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◇06 神様の眷属様

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 神様の眷属様。どうにも仰々しい呼び方である。

 どういうことか。尋ねたかったが、私から口を開くのもアレだろうしと、レオをチラリと振り返った。

「神様の眷属様って、なんのことですか?」

 意図を汲んで、レオは代わりに尋ねてくれる。

「な、何を言う! 金色の羽毛の鳥は皆、神様の眷属様に決まっているじゃないか!!」

 鼻息荒く訴えるギルドマスターが言うには、この世界としては金色の鳥は神様の眷属ということになるらしい。眷属様と呼ばれるほどだ。このぴよこ姿は魔物扱いとは真逆の対応をしてもらえるようで、ちょっと胸を撫で下した。

「神様といったら……えっとぉ……?」
「創造神のトルトアウェス様に決まっているじゃないか!! ハッ! だからか……! その凄まじい雷魔法を操るのは、神様の眷属様のしもべだからか!?」

 レオが神様の名前を聞き出すと、ギルドマスターは何かを悟った顔でレオを見やる。

 創造神……この異世界の生みの親のような神様ということだろうか。とるとあうぇす……さま。

「それって黄色っぽい鳥の姿だったりする?」
「バッカもん!!!」
「ぴよ!」

 私達異世界転生に関係あるかもしれない例の鳥について関連を確認しようとしたレオに向かって、勢いよく立ち上がったギルドマスターは怒号を飛ばした。ビックリ。

「トルトアウェス様といえば、美しい黄金の翼を持つ巨鳥の姿だろうが!!!」

 私は目を真ん丸にした。神様も鳥の姿なのか……。それで私のようなぴよこでも眷属様と呼ばれるのか。

 ギルドマスターは熱狂的な信者なのだろうか。それとも元々信仰が強いのかな、その神様には。

「この子。オレを強くしてくれた大切なご主人様なんだけれど、この姿にされたってことはその神様から恩恵をもらったって解釈でいいんですよね?」
「ぴよっ」

 またもや自分の直感に従ったのか、私を持ち上げてレオは姿が変わったのだと打ち明けては尋ねた。

 すると、ギルドマスターは膝から崩れ落ちてしまう。

「神トルトアウェス様に恩寵をもらった真の眷属様……!!」

 涙が滂沱してしまった。感激のあまり、片方の目から涙を溢れさせてしまったギルドマスター。最初の厳つい強面の強者風格はいずこやら。完全なるキャラ崩壊である。

「お会い出来て、誠に、っ、光栄、ですっ」と咽び泣きつつ、感謝を絞り出した。

 とにかく。私の姿がぴよこになっていることも理由で、異世界転生はその創造神が関わっているのね。私が助けたインコみたいな黄色っぽい鳥も、神様本人かその眷属だったのだろう。ベタにお礼として異世界転生してくれたということだろうか。
 お礼が……ぴよこ転生。……複雑。

「……ご主人様、オレ、お腹空いちゃった。一回、お昼休憩しよ」

 眉を下げたレオと向き合う形にされて、そう言われた。そんなレオのお腹からは猛獣の唸り声のようなお腹の虫が鳴り響く。グルルッだって。

「ギルドマスターさん、すみません。一度食事に行きますので、またあとでお話を聞かせてもらってもいいですか」

 うっかり私から話しかけてしまった。男泣きしていたギルドマスターはカチンと固まったあと、また滂沱する。

「お待ちしております!! 眷属様!!」

 ぴよこ姿、とても好都合だった。

「白虎様に続いて、眷属様までお出でなさったなんて! なんたる吉兆! ここのギルドマスターになってよかった!」

 ピタリ。

 レオが私を抱えて部屋にあとにしようとが、ギルドマスターの言葉に反応して一時停止する。しかし、振り返るかどうか悩む動作となった。お腹の虫が急かすようにギュルル、ギュルルゥと鳴っているが、聞き流せない単語が聞こえたので、動くに動けないありさま。

「…………あとで来るからいいよね」

 たっぷり悩んだ末に、レオは後回しにしたいと言い出す。

「だめでしょ!」

 私は嘴でレオの腕をつついて叱った。
「あいてっ」と痛がったあと、しぶしぶソファーに戻るレオは、膝の上に私をまた置く。

「その白虎様について、詳しく聞いてもいいですか?」
「ズッ! はい! なんなりと!」

 鼻を啜って、ギルドマスターは元気な声で返事した。

 白虎。白い虎。

 私が愛でていたキャラは、白銀の毛並みの虎だった。見ようによっては、白い虎だ。
 偶然ではないだろうと確信を持って、話を聞いた。

「昨日のことです。街の外の草原に、唐突として神々しい白の毛並みの虎が現れたのです。白い虎は幻獣種、白虎様に違いないと街がもろ手を挙げて歓迎したのです。金色の鳥の次に、吉兆の存在ですからね。王族並みの待遇でもてなしているところです」

 昨日唐突に現れた。それは私達と同じタイミングということか。
 そして、この街にいるらしい。

 幻獣種とは、神に近い幻の獣。崇拝するべき種族だという。

「その白虎様に、名前はあるのですか?」
「ええ、ええ、名乗っておりましたよ。名前はそう……シンと名乗っておいででした」

 間違いない、私が愛でていた白銀の虎の獣人【シン】だ。
 やっぱり私達と同じく、この世界にいた。

 グゴゴゴォ。

 猛獣のいびきのような音が響いてきたかと思えば、レオのお腹の虫だった。

「もういい? お昼ご飯……」

 しょぼんと眉毛を垂らして涙目なレオが可哀想なので、【シン】も手厚い待遇を受けているだけらしいので、一先ず食事に行くことにした。

 一文無しなので、前借りは忘れない。

 レオは弾む足取りで、ギルドマスターおすすめの飲食店を目指した。


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