イケもふ達とぴよぴよご主人様の異世界ライフ!

三月べに

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◇10 白銀の虎

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「シ~ン~」

 陽気なムービーメーカーのレオは、平然と気軽に呼んだ。
 それにピクリと頭の上の耳を立ち上げた白銀の虎は、驚いた顔をこちらに向けた。

「レオ……! あなたも、この世界にいたのですね!」

 起き上がると、軽々とお供え物を飛び越えて、こちらに歩み寄ろうとする。

「ご主人様は? ご主人様は一緒ではないのですか?」
「ご主人様なら、ここだよ」
「シン」

 私のことを先ず問い詰めてきたので、私もシンの名前を呼んだ。

 するとギョッとした顔付きになった虎は、目の前にキュウリを置かれた猫の如く、後ろに飛び退いてしまった。着地する寸前で、ボフンッと煙を撒き散らして半獣人姿へと変わる。

 虎耳を生やした右下がりの白銀の髪型。白い睫毛に囲まれた瞳は、青色のキャッツアイ。誰もが息を呑みそうな美しい造りの顔の美丈夫は、肩を露出させている洒落た神官服を身にまとっている。危うい色香が漂う美しすぎる神官のよう。まさに神に仕えていそうだ。身長はレオよりちょっと大きいぐらいだけれど、パッと見、彼の方が細身に見えた。服装のせいだろうか。
 私が最後に設定した姿のままの【シン】だ。ハロウィンイベントの神官服のまま。

 それが功を成したのか、こうして神殿で保護されているのだけれど、とても似合う。

「この声……ナノカ、ご主人様……なのですか……!」

 青のキャッツアイを真ん丸にして、後ろで太い虎模様の尻尾を立たせたシンは、やがてその瞳をうるうるさせた。

「うん、私だよ。大丈夫?」
「ご……ご主人様ぁ~!!」
「わわわっ!」

 飛びついたかと思えば、ズリズリと頬擦りをされる。そして、レオの手から私を持ち去った。

 レオは「ああ~!」と声を上げたが、シンは聞いちゃいない。

「どうしたのですか! ご主人様こそ、大丈夫なんですか!? こんな、こんな……! 可愛いお姿になられて!!」
「ぴよぉ~」

 むぎゅっと、両腕に抱き締めれた。
 ああ……! 物腰柔らかな口調だし、柔和に微笑むキャラなのに、頬擦りが激しい……!

「可愛いから、ご主人様の優しい声がします……可愛い……スゥー」
「ぴよよよっ」

 もう私を吸ってる。スーハーしてる。ぴよこ吸いはやめてぇ~。昨日からお風呂に入ってません~。

「こんなに早く会えるとは思わなかったや。でも、おんなじ世界に来てるとは思ってた。……まだご主人様と二人でいたかったなぁ」
「昨日から二人でいたのですか? ズルいです、レオ」

 レオが手を差し出すけれど、シンは拒否して私を腕の中に隠してしまう。
 ぶーとふくれっ面をするレオを無視して、シンは私の背中を撫でた。

「ああ、姿は違えどこうしてご主人様に触れられるなんて……。しかし、こうして同じ世界にいるのです。これからは、ご主人様と一緒にいられるのですね……」

 うっとりとほくそえむシンに、私は悪寒を覚える。

 え、ナニコレ。レオと同じくヤンデレ気味なんだけれど。

 青いキャッツアイにも、どろりとした感情が見えてしまうのだけれど。

 私のペットは、みんなヤンデレ化してるの……? カタカタ。

「あ、あのぉー」と、ギルドマスターがこちらに声をかけてきたタイミングで、謁見の間に神官が一人飛び込んだ。

「ギルドマスター! 緊急です! レッドワイバーンが! レッドワイバーンが街に向かって飛行しているそうです!」
「何!? レッドワイバーンだと!?」

 ギルドマスターは顔色を変えて、謁見の間を飛び出した。

「赤いワイバーンってこと? 珍しいの?」
「そうらしいですよ、この街に飛行して近付く魔物は滅多にいないそうです」
「ちょっ、早く追いかけようよ!」
「はい、ご主人様」「はぁい、ご主人様」

 レオとシンがのんびり会話するから急かすと、パタパタと駆けてギルドマスターを追いかけてくれる。

 ギルドマスターは神殿の入り口にいた。神殿は高台の上に建てられているから、望遠鏡で襲来するワイバーンが確認出来るらしい。私も森の方かやってくる赤い物体が見えた。大きそう……。

「赤いワイバーンって美味しいかな」
「瘴気に侵されていなければ、魔物は大抵食べられるそうですよ。レア魔物なら、美味しいかもしれませんね」
「美味しいなら食べたいなぁ、食べさせてもらえるかなぁ」
「ご主人様はどうですか? 食べたいですか?」
「え? 私は……辛くなければ?」

 辛いかどうかは知らないけれど、赤いとイメージ的に辛そう。

 ギルドマスターが必死に指示を飛ばしている横で、ついついマイペースなレオとシンに巻き込まれた。

 危機感ないよね。まぁ、慌てても、私には何も出来ないんだけれども。

「あれ、ご主人様、辛いの、苦手? オレは得意ー、ピリッとするの好きぃ」
「僕は苦手です。お揃いですね」
「なんかいいね。ご主人様のこと、新しく知れた」
「フフ、そうですね。これからも、もっと知れると思うと幸福です」

 ほのぼの。ワイバーン襲来なんて、とっても他人事な二人。
 シンが掌で頭から背中まで一定のリズムで撫でてくれるおかげか、落ち着いていられる。もふもふされる側って、こんなにも気持ちいいんだね。

「ギルドマスターだそうですね」
「え、あ、はい」

 そんなシンが、顔色悪く悩み込んでいるギルドマスターに声をかけた。

「アレを仕留めたら、アレのご馳走をしてもらいませんか? ちなみに辛くはありませんよね?」
「!! 構いません! 被害が出る前にどうか!! ……辛みがあるとは聞いたことはありませんが」
「そうですか。じゃあ結界を張って仕留めますね」
「え!? この街を覆うほどの結界を張れるのですか!? 流石白虎様!!」
「……」

 とうとう赤いワイバーンは、街の壁までやってきてしまう。

 腕は翼と同一になっていて、蝙蝠の翼がついたトカゲって感じだ。そして赤い。

 神官コスのシンが使える魔法は、光魔法と水魔法だった。光魔法の結界で、魔物の攻撃を完全防御してくれるのは、ノーダメージでバトルを終えてくれるので便利だ。イベントのハードな周回にとても役立った。

 シンは興奮するギルドマスターを一瞥すると、手をワイバーンの方に翳す。

 気のせいか、ワイバーンの凶悪な目付きが、こちらを向いている気がした。喉元を赤黒く光らせたその赤いワイバーンは、バサバサ動く巨大な翼ごと、水色の光の球体に閉じ込める。放たれた赤い炎は、光の球体が遮断し、その中に留まるものだから、あっという間に炎の球体に早変わり。自分が吐いた赤い炎でダメージを受けたワイバーンは、光りの球体がなくなると、そのまま落下した。

「この街を覆う結界は張れませんが、対象に張ってしまえば自滅も簡単です」

 翳した手で私の背中を撫でて、にこりと微笑むシン。

 なるほど。完全防御の結界で閉じ込められたら、自分の攻撃が跳ね返ってきて自滅するのか。怖い。しれっと強くて怖い。うちの子、どっちも強すぎる。

 ギルドマスターもシンの笑顔を見る余裕もなく、落下したワイバーンの方を目をかっぴらいて見て、顎が外れるくらい口をあんぐり開けて呆けている。

「レッドワイバーンのご馳走、よろしくお願いしますね」

 シンは上機嫌に頼むと、神殿の中に引き返した。レオもあとをついてくる。

「結界魔法ってあんな使い方も出来るんだ? ねぇ、もうご主人様返してよ」
「ゲームのバトルの時から防戦一方より効率がいいと思っていたのですよ。嫌です。レオは昨日からご主人様を独占していたのでしょ、譲りません」

 ゲームキャラ当人がゲームの話してる……。私がプレイしてた時から、自我があったんだなぁ、としみじみ。

 謁見の間に戻ってきたシンはもう我が物顔で祭壇化したそこに腰を下ろすと「ご主人様、果物食べますか? どれがいいですか?」とお供え物を食べないかと微笑みかけられた。

「いや、お昼食べたから、大丈夫」
「このブドウとチェリー、美味しそうですよ?」
「いや、ホント、お腹は……えっ、何それ美味しそう」

 ひと房見せてくれたのは、ビー玉みたいに透けた水色のブドウだ。すご。水色のブドウ。しかも透けてる。
 どんな味だろう、とソワソワと身体が揺れてしまう。

「ぐっ、可愛い……! フフ、じゃあ一粒どうぞ。皮も食べられるそうです」
「ありがとう!」

 一粒目の前に出されると、これまたビー玉みたい。私は今ぴよこなので、ぷすりと嘴を突っ込んで果肉を啄む。冷えたブドウの味は、通常のものより爽やかで清々しい感じがした。

「ん! 美味しい! 目でも涼しい感じで、面白いブドウだね!」
「フフ、可愛い……もっと食べてください、ナノカ様」
「ぶー、オレも食べさせたい~。シン、ズルい」
「レオの方がズルいです。一晩過ごしたのですか?」
「だって森で二人きりだったんだもん」
「あなたの方がズルいです」

 ぷすりぷすりと水色ブドウを啄む間、二人して互いをズルいと言い合っていた。


 
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