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◆08 レオ/天使なご主人様のもふもふ
しおりを挟むぴよこだったご主人様が、急に人の姿に変わった。
ジャケットの下に隠していたご主人様が、出てきては大きくなって、それから片腕じゃあ抱えきれなくなったから、食堂では驚いてすっ転んでしまった。
オレの上にいたのは、懐かしく感じるご主人様の顔立ちによく似た美少女だった。でも、ぴよこ姿だったご主人様の匂いがしたから、ご主人様だ。
金色の柔らかそうな長い髪も、広げられた金色の翼も、キラキラしていて眩しかった。
澄んだ空色の瞳は目が離しがたくて、華奢な身体付きは可憐で、仄かな甘い香りが頭をクラクラさせる。
食堂の誰もが息を呑む美しさに、だめだと思った。
隠さないと。取られちゃう。
だから、すぐにその場から離れた。
森まで避難して改めて見ると、やっぱり美少女。というか、天使だ。
オレのご主人様、天使になっちゃった……!
確かに画面越しのご主人様ならもうちょっと身長がありそうなイメージだったけれど、今のご主人様は百五十センチもない身長のようだ。ちっちゃくて可愛い。
「ナノカ様、可愛くて綺麗……!!」
翼をぎこちなくバタバタと動かして戸惑いいっぱいの表情をしているナノカ様。
ああ、どこまでもオレを魅了しちゃうんだね。こんなにも大好きなのに。綺麗になられたら、もっと好きになって、メロメロになっちゃうよ。ああ、なんて綺麗なんだろう。
睫毛も金色でキラキラしている。伏せた睫毛で隠れそうな空色の瞳は、いつまでも見つめていたい。
あ、またオレを見上げてくれた。真ん丸に開かれると、空を閉じ込めた大きな瞳がよく見える。綺麗。
陶器のような艶のある頬。ぷるんと潤んだ唇。ああ、美味しそう……。
ゴクリと息を呑んだ。
「どうして、急に人の姿になれたんだろうね? この方がいいけれど……いいのか?」
自分の手を見て、首を傾げたご主人様は、眉間にシワを寄せて自問自答をしている。素直に喜べないのは、背中の翼があるせいだろう。綺麗だからいいと思うけれど……。
そんなことより、ご主人様に手がある。人の手。
チラッと足元に目をやれば、白くて小さな素足。
オレはジャケットを脱いで、地面に敷いた。それからご主人様の脇に手を差し込んで持ち上げて、そのジャケットの上に立たせる。ご主人様は状況が呑み込めないみたいに瞠目していたけれど、オレはその目の前で膝をついてから、ご主人様のやっぱり小さな右手を取って自分の頭に置いた。
「ご主人様。オレ、今日いっぱい頑張ったから、いっぱいもふもふして?」
「あっ……うん」
画面越しじゃない。直接、ご主人様にもふもふしてもらえる。現実なのに、夢みたいだ。
なでなでと最初は髪を撫でてくれたけれど、頭の上の耳も一緒に掌で撫でてくれた。目を細めてうっとりしていれば、ご主人様は両手で耳をこねくり回してくれる。
あっ、きもちい……。
ボフンと、獣人化したオレは、ご主人様のお腹に顔を埋めるように抱き着いた。もふもふされると、リラックスしすぎるせいで、獣人化して、獣化もしちゃうんだよねぇ……。
ぐるる。
ご主人様の両手はオレの毛にまみれた頬もこねくり回してくれて、掌でまんべんなくもふもふしてくれた。顎下もこしょこしょとしてくれるから、喉がゴロゴロと鳴る。
もっと。もっとして。
って、ご主人様のお腹に顔をこすり付けた。
ああ、獣化もしてお腹も撫でてほしい。もふもふして、ご主人様。
もっともっと、オレに触れて。
大好き。オレのご主人様、好き好き。
だぁい好き。
オレのオレンジの鬣をわしゃわしゃしてくれるご主人様の細い身体を掻き抱くように抱き締めた。
ああ、本物は違う。
こんなにも違うのか。
愛でてもらえるのが、こんなにも気持ちいいなんて。
耳の付け根をこねてくれる手つきに恍惚のため息を零して、ご主人様の甘い香りを肺いっぱいに吸い込む。
オレはずっとこの愛をもらっていた。愛でてもらっていた。画面越しだけでも幸せだった。
でも、もっともっと幸せになる。同じ世界で息してるって幸せ。
大好き、ご主人様。愛してる、オレのご主人様。
クラクラと酔いしれていたら、急に抱き締めていたご主人様が腕の中から消えてしまった。
支えを失ったオレはずしゃんと地面の上に倒れる。そんなオレの上にぽふっと柔らかいものが降ってきた。
落とさないように先にそれを手に取ってから起き上がると、金色のふわふわもふもふの鳥。
空色のつぶらな瞳のぴよこだった。ご主人様が、ぴよこに戻った……。
「ぴよ……なんでぇ……」
ご主人様は弱々しい声を絞り出した。でも可愛い。よしよしと片腕に抱いて、頭を撫でておく。
「戻っちゃったね……。ん? あれ? 翼が四つになってるよ? ご主人様」
正確には戻ってなかった。ご主人様の翼は右に二つ、左に二つとなっている。翼が増えていた。
「尻尾も長いよ?」
翼の長さと同じくらいの尻尾が伸びている。
「進化、したのかな」
「ぴよこに進化系が……」
ちょっと噴き出して笑ってしまう。ぴよこの進化系って。ご主人様、面白い。
「あ、でも。そうなると何か経験値的なものを得たから、姿が変わったのかもね。進化」
ピコンと閃いて、オレはぴよこ姿のご主人様を自分の顔の位置まで持ち上げて言ってみた。
「経験値って……魔物は倒してないけれど」
「何事も、魔物を倒すだけでアップするわけじゃないでしょ。食事をしたとか」
「食事で進化……!」
嘴をあんぐりと開けるご主人様だけれど、他に考えらえるのはないんだよね。ご主人様、食事しかしてないし。タイミング的に、食べ終えたあとだったしね。
「戻ったのはどうして?」
「……力尽きた、とか?」
「……食べれば、また人の姿に戻れる?」
「んー?」
二人して、こてんと首を傾げ合った。
だめだな、情報が足りなさすぎる。
「ギルドマスターにもっかい聞こうか」
「そうだね。えっと、トルトアウェス様だっけ? あとその眷属。それから、シンに会える方法も確認しないと」
ちょっとすぐには返事が出来なかった。
天使みたいな姿になれるご主人様を独占したいなぁ……。
せめて、あと一回。ご主人様にまたもふもふしてほしい。
でも逆の立場だったら、早くご主人様に迎えに来てほしいから、我慢しよう。
「うん、そうだね」
ギルドマスターに、また神様とやらのことを聞かないと。
「……勝手に街の塀を飛び越えて出てきちゃったけれど、中に入れるかな」
「大丈夫だよ、出る者はチェック厳しくなかったから!」
しょぼんと心配するご主人様に、笑いかけてちっこい頭を撫でておく。
オレなしでは何も出来ないぴよこ姿もいいけれど、オレをもふもふしてくれる天使の姿もいいから、また人の姿になれるといいな。
※※※※※※
愛犬と愛猫がいたので、ナノカのもふもふレベルはカンスト。テクニシャン。
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