷静に質問を重ねた。私のことは後回しにして、迫害を受けているセブを助けに行きたい。
そわそわする私を宥めるように、レオは片手で背中を撫でつける。
「今の身体に慣れた、いわば、成長したからだ。姿は当分変わらぬが、次第に力も使いこなせるようにもなるだろう」
「力、ですか?」
え。力なんてあるんですか、ぴよこな私に……?
「我の眷属だ。我に及ばずとも、我と似たようなことは出来る。翼は癒しをもたらし、嵐を生み出し雷鳴を轟かせるのだ。我はそなたの元の世界で言えば、サンダーバードとなる伝説の鳥と酷似している。危機に陥れば、自ずと雷を発生するだろう」
「……飛べるんですか、私」
「飛べないのか……?」
初めて聞くワードみたいに聞き返された。
飛べないぴよこでも、力は使えますか……???
神様って、サンダーバードなんだ。名の通り、雷の鳥……? 見た目は黄金な巨鳥だけれど……。
「それは練習あるのみだよ、ご主人様! あ、変身のコツだけでも教えてもらっていいですか?」
「変身は獣人の特技ではないのか?」
「それもそうだ! じゃあ、ゆっくり変身を覚えようね、ご主人様!」
「僕も手取り足取り教えますよ、ご主人様」
ニコニコなレオとシンから、変身を教わることになった。あとは飛び方の練習だね。
いや、そんなことよりもセブだよ!! セブを迎えに行かないと!!
「では、我が世界で自由に生きるといい。我が眷属、ナノカよ」
バサッと大きな翼を広げて、神様は白い空間を飛び去った。
本名じゃなくてハンドルネームで呼ばれてしまった……まぁいいか。この世界ではこの名を使おう。
白い空間はうっすらと元の祈りの場を映し出したかと思えば、自分達はそこに戻っていた。
「よし、じゃあご主人様の靴を買いに行こう!」
「やっぱり優先順位変わらないの!?」
「レオ、もう交替してください! 僕がご主人様をお持ちします!」
靴は変身した時を考えると欲しいので却下が出来ない。
やいやいとレオとシンが私の取り合いを始めていると、ギルドマスターがやって来て伝令を飛ばせるだけ飛ばしたと報告をしてくれた。
だがしかし、セブの居場所なら神様から聞いたので、そのことを話すと「神様と対話をなさった……!!」とまたもや滂沱して膝から崩れ落ちた。この人は、滂沱がデフォルトなのかな。
ここから東南の最果ての街だと聞いて、すぐに顔色が悪くなったギルドマスター。
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「セブが瘴気の谷に追放される可能性があるということですか!?」
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「伝令が間に合うといいのですが……」
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宣言通り、私の靴を買いに行く。これは覆されない決定事項。しかしその前に、私が変身しなければいけない。サイズがわからないから。
そう都合よく変身が出来ないので、早速詰まった。
「獣人と変身のコツが同じなら、変身する感覚を思い出せばいいよ」
「変身する感覚?」
「変身する時、どう感じました? その時の身体の異変を思い出して、再現するといいです」
レオとシンがレクチャーしてくれて、考え込む。
「ああ、身体の中がカッと熱くなる感じがしたかな、二回とも。なんか爆発するかと思った」
「それですね」
「……え、再現するの? ど、どうやって?」
「イメージかな」
「イメージ……?」
アバウトな助言に従って、目を閉じてイメージをしてみた。身体の中がカッと熱くなって爆発しそうな感覚。……なにも、おこらない。
むむぅ。思い出せ、あの感覚を……!
さながら、少年漫画の主人公になり切って、集中してみた。……だめそう。
そもそも、どうしてあんな感覚がいきなり湧いてきたのだろうか。
一回目は本当に急だった。あれはあのタイミングで“成長”したということなのだろう。
では、二回目は? ……シンの襲来である。過剰なスキンシップを思い出すと、カッと熱くなった。
そして、ボフン。
金箔の煙を撒き散らして、乗っていたソファーに座る形になった。人の両脚が伸びる。裸足だ。
「おお、すごい! 流石、ご主人様」
「素晴らしいです、ご主人様。もうマスターしたのですか?」
パチパチと拍手したあとレオとシンは、早速私の足のサイズを測り始めた。
「ん? なんか顔赤いよ、ご主人様。熱?」
「ううん! 違うよ!」
「力んだせいでしょうか?」
私の顔の赤さに気付いてレオが眉を下げて額に触れてきたから、首をブンブン振って否定する。
過剰なスキンシップが変身のコツだなんて……言えない! 言ったらマズい気がする!
私は伏せておくことにした。
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