イケもふ達とぴよぴよご主人様の異世界ライフ!

三月べに

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◇04 初めての街と冒険者ギルド

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 全部夢だったなんてオチではなく、目が覚めてもイケもふの腕の中にいた。ぴよこの姿で。

 ぴよこは、ひよこのようでひよこではない鳥のことである。勝手に自称しているだけだけれども。

 飛べない鳥である私の代わりに、イケもふことオレンジ色の獅子の獣人であるレオは、風魔法で木よりも高く飛んだ。私は下で待ってると言ったのに、両腕にしっかり抱き締められて問答無用で上空へ連れていかれた。

 わ、わーい、たかいたかい……。

 レオの両腕の中でカタカタ震えつつ、勇気を振り絞って周囲を確認した。
 森がとてつもなく広いようだから、もっと高くから見渡さないといけなかった。

 わ、わぁー、たかいたかい……。

「あ。ご主人様。あそこの山の方、街みたいなの見えるよ」
「ぴよぉ……ホントだ。あそこが一番近い街かな」

 山がぽつんとある方角に街らしきものが見えたので、一度地上へ降りる。

「とりあえず、あっち行ってみる?」
「うーん……そうしないと情報が得られないだろうし、行くしかないよね」

 こてんと首を傾げて言ってから、じっとレオの頭の上の真ん丸キュートなライオン耳を見つめた。

「問題は獣人がいる世界なのかどうかだよね……」
「魔物がいるならいるんじゃない? まぁ、あの街に受け入れてもらえるかどうかだよね」

 唯一の頼りであるレオが、街に入っても安全かどうか。

「そもそも言葉通じるのかな……」
「通じると思うよ? オレ達が話してるのって共通語だし」
「……共通語???」
「うん。ご主人様にも通じる言葉を話してる」

 ニコッと笑って見せるレオは、なんてことないみたいに言い退ける。
 ……レオは日本語を話しているようで話していないってこと……? 異世界転移や転生あるあるの言語共通チートかな……。そう思っておこう。

「オレの耳と尻尾は隠しておけばいいでしょ!」

 ジャケットにはフードがついていたので、それを深く被って丸っこい耳を隠した。後ろでゴソゴソしているから、尻尾も隠しておいたのだろう。

「んで、あとはご主人様だよね」
「ぴよ……」

 また置いて行かれたくなくて、思わず両方の翼でレオの手を包み込む。

「うん、置いてかないよ。ご主人様は窮屈かもしれないけど、オレの懐に入ってて? ぴよこがいてもいい世界かはわからないから念のために。ね!」
「ぴよぉ」

 魔物扱いされたらどうしよう……。ただのぴよこなのに。

 しょんぼりしつつ、試しにレオのジャケットの中にしまわれた。ジャケットの中に突っ込み、脇に抱えるように片腕で支える形にするらしい。

「よし」と確認が出来て満足げなレオは、私を自分の頭の上に乗せると、ふわりと雲のような煙を撒き散らして獣化した。温かみあるオレンジ色の毛並みの凛々しい獅子だ。

「鬣にしっかり掴まってて、ご主人様。森を抜けるまで、走るから」
「ぴよ!?」

 ぴょんぴょんと跳ねるようなステップで移動を始めたかと思えば、ビュンッと風の中を突き抜けるスピードで駆け抜け始めた。そんなレオの太陽色の鬣をひしっと鳥脚でしがみついたけれど、それだけじゃあ足りなくて翼でもひしっとしがみつく。効果はない気がする。

「あ。オークだ」
「ぴよよよー!!」
「えいっ!」

 長身のレオを軽く超える巨体の魔物が一匹、立ち塞がったけれど、それを軽々と飛び越えたレオは火魔法を放って火だるまにした。骨すら残さない勢いだ。
 豚顔だった二足歩行の魔物を瞬殺したレオは、足を止めることなく森を駆け抜けていく。

 ぴえええんっ。

 私がログインしていた時まで、魔法レベルはカンストまで育成していたおかげか、そのあとも出没する魔物を瞬殺していくレオ。

 何もしてないけれど、森を抜ける頃には疲労困憊だった。

「ふー。いい運動だった!」

 いい汗かいたと爽やかに笑うレオがモクモクの煙を撒き散らして、半獣人の姿に戻る。
 よしよしと片腕に抱いた私の背中を撫でてくれた。
 足はともかく、翼がプルプル震えるよ……生まれたてのぴよこだよぉ……。

「見晴らしいがいいねぇ」

 レオが草原を歩いていき、道らしい道を見付けたのでそこを辿っていく。

「ご主人様、ちょっと飛ぶよ~」と、一声かけてくれたレオは、風魔法でビュンと駆け抜けた。移動距離を短縮。フードを被り直したレオは「どんな街だろうねぇ」と、私に話を振ってくれた。

「街に入れるかな……身分証とかないし」
「そういうのって、冒険者の登録とかがテンプレだよね」

 レオもテンプレ知ってるんだね。

「まぁ、紛失しましたって言ってその対応に任せてみればいいんじゃないかな!」
「……一文無しだから不安だよね」
「盗難にも遭ったって言っておこう」
「レオなら上手くやれそうな気がしてきた」
「任せて! ご主人様!」

 ケロッと言い退けるレオなら、あっさり信用されそうだ。むしろ逆の立場だったら、私は上手く嘘がつけなかったかもしれない。

 あとは、言葉の問題よね。通じるといいけれど……。そこで躓いたら、先に進めない。

 不安に思っていていれば、ジャケットの中に押し込められた。どうしたのかと思えば、パカラパカラと足音。カタカタと車輪が回る音もした。馬車だ。

「こんにちは」
「こんにちはー」

 ジャケットから覗き込むと、ちょうど馬車の御者が帽子を脱いで会釈をした。それに挨拶を返すレオ。
 馬車が横切って離れたところで、声を潜めてレオは話しかけてきた。

「聞こえた? オレ、言葉通じたよ。ご主人様は?」
「“こんにちは”って聞こえたよ! よかった、言葉の壁はないみたいだね」

 不安が吹っ飛んだ。次は、レオが街に入れるかどうかだね!

 見えてきた街は、三メートルほどの壁に囲まれていた。それに魔物の侵入対策なのか、深い堀もあって、橋を渡って門番に審査を受けてから、ようやく中に入れるらしいことは見受けられる。

 ジャケットの中から見てみたけれど、並んでいる人達はみんな人族に見えた。レオの耳や尻尾を隠して正解だったのかもしれない。もちろん、私も隠れていた方がよかったと思う。
 大人しく列に並んでいて、ようやくレオの番が来た。

「すみません、オレ、荷物を盗まれちゃって、身分証とか失くしました! 一文無しです!」

 潔い一言。陽気なムービーメーカーだからこそ、なんか許せそうな空気感がある。光属性の主人公の如くの曇りなき笑顔。流石、レオである。

「……冒険者か?」

 胡乱気な目を向ける門番の男性は、多分荷物を盗まれたのにヘラヘラしているレオに呆れているのだろう。
「はい!」と嘘ではない返答をする。この世界の冒険者ではないけれど、一応冒険者ではあるから。

「じゃあ、真っ直ぐ冒険者ギルドに行って再発行してもらってください。あとの手順はそこで聞いてください。次」
「ありがとうございましたぁー!」

 レオは難なく街の門をくぐって中に入った。

「やったね! ご主人様!」と小声で声をかけてきては、ジャケットの上からポンポンと軽く叩いてくるレオに、私も褒めてあげたかったけれど、怪しまれないように黙っておく。

 真っ直ぐと言われた通り、道を真っ直ぐ進むと『冒険者ギルド』の看板がどっしり構えた建物を見付けた。公民館みたいにしっかりした建物の扉をくぐると、ザ・ファンタジーの冒険者で溢れている。

「ご主人様。ここでは、新規登録してもらうね」
「うん」

 こそっとジャケットの中の私に言うので、私は小さく頷いておいた。

 ちゃんと出来るかはさておき、レオの冒険者登録は新登録がいいだろう。どういうシステムかはわからないけれど、共有していたら再登録出来ないことが発覚して虚偽だとバレてしまうから、それは避けないと。

「荷物が盗まれて一文無しなんですけど、冒険者登録出来ますかー?」

 冒険者ギルドの受付のお姉さんに、レオはこれまた明るく尋ねた。

「それは災難でしたね。そうなると……救済処置で、依頼をこなしてもらえれば、冒険者登録が可能となります。前提として、鑑定玉にて強さを測らせていただき、必要最低限のレベルにあれば可能です」

 レオを見るなり、やや猫撫で声を出すお姉さんは、鑑定玉とやらをコトリと置いて見せる。
 レオのイケメンさにやられてますな、この受付嬢。
 鑑定玉ってどこまでわかるのかな……。異世界人とか、獣人とか、バレるかな……。

「鑑定玉では何がわかるんですか?」

 ニコニコのレオが尋ねるから、お姉さんもニコニコで答える。
 鑑定玉に触れた対象のトータルの強さを、数字で表示するという。

 ……魔法レベルがカンストしているレオは、かなりの高レベルに表記されるのではないだろうか……。

 大丈夫かな、と心配しつつも、鑑定しなければ始まらないので、レオの鑑定結果を待った。
 ポッと淡く光る水晶玉。

「100オーバー!?」

 驚愕で仰け反るお姉さんを見て、これはやらかしたレベルなんだろうなぁと察する。

「ど、どうして、レベル109に!? あなた何者ですか!?」
「ああ、オレ、結構魔法とか強いんだけど……大切な人の愛のおかげだよ」
「ッ……!」

 ふわりと微笑むレオを目の当たりにして、お姉さんは胸を押さえてうっとりと見惚れていた。絶対トゥクンきたでしょ。イケメン、罪深い……。

 …………大切な人って私!? あれ!? 愛って、私の!? 流れ弾きた! ドッキーン!

「お、お名前は……」
「レオ。ただのレオだよ」
「レオ様……レオ様は、レベル109と高レベルの強さを秘めております。通常の段取りだと、薬草採取の依頼を勧めるのですが、魔物討伐でも問題ありません」
「それなら、この街に来る途中で何匹か討伐したな」
「流石レオ様です! その魔物でも構いません。爪や角、牙、もしくは本体を運んでいただければ、鑑定が出来て、それに応じた報酬をお出し出来ます」

 最早レオに目をハートにしているお姉さん。メロメロだね。

「魔物の本体は、高値なの?」
「それはもちろん、種類にもよりますが、美味しいですからね」

 上手いことに、レオは魔物が食べれるという情報を引き出した。

「……もったいないことしたな」

 ボソリと呟いたレオを見上げたところ、きゅるるっと小さくお腹の虫の音が耳に届く。

 レオ……いっぱい走ったし、歩いたからお腹空いたんだね……。

 魔物、食べられる異世界でした。


 
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