7 / 21
◇07 天使
しおりを挟む私は神様の眷属様の姿なので、悪目立ちをしないように、またレオのジャケットの下に隠してもらった。
ギルドマスターに紹介してもらった飲食店は、冒険者に人気な食堂。昼から活気ある賑わいに満ちた食堂の木目のカウンターにレオは一人で座った。メニューの木の薄い板を見て「読める」の一言。
私にも見えるようにしてくれたので、私もこの世界の文字が読めることを伝えた。
「何食べたい? ご主人様?」
なんてルンルンに尋ねてくる間も、猛獣の威嚇のようなお腹の虫を盛大に鳴らすレオ。
パレリアやらトマトパスタやら、わかりやすいメニューがあったので、無難にそれにしたらどうかと言うと「わかった! あと肉だね!」とレオは店員を呼びつけた。
「オススメの肉ください!!」
……お腹空いたんだね。たんとお食べ。
注文を終えてあとは待つだけ。
周りは賑わっているので、小さく話しても大丈夫だと判断をして「レオの直感通り、他の子もいたね」と小声で話す。
「そうだね。獣人は……いても問題ないのかなぁ? シンは獣化のまんまなのかなぁ……」
相槌を打ちながら、ジャケット下の私の顎下を指先でこしょこしょするレオ。周りを見る限り、獣人は見当たらないから、レオはフードを被ったままである。色んな服装の冒険者がいるので、不審がられてはいないようだ。
「まだ情報が足りないね。でも、シンは保護されてるみたいでよかった」
「んー、どうだろ」
レオは首を捻る。
え。保護されてるのに……? だめなの?
「シンも久しぶりにご主人様に会えるって思ったのに、急に異世界に放り込まれたら心細いんじゃないかな」
心細い……。胸がギュッと締め付けられた。
そうだよね。異世界で一人は心細いよね。
私はレオがいるからなんとかなっているけれども……。
「んー……オレはまだご主人様と二人きりがいいけどなぁ……。シンもご主人様に会いたくてしょうがないだろうなぁ」
……ん? 私? 私なのか……。
しれっと独占欲を明かすレオは思案するように目を閉じた。人差し指は私の顎下を撫でたまま。
……レオがヤンデレ気味なように、シンも激重感情抱いていたりするのだろうか。
「だから、お迎えは明日にしよう!」
前後の文脈があってない、だと……!? “だから”の使い方、おかしい!
目の前に出来たてホヤホヤの料理が並んでしまったので、シンの話は一旦中断。食事を始めた。
先ず、私にフォークで掬ったトマトソースのパスタの麺を差し出してくれたので、ツンツンとつついては、端っこを口に咥えてモグモグごっくんモグモグごっくん、と食べていく。濃厚トマトソース、美味しい。
「オレも食べるね、いっただきます!」
ちょうど運ばれたオーク肉のステーキ。ドンと積まれたのは、肉厚のステーキ肉は三枚だ。三人前ではなかろうか。間違いなく、ぴよこな私には一枚も食べきれまい。
「うまっ! すごい弾力! いい歯ごたえ! 肉汁たっぷりすぎる!」
しかし、そこは流石肉食獣の獣人レオ。美味しそうに頬張った。ニンニク醤油っぽいソースに塗れたそれをあっという間に完食。
「おかわり!」と満面の笑みで追加注文。特段、異常な食欲としては思われないようで「かしこまりました!」という元気な返事が返ってきた。その間、レオはパレリアを掻き込んだ。食べ盛り、すごい。
「で? お前は白虎様を見たのか?」
レオの背後にあるテーブルの席の客から、白虎様ことシンの話題が出されたので、私もレオも耳を傾けた。
「おうよ。ご利益はもらえるもんならもらいてぇーからな。でも覇気がないっつーか、元気がない様子だったぜ」
「ああ、オレも昨日のうちに見たが、そんな感じだったな。貢ぎ物にもあんま興味を示さないってよ」
「吉兆の幻獣種様が、そんなんじゃあ不吉じゃねーか?」
シンが元気ない……? 体調が悪いのかな……? 大丈夫だろうか……。
さっきレオが言ってたように、一人で心細いのかもしれない。
レオは陽気なムービーメーカーだけれど、白銀の虎の獣人であるシンは、柔和な微笑みを称えた敬語キャラである。穏やかで優雅な振る舞いをするキャラだ。ちょっと繊細なところもある。
食事を終えたら、ギルドマスターからまた情報をもらってお金をもらって、シンに会えるところへ連れてってもらえないか交渉しようか。
ドン、とまた三枚てんこ盛りオーク肉ステーキが置かれた。私の残したパスタすらも平らげたレオは、ザックリとナイフで切り取っては、パクパクと食べていく。
よく昨日はあの兎肉で足りたなぁ、と感心してしまう食いっぷり。いや、足りなかったから、今ドカ食い状態なのだろうけれども。
「ん? ご主人様も食べたい? オーク肉」
まじまじと観賞している私の視線に気付いたレオは、オーク肉を食べてみたいのかと問う。
いや、魔物とはいえ、二足歩行する人に近い魔物の肉となると、抵抗があるから遠慮……。
「待ってね。ご主人様にはちょっと硬いから……はい、ん!」
……ん!? “ん!”って何!? え!? 口移し!? 咀嚼して柔らかくしたステーキを口移し!?
しませんから!! そもそも遠慮します!! と思わずべしりと左の翼で美形の顔面にツッコミを入れてしまった。
「キャッ!?」
悲鳴が上がる。タイミング的に、レオのジャケットから翼が出てきたところを目撃して、驚いて悲鳴を上げてしまったに違いない。
「……金色の……翼……!?」
「やべっ」
ギルドマスターの滂沱の再来を察知して、レオはステーキ肉を口に掻き込んだ。
ちゃんと噛んで食べなさい! と言いたいところだけれど。
「金色の翼だって?」
「神様の眷属様か……?」
「おいそんな、まさか。白虎様に続いて?」
周囲もこちらを意識してざわざわし出し始めた。
「ごちそうさまでしたっ!!」
ダンッと乱暴にお金を置いて、レオは店を飛び出そうとするけれど、そこで私に異変が起きる。
「うっ!」
急に、カッと身体が熱くなった。沸騰して弾けるかと思った。
「レ、レオッ!」
「!! うわあ!?」
思わずレオに助けを求めたけれど、レオの方はズテンッとその場でひっくり返ってしまう。
恐らく急に現れた重さと大きさに驚いて、倒れてしまったのだろう。
ひっくり返ったレオにしがみつく色白い両手がある。翼じゃない。小さく見えるけれど確かに人の両手があった。人の姿になってる。掌をひっくり返して、何度も自分のモノだと確認する。
食堂内は、レオを含めた誰もが息を呑んだから、静まり返っていた。
「ご主人様! 翼閉じて!」
「翼!? え!? どこ!?」
両手はありますけど!?
と、ぴよこ姿じゃないのに一体どこに翼があるのかと思いきや、視界に周囲も多いそうな大きな翼が映り込んだ。
背中に翼が生えてる!?
ギョッとした咄嗟に縮こまると、翼らしきモノを畳めた。
「掴まってて!!」
「ギャン!」
ギリギリセーフで食堂の扉を抜け出すなり、レオはボンッと獣化して、獅子の姿となって向いの建物の屋根を目指して飛んだ。振り下ろされないように鬣を握って首にしがみついた。
食堂がとんでもない歓声が上がっている気がするのだけれど、気にせいであってほしい……。
風魔法でブーストをかけてビュンビュンと駆けていくレオは、本日三度目になる森へ戻ったのである。
森に避難した頃には、腕が痺れた。ぷるぷるである。筋力がなさそうな細い二の腕が震えた。
私、こんなに腕細かったかな……。しかも、肌がすんごい白い……。
半獣人姿のレオは、ぱぁああっと輝かんばかりの眼差しで私を見下ろしてきた。見下ろされている。
「あれ……? レオって……百九十センチくらいだったよね? 身長」
そういうプロフィールだということは覚えているので、顎に手を添えて見上げた。
「うん、百九十一センチ」
じっとキラキラさせた目で見つめてくるレオは、嬉しそうに頷く。
「……」
自分の頭の上に手を置いて、レオの頭に手を伸ばそうと背伸びした。
「…………明らかに縮んでない!? 私、百六十センチはあったはずだけど!?」
十分身長差はあれど、元より差がある気がしてならない。
「うーん、ていうかね、ご主人様。顔立ちはご主人様のものに近いんだけどねぇ……髪色も目の色も違うし、多分幼くなってるよ。どっからどう見ても、美少女」
ニコニコしているレオがひと房、手に取るのは金色の髪。私の肩から滑り降りているものだ。
「ていうか、天使!」
うっとりと見つめるレオの視線を追いかけて、背中を振り返る。
翼が生えていた。金色と一言片付けられない美しい色合いは幻想的。透けるような金色、黄金のような金色、白にも見える金色。美しい金色の羽根だけが集まったような、長く美しい大きな翼だった。
端から見れば、天使に見間違う翼だ。
私は白の半袖の短いワンピースとかぼちゃパンツ姿。ちなみに靴はないので素足だ。
ぴよこ姿と同じく、髪色は羽毛の金色で、瞳の色は水色。しっかり社会で社畜していた女だったのに、少女の姿となってしまった。
「ナノカ様、可愛くて綺麗……!!」
神様……どういうことですか……。
334
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる