気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに

文字の大きさ
上 下
4 / 8

ヒロインも転生者

しおりを挟む



 あっという間に、乙女ゲームの舞台の学園へ入学。
 ゲームシナリオ通り、ヒロインは入学式からずれた時期に、入学してきた。


 本来なら、王子の婚約者という名分で引っ付いていた悪役令嬢に、ヒロインがぶつかってしまい、激怒した悪役令嬢を宥めつつ、王子が庇うことがオープニングだったはず。

 もちろん、王子に引っ付いていたので、そんなオープニングは起きなかった。

 まだ公爵位を継ぐまで時間があるイサーク様は、王子の側近のような位置で学園を過ごす。元は王家の血筋の権力者の公爵家だ。王子の周囲を把握して、自分の顔を広めつつも、交流もする目的がある。必然的に、私も王子ともそれなりに交流はしているけれど、今のところ、彼からヒロインがどうのこうのの話も聞いていない。もちろん、彼のそばにいる貴族令息も他の攻略対象ではあるのだけれど、ヒロインの話題は出たことがなかった。

 あのオープニングになかったので、関わることなく乙女ゲームは、始まらずに終わるのかしらね。


 ヒロインは、男爵の血を引いていた平民育ちの男爵令嬢というテンプレ。
 かつての恋人が、婚約者が出来てしまったから、別れを告げて身を引いたけれど、ヒロインをすでに身ごもっていた。その母親は病に倒れてしまったから、やむ負えず、かつての恋人である男爵に連絡を入れた。男爵夫妻は、ヒロインを責任もって育てると約束して、看取ったという美談が流れているらしい。
 うん。乙女ゲームシナリオ通り。
 チラッと見かけたけれど、髪もピンク色だった。

 どうして、ヒロインはピンク色なのかしらね? 女の子はピンクが好きだろって偏見からきてる?
 ピンクは流石に、奇天烈な髪色よね……。ここ、別に魔法が実在する世界じゃないんだけれど。



 そんなピンク頭のヒロインが、私の前に立ちはだかったのは、とある放課後だった。

 王子に呼ばれたからと言って、すごく嫌そうに、残念そうに『先に帰って?』と言うイサーク様が、言っていることと違い、引き留めて手を握り締めてきたので、それをやんわり解いて、馬車の元へと一人歩いたところ。
 ギッと恨めしそうに睨みつける顔は、乙女ゲームのヒロインのそのものだ。


「アンタも転生者でしょ!」


 ビシッと、指差してきた。

 なんだ。ヒロインも転生者パターンか。あるあるよねぇ。
 でも、本来、ヒロインと悪役令嬢は敵対関係。いきなり自分が転生者だって明かすなんて、アドバンテージをさらす行為。頭が足りないな。何より、『転生者』と大声を上げるのはとてもじゃないが、頭が悪すぎる行為だ。普通に、頭がおかしい人認定されるもの。


「ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」


 知っちゃこっちゃない。
 誰かに泣いて頼まれれば考えなくもないけれど、なんで私がそうしてあげなくちゃいけないのさ。
 確かに私がいないからオープニングからおじゃんだろうけれど、だからって悪役令嬢を無償で引き受けるほどお人好しではない。

 無言でスルーしたが、横切ろうとしたら、腕を掴まれた。

「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を、見て見ぬふりしたいのは当然では」

 普通の令嬢なら、悲鳴を上げて逃げていると思うわよ。

「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息が、あんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」

 そんなことで、今更軌道修正出来るわけがなかろう……。頭おかしい人だな、怖い。
 悲鳴上げて逃げてもいいかな。
 現在、王子の婚約者は、隣国の一つ年下の王女様よ? 現実的に不可能である。

「婚約破棄? ふざけるな。”王子の婚約者になれ”って言うのも不敬罪だ」

 ふわっと抱き上げてくれたのは、王子と予定があったはずのイサーク様だ。
 少し息が上がっているから、何か気付いて、走ってきてくれたのだろう。
 ギッと睨みつける目付きと威圧は、先程のヒロインの比ではない。

 イサーク様の地雷は『私』である。『私』を奪おうとする者も、『私』を貶そうとする者も、イサーク様の逆鱗に触れることになる。
 つまり、ヒロインは、見事にやらかした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです

珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。 だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。 そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

私の以外の誰かを愛してしまった、って本当ですか?

樋口紗夕
恋愛
「すまない、エリザベス。どうか俺との婚約を解消して欲しい」 エリザベスは婚約者であるギルベルトから別れを切り出された。 他に好きな女ができた、と彼は言う。 でも、それって本当ですか? エリザベス一筋なはずのギルベルトが愛した女性とは、いったい何者なのか?

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

皆様ごきげんよう。悪役令嬢はこれにて退場させていただきます。

しあ
恋愛
「クラリス=ミクランジェ、君を国宝窃盗容疑でこの国から追放する」 卒業パーティで、私の婚約者のヒルデガルト=クライス、この国の皇太子殿下に追放を言い渡される。 その婚約者の隣には可愛い女の子がーー。 損得重視の両親は私を庇う様子はないーーー。 オマケに私専属の執事まで私と一緒に国外追放に。 どうしてこんなことに……。 なんて言うつもりはなくて、国外追放? 計画通りです!国外で楽しく暮らしちゃいますね! では、皆様ごきげんよう!

処理中です...