イケもふ達とぴよぴよご主人様の異世界ライフ!

三月べに

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◇07 天使

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 私は神様の眷属様の姿なので、悪目立ちをしないように、またレオのジャケットの下に隠してもらった。

 ギルドマスターに紹介してもらった飲食店は、冒険者に人気な食堂。昼から活気ある賑わいに満ちた食堂の木目のカウンターにレオは一人で座った。メニューの木の薄い板を見て「読める」の一言。
 私にも見えるようにしてくれたので、私もこの世界の文字が読めることを伝えた。

「何食べたい? ご主人様?」

 なんてルンルンに尋ねてくる間も、猛獣の威嚇のようなお腹の虫を盛大に鳴らすレオ。

 パレリアやらトマトパスタやら、わかりやすいメニューがあったので、無難にそれにしたらどうかと言うと「わかった! あと肉だね!」とレオは店員を呼びつけた。

「オススメの肉ください!!」

 ……お腹空いたんだね。たんとお食べ。

 注文を終えてあとは待つだけ。
 周りは賑わっているので、小さく話しても大丈夫だと判断をして「レオの直感通り、他の子もいたね」と小声で話す。

「そうだね。獣人は……いても問題ないのかなぁ? シンは獣化のまんまなのかなぁ……」

 相槌を打ちながら、ジャケット下の私の顎下を指先でこしょこしょするレオ。周りを見る限り、獣人は見当たらないから、レオはフードを被ったままである。色んな服装の冒険者がいるので、不審がられてはいないようだ。

「まだ情報が足りないね。でも、シンは保護されてるみたいでよかった」
「んー、どうだろ」

 レオは首を捻る。
 え。保護されてるのに……? だめなの?

「シンも久しぶりにご主人様に会えるって思ったのに、急に異世界に放り込まれたら心細いんじゃないかな」

 心細い……。胸がギュッと締め付けられた。
 そうだよね。異世界で一人は心細いよね。
 私はレオがいるからなんとかなっているけれども……。

「んー……オレはまだご主人様と二人きりがいいけどなぁ……。シンもご主人様に会いたくてしょうがないだろうなぁ」

 ……ん? 私? 私なのか……。

 しれっと独占欲を明かすレオは思案するように目を閉じた。人差し指は私の顎下を撫でたまま。

 ……レオがヤンデレ気味なように、シンも激重感情抱いていたりするのだろうか。

「だから、お迎えは明日にしよう!」

 前後の文脈があってない、だと……!? “だから”の使い方、おかしい!

 目の前に出来たてホヤホヤの料理が並んでしまったので、シンの話は一旦中断。食事を始めた。

 先ず、私にフォークで掬ったトマトソースのパスタの麺を差し出してくれたので、ツンツンとつついては、端っこを口に咥えてモグモグごっくんモグモグごっくん、と食べていく。濃厚トマトソース、美味しい。

「オレも食べるね、いっただきます!」

 ちょうど運ばれたオーク肉のステーキ。ドンと積まれたのは、肉厚のステーキ肉は三枚だ。三人前ではなかろうか。間違いなく、ぴよこな私には一枚も食べきれまい。

「うまっ! すごい弾力! いい歯ごたえ! 肉汁たっぷりすぎる!」

 しかし、そこは流石肉食獣の獣人レオ。美味しそうに頬張った。ニンニク醤油っぽいソースに塗れたそれをあっという間に完食。

「おかわり!」と満面の笑みで追加注文。特段、異常な食欲としては思われないようで「かしこまりました!」という元気な返事が返ってきた。その間、レオはパレリアを掻き込んだ。食べ盛り、すごい。

「で? お前は白虎様を見たのか?」

 レオの背後にあるテーブルの席の客から、白虎様ことシンの話題が出されたので、私もレオも耳を傾けた。

「おうよ。ご利益はもらえるもんならもらいてぇーからな。でも覇気がないっつーか、元気がない様子だったぜ」
「ああ、オレも昨日のうちに見たが、そんな感じだったな。貢ぎ物にもあんま興味を示さないってよ」
「吉兆の幻獣種様が、そんなんじゃあ不吉じゃねーか?」

 シンが元気ない……? 体調が悪いのかな……? 大丈夫だろうか……。

 さっきレオが言ってたように、一人で心細いのかもしれない。

 レオは陽気なムービーメーカーだけれど、白銀の虎の獣人であるシンは、柔和な微笑みを称えた敬語キャラである。穏やかで優雅な振る舞いをするキャラだ。ちょっと繊細なところもある。

 食事を終えたら、ギルドマスターからまた情報をもらってお金をもらって、シンに会えるところへ連れてってもらえないか交渉しようか。

 ドン、とまた三枚てんこ盛りオーク肉ステーキが置かれた。私の残したパスタすらも平らげたレオは、ザックリとナイフで切り取っては、パクパクと食べていく。

 よく昨日はあの兎肉で足りたなぁ、と感心してしまう食いっぷり。いや、足りなかったから、今ドカ食い状態なのだろうけれども。

「ん? ご主人様も食べたい? オーク肉」

 まじまじと観賞している私の視線に気付いたレオは、オーク肉を食べてみたいのかと問う。
 いや、魔物とはいえ、二足歩行する人に近い魔物の肉となると、抵抗があるから遠慮……。

「待ってね。ご主人様にはちょっと硬いから……はい、ん!」

 ……ん!? “ん!”って何!? え!? 口移し!? 咀嚼して柔らかくしたステーキを口移し!?
 しませんから!! そもそも遠慮します!! と思わずべしりと左の翼で美形の顔面にツッコミを入れてしまった。

「キャッ!?」

 悲鳴が上がる。タイミング的に、レオのジャケットから翼が出てきたところを目撃して、驚いて悲鳴を上げてしまったに違いない。

「……金色の……翼……!?」
「やべっ」

 ギルドマスターの滂沱の再来を察知して、レオはステーキ肉を口に掻き込んだ。
 ちゃんと噛んで食べなさい! と言いたいところだけれど。

「金色の翼だって?」
「神様の眷属様か……?」
「おいそんな、まさか。白虎様に続いて?」

 周囲もこちらを意識してざわざわし出し始めた。

「ごちそうさまでしたっ!!」

 ダンッと乱暴にお金を置いて、レオは店を飛び出そうとするけれど、そこで私に異変が起きる。

「うっ!」

 急に、カッと身体が熱くなった。沸騰して弾けるかと思った。

「レ、レオッ!」
「!! うわあ!?」

 思わずレオに助けを求めたけれど、レオの方はズテンッとその場でひっくり返ってしまう。

 恐らく急に現れた重さと大きさに驚いて、倒れてしまったのだろう。

 ひっくり返ったレオにしがみつく色白い両手がある。翼じゃない。小さく見えるけれど確かに人の両手があった。人の姿になってる。掌をひっくり返して、何度も自分のモノだと確認する。

 食堂内は、レオを含めた誰もが息を呑んだから、静まり返っていた。

「ご主人様! 翼閉じて!」
「翼!? え!? どこ!?」

 両手はありますけど!?

 と、ぴよこ姿じゃないのに一体どこに翼があるのかと思いきや、視界に周囲も多いそうな大きな翼が映り込んだ。

 背中に翼が生えてる!?

 ギョッとした咄嗟に縮こまると、翼らしきモノを畳めた。

「掴まってて!!」
「ギャン!」

 ギリギリセーフで食堂の扉を抜け出すなり、レオはボンッと獣化して、獅子の姿となって向いの建物の屋根を目指して飛んだ。振り下ろされないように鬣を握って首にしがみついた。

 食堂がとんでもない歓声が上がっている気がするのだけれど、気にせいであってほしい……。


 風魔法でブーストをかけてビュンビュンと駆けていくレオは、本日三度目になる森へ戻ったのである。

 森に避難した頃には、腕が痺れた。ぷるぷるである。筋力がなさそうな細い二の腕が震えた。

 私、こんなに腕細かったかな……。しかも、肌がすんごい白い……。

 半獣人姿のレオは、ぱぁああっと輝かんばかりの眼差しで私を見下ろしてきた。見下ろされている。

「あれ……? レオって……百九十センチくらいだったよね? 身長」

 そういうプロフィールだということは覚えているので、顎に手を添えて見上げた。

「うん、百九十一センチ」

 じっとキラキラさせた目で見つめてくるレオは、嬉しそうに頷く。

「……」

 自分の頭の上に手を置いて、レオの頭に手を伸ばそうと背伸びした。

「…………明らかに縮んでない!? 私、百六十センチはあったはずだけど!?」

 十分身長差はあれど、元より差がある気がしてならない。

「うーん、ていうかね、ご主人様。顔立ちはご主人様のものに近いんだけどねぇ……髪色も目の色も違うし、多分幼くなってるよ。どっからどう見ても、美少女」

 ニコニコしているレオがひと房、手に取るのは金色の髪。私の肩から滑り降りているものだ。

「ていうか、天使!」

 うっとりと見つめるレオの視線を追いかけて、背中を振り返る。

 翼が生えていた。金色と一言片付けられない美しい色合いは幻想的。透けるような金色、黄金のような金色、白にも見える金色。美しい金色の羽根だけが集まったような、長く美しい大きな翼だった。

 端から見れば、天使に見間違う翼だ。

 私は白の半袖の短いワンピースとかぼちゃパンツ姿。ちなみに靴はないので素足だ。

 ぴよこ姿と同じく、髪色は羽毛の金色で、瞳の色は水色。しっかり社会で社畜していた女だったのに、少女の姿となってしまった。

「ナノカ様、可愛くて綺麗……!!」

 神様……どういうことですか……。


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