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◆03 【レオ】
しおりを挟む自分が『イケもふゲーム』のキャラクターだって自覚はあった。
そういうモンだっていう自覚を持って、ご主人様を待って、『おかえりなさい』って出迎えて、めいっぱい愛でてもらう。それだけで幸せだったんだ。
ナノカご主人様に愛を注がれているって、ちゃんとわかっていたから。
画面越しの触れ合いだけで幸せいっぱいだったんだ。
――はぁ、疲れたなぁ……。
そう零して、無心にオレ達をもふもふと愛でるご主人様が増えた気がしたのは、気のせいじゃなかった。
――もう疲れたよぉ……しんどいよぉ……。
今までに聞いたことないほどに弱々しい声で、涙をボロボロに零すご主人様は、仕事の愚痴もボロボロと落としていった。
つらいんだって。忙しくて息もつかないんだって。先輩がきつく当たるんだって。
泣かないで、ご主人様。オレ……涙を拭えないから。画面越しじゃあ、オレ達はご主人様の涙を舐めてあげられない。
今まで指先でもふもふしてもらえるだけで満足していたのに。今だけはオレ達とご主人様の間にある壁が、恨めしかった。
オレ達みんなを獣化しても、もふもふをし続けたご主人様は、やがて行ってしまった。
それが、最後のログインだった。
大人しく待っていたけれど、寂しくて寂しくてしょうがなかった。それに、心配でしょうがない。
大丈夫かな、ご主人様。
無理してないかな。
泣いてないかな。
『お出迎え担当』のオレは、じっと真っ黒のスクリーンを見つめてひたすら待った。
おかえりなさいって言うんだ。オレが笑顔で出迎えれば、ご主人様は顔を綻ばせて喜んでくれるから。
オレはずっとご主人様の『お出迎え担当』だもん。ご主人様の喜んだ顔を、一番見てると言っても過言じゃない。
待ってるよ、ご主人様。だから早く帰ってきて? 大好きなご主人様……。
オレ達はここにいるよ。癒されに来て。
帰ってきて、ご主人様。
ログインの気配がしたのは、最後のログインから一体何日、何週間、何ヶ月経った頃だろうか。
ご主人様が帰ってくる……!
お出迎えを準備しないと!
久しぶりだって、おかえりなさいって言わないと!
ご主人様の喜んだ顔が、早く見たい!
……あれ? まだスクリーンが明るくならないな。あ、そっか。アップデートダウンロード中か。早く、早く。
ご主人様に会える。もふもふして。オレで、オレ達で癒されて。
ご主人様……大好き。大好き。
パッ、と白い光がご主人様が映るはずのスクリーンから放たれたかと思えば、オレは森の中にいた。
澄んだ森の中の空気を吸い込み、木の葉の隙間の青空を見上げて、それから目の前にいる鳥に目を留める。
ひよこみたいにふっくらとした体型だけれど、鳩並みの大きさで、羽毛が金色の鳥がいた。
どうしてかはわからない。でも、この鳥……。
「ご主人様……?」
ナノカご主人様だと思った。
ご主人様は、人間だ。でも、この鳥がナノカご主人様だと思えた。
鳥は眠っているのか、鎮座して動かない。ツンツンと人差し指で横の羽をつつく。ぷすりと羽毛に埋まる。ツンツンし続けた。
やがて、目が覚めた鳥に声をかけると、やっぱりご主人様だったのだ。
だって、大好きなご主人様の優しい声だったもん。
つぶらな瞳は水色だけれど、優しい眼差しが同じなんだもん。
どうしてだが、オレ達は異世界に来ちゃったし、ご主人様は金色のぴよこみたいな鳥になっちゃった。
原因は、ご主人様がインコみたいな鳥を助けたあと、トラックに轢かれたかもしれないってこと。それを聞いてショックを受ける。
ご主人様……死んじゃったの……?
でも、今は生きてると慌てて言ってくれるご主人様に、ホッとした。
ご主人様は鳥の姿だけれど、同じ世界にいる。同じ世界に生きているんだ。画面越しじゃなくて、ご主人様に触れられる。抱き締められるんだ。
魔法が使えるからって調子に乗って狩りに行ったら、ご主人様が一人は怖いって泣いちゃった。オレは抱き締められるし、撫でてあげられるし、涙も拭えた。
もう一人では泣かせない。
嬉しいな……ご主人様と同じ世界で生きるって、なんて幸せなんだろう。
それにご主人様は、オレが頼りだって。飛ぶことも出来ない不自由な鳥の姿だから、オレなしじゃあだめなんだって。
……ふふふっ。オレなしじゃあ生きれないご主人様か。いいなぁ、いいね。
狩りも出来ない、魔法も使えない、簡単な調理も出来ない。オレが食べさせてあげなくちゃ。
ふふふっ、鳥に給餌なんて求愛行動みたいだね。
オレなしじゃあ生きていけないご主人様。
オレばかりに任せていることに申し訳なさそうに俯くけれど、全然平気だよ。
ご主人様をお世話出来て嬉しいんだから。
だってもうご主人様がメンタルをボロボロにしてまで働くことはしなくていいんでしょ。息もつけないような忙しさに襲われなくていい。きつく当たる先輩とやらにも、もう会わない。
まだ何もわからない異世界だけれど、オレにはご主人様が育成してくれた魔法がある。守ってあげられるよ。守るよ、オレのご主人様。
ジャケットを枕代わりにして横になって、両腕の中にぴよこ姿のご主人様を大事にしまい込む。
暗くなった途端、もうご主人様はうとうとし始めた。
もふもふした羽毛を味わうように背中を撫でてあげれば、瞼を閉じる。
「すぴー」と小さな寝息が聞こえた。
すりすりとご主人様に頬擦りをする。ご主人様の手でもふもふしてもらえないのは寂しいけれど、それ以上に一緒の世界に生きていられるなら、十分だ。それに翼でも頭を撫でてくれるしね。
もふもふする側ってこんなに気持ちいいんだね。だからご主人様はいつも嬉しそうにもふもふしてくれたんだ。
すぅーと息を吸い込んで、ご主人様の匂いを嗅ぐ。この匂いは覚えた。はぐれる気は毛頭ないけれど、離れても絶対にこの匂いを嗅ぎつけて見付けてあげるからね。
ずっとずっと、一緒だよ。ご主人様。
オレなしじゃあ生きられないんだから、ずっと一緒にいようね。
オレがお世話して、守るからね。大好き、ご主人様。
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