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『最愛の恋人』の愛情表現【end】
しおりを挟む家に帰ってから、父にヒロインの男爵家の付近で出資していないかと尋ねた。知りたい理由を問われたから、率直に「私とイサーク様に、よくわからない因縁をつけたから」と答えておく。
母が「あらあら。イサーク様にちょっかいをかけるなら、容赦する必要はないわね」とウフフと楽しげな笑いを零すので、残念なことに狙いはイサーク様ではないことを話す。当然、部屋にはクエスチョンマークで埋め尽くされた。
私が王子の婚約者じゃないはありえないと喚く頭のおかしな人だと話しつつ、結局誰と結ばれたいんだろうか、あのヒロインとちょっと疑問には思ったが、気にしないことにする。
父が「潰そう?」と一直線に取り潰しを言い出すので、ここは未来の公爵夫人の手腕を発揮させてほしい! という建前で、イサーク様を傷つけた報復をさせてもらうことになった。
翌日も、王子へ私が対処するという旨を伝えたのだけれど、その時、何故か、生温かい目で見られた。
……イサーク様は、いつも彼らに何を話しているんだろうか。
結果として、男爵夫妻の元へ訪問した私の脅しは、通用した。
しかし、肝心のヒロインが言うことを聞かなかったらしく、仕方なく転校させて、物理的に引き離すという手段に出たらしい。ヒロインも現実を見て、生きていってほしいわね。
イサーク様は、あれ以来、これまで以上に、キスを求めるようになった。
毎日最低一回は、許可を求めてくる。その都度、却下している。
「どうして!? 『最愛の恋人』なら、愛情表現していいよね!?」
帰りの馬車の中で、イサーク様はしびれを切らした様子で問い詰めてきた。
「だから、もう少し経ってからにしましょう? 私達はまだ14歳ですし、口付けという愛情表現は、まだ先でもいいと思うのです」
「そんな先まで……!?」
……ショック受けすぎでは?
ガーンと、口をあんぐり開いて、青ざめるイサーク様を見て、少々呆れた。
「どうしてそんなにお預けするの? ……僕が下手だから? 上手になるから! 僕だって、リーンティアをうっとりするくらいの甘い口付けをしてあげたいんだ!」
私の左手を両手で包み込んで握り締めるイサーク様に気圧される。
健気な願いだけれど、それを危惧しているのだ。
イサーク様は私が”いい”と思ったことを学習するのがピカイチ。ただでさえ物覚えがいいというのに、溶けるほどのキスのテクを覚えられてしまっては、腰が砕ける。
その私の”いい”を常日頃したがるのだから、毎日腰が砕ける羽目になるのだろう。避けたい。
「お願いだ、リーンティア。もっと君の唇に触れたい」
うるうるとする猫目は、熱に浮かされたギラつきもあるように見えるけれど……。
どうにも、私は彼の目に弱いようだ。
何かに喜び、楽しげに輝く瞳も。私を求めて熱を灯る瞳も。
私は好きでしょうがなくて、弱いのだ。
「わかりました……。では、一回だけですよ?」
「やった! 大好きっ!」
がっつくような勢いだったけれど、私の顔を持ち上げる両手は優しく包み込んできた。
「リーンティアは、僕の全てだよ」
「んっ」
甘く囁いては、唇を重ねてきた――――。
end
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