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二章
18 護衛のお仕事。
しおりを挟む「は? 何?」
ナータと剣とナイフを叩き合いながら戦っていたら呼ばれた。
ヴィオだ。
ナイフを納めて、ヴィオのあとに続いてリビングに行けば、アッズーロが戻っていた。変わらず、顔を合わせない。反抗期の真っ最中。
それは置いといて、ヴィオの話だ。
「だから、オレの仕事についてきてもらえないだろうか、我が主」
「私、まだ五歳なんだけれど」
冒険者であるヴィオに仕事が来たらしい。
オーガ村一番の強者に勝ったヴィオは、ちょっとした有名人になったようで、依頼が舞い込んだそうだ。
「ドワーフの国までの護衛をしてほしいそうなんだ。隣の国だ、南東に馬車で三日の距離にある。念のために賊から守ってほしいということなんだ」
「いや、だからね。私まだ五歳」
依頼内容を説明するヴィオに、私はもう一度言う。
「仕事に付き合う歳じゃないの。おわかり?」
「いや、往復六日も、君から離れるのは嫌なんだ……」
子犬みたいに見つめてきても。
大人でしょう、ヴィオ。
「それにいい機会だ。ドワーフの国に行こう。国の外に行くのは初めてだろう?」
にこりっと、ヴィオは笑いかける。
「記憶によればね」
どこから捨てられたかわからないから、国の外に出たかどうかもわからない。
私はむっすりと頬杖をついて、視線をフランケン院長に向ける。
「私も経験してくればいいと思う」
フランケン院長は、許可を出してくれるようだ。
「はい! わたし達も行きたい!」
「ドワーフ国行きたい!」
妖精ノームのリルとリロが、バッと手を上げる。
一回り小さな彼女達は、双子。
「リル、リロ。盗賊に襲われるかもしれないんだからだめ」
「「ええー!」」
駄々こねる声を上げても、危険だからだめだ。
「私もただの五歳なので」
三回目だが、五歳児なので行かないことを表明しようとしたが、ヴィオが子犬みたいな目で見つめてくる。
「我が主が行くというならば、我々も同行しよう」
そう口を開いたのは、斜め後ろに立っているナータ。
我々とは、オーク三人組のことだろうか。
つまり、主従関係を結んだ五人で仕事を引き受ける形になるのか。
「行きましょう! ヴェルミ様」
「オレも帰りにでも村に寄って、無事を知らせてやりたい」
ミーニもリーノも、行く派。
従者四人が行く気満々である。
主を差し置いて何なの。
普通決定権を持つのは、主である私のはずだよね?
まぁ、オークが自分達の故郷に寄りたがっているし、ついでに行けばいいか。
「わかったよ。行けばいいんでしょう。ヴィオの仕事についていく」
私は肩を竦めて、椅子の背に凭れた。
そこで、ひょいっと上がる一つの手。
その場にいる全員が、その手に注目をした。
アッズーロのもふもふした手だ。
「……アッズーロも行きたいのか?」
「……」
フランケン院長に問われても、そっぽを向いていたけれど、アッズーロはコクンと首を縦に振った。
「ヴェルミ、アッズーロも連れてってあげてくれ」
「私に言われても……」
この仕事を引き受けたのは、ヴィオだ。
それに絶賛反抗期のアッズーロを連れていくのはどうかと思う。
ヴィオに視線を向ければ、アッズーロを不思議そうに見つめたあと。
「いいでしょう」
そう許可を出した。
アッズーロは一つ頷くと、リビングルームを出ていく。
「でも大人がいなくなってしまっては大変ではないですか?」
「いや、今まで私一人でなんとかなった。子ども達も協力してくれるし、留守の間くらい大丈夫だろう」
私が確認すると、フランケン院長はそう答えた。
確かにフランケン院長だけで切り盛りしてくれていたから、大丈夫だろう。
「じゃあ、ニーヴェア、孤児院のことは任せた」
「! お、おう! 任せろ!」
最長年のニーヴェアに言えば、彼は鼻を高くして胸を張る。
なんか心配だ。遠出をすることが、初めてだからだろうか。
「では、セテさん。依頼は引き受けます、条件付きですが」
「わかりました。依頼主にそう伝えます」
ヴィオが、セテさんにそう返事を託す。
条件とは私とオーク三人がついてくることだろう。
その条件、呑むだろうか。
「セテさんが依頼を持ってきてくれたんですか」
「偶然、ヴィオさんの名前が聞こえて、話を聞いてみたらこの依頼だった」
「なるほど」
経緯を聞いて納得をする私は、椅子から降りた。
「依頼主は、明日にはこの街に到着するはずです」
「じゃあ準備しようか、ミーニ」
「はい、ヴェルミ様!」
ミーニを連れて、女子部屋に入る。
準備と言っても、着替えを何着か放っておく。
それをミーニが、カバンに詰め込んでくれた。
誕生日にもらったドレスは置いておいて、今着ているような男物のワイシャツやズボンだけ。
「ねぇーねぇーヴェルミー」
「ヴェルミ、おみやげ欲しいー」
いつの間にか部屋に入っていたリルとリロに言われて、ちょっと考える。
「そうね……ヴィオがいいって言ったらね」
言うと思うけれど。
双子ちゃんもそう思うらしく、手放しで喜んだ。
(チェシャは?)
(もちろん、行くー。ヴェルミのそばにいるー)
思念伝達で問えば、予想通りの言葉が返ってくる。
厳密には五人と一匹で、護衛のお仕事か。
どんなものになるかな。
そもそもドワーフの国って、どんなところだろうか。
「旅に出るかぁ……」
旅ってほど大袈裟なものではないが、ちょっとワクワクした。
「楽しみですか?」
ニコニコしながらミーニが訊いてきたが、私は素っ気ない反応を示す。
「別に。そうだ、師匠に出掛けてくるって伝えよう」
六日留守になるから稽古に参加できないと伝えようと思い立ち、窓から出る。
「おともします」
窓の隣に凭れてナータがいたものだから、内心驚く。
そんなところに待機していたのか。
ナータとともに、師匠ことイサークさんの元に戻った。
簡潔にヴィオの仕事についていくことになったと話すと。
「は? 冒険者の仕事についていくだぁ?」
露骨に嫌そうな反応をされる。
「……え、なんですか?」
「……」
じろり、と睨むような目付きで見下ろしてきて、イサークさんは腕を組んだ。
「……なんの仕事だ?」
「護衛です。ドワーフの国まで」
「隣のカーザの国か?」
国名までは聞いてなかったので、ナータを見上げる。
ナータは肯定するように頷いて見せた。
ドワーフの国、カーザだ。
「……」
イサークさんは、重たい沈黙を降らせる。
なんだなんだ、と目を瞬かせていれば。
「許可してやろう」
そうイサークさんが許可を出す。
フランケン院長はあっさり出してくれたのに、どうしてこの人が渋ったのだろうか。私は首を傾げてしまう。
「あ、アッズーロも行くんだって」
「……反抗期なのにか?」
「反抗期でも行きたい理由があるみたいですよ」
反抗期でもどうしても行きたい理由が、ドワーフの国カーザにあるのかも。
「変な奴だな」
「全くですね」
イサークさんと同感だった。
「じゃあニーヴェアは残るんだな?」
「はい。行くのは私と従者の四人になりますね」
「そうか……くれぐれも変なことに首突っ込むなよ」
「私がトラブルメーカーみたいな言い方しないでくださいよー」
私よりトラブル好きなのは、ナータの方らしいから、ナータに釘をさしてほしい。
「……おい、ヴェルミ」
しゃがんでイサークさんは、私を改めて呼ぶ。
「なんですか? 師匠」
「……無事に帰ってこいよ」
相変わらず私の目を直視しないイサークさんが、私の頭に手を置いて髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。これは結び直さなければいけないな。
(にゃはははっ! また心配してるー!)
なんてチェシャが脳内で笑い声を上げる。
そうか。心配してくれているのか。
あえて言わないでおこう。どうせ怒る。
「はい。じゃあ明日ですけど、いってきます」
私はピッと頭に掌を添えて敬礼して見せた。
「……ああ」
私とナータは、イサークさんの家をあとにする。
歩きながら髪を結び直していれば、思い出した。
「そう言えば、ヴィオがイサークさんは私を男の子だと思っているってこの前言ってた」
「……彼が、あなたを男の子だと?」
髪はいつも結んでいるせいか、それとも元から癖っ毛のせいなのか、くるんとして肩につく。それをまとめて一つにして結んだ。
「そう。だからドレス着て見せに行こうとしたら、セテさんを見付けたんだ」
「……」
ナータは少し黙って考えた。
イサークさんが勘違いしている可能性があるかどうか。
「……しかし、彼とは一年の付き合いなのだろう?」
「そうそう、一年も勘違いしているわけないよね。ヴィオの考えすぎだよ。なんか、稽古で容赦ないのは女の子と認識していないからだって言ったんだ」
「……」
またナータが考え込む。
「……ヴィオの考えすぎだろう」
そう結論が出たようだ。
そーね、と私は頷いた。
「ところで、ドワーフの国、カーザはどんな国なの?」
ドワーフといえば、小人だろう。
いつもならチェシャを辞書がわりに使って聞くところだが、ナータに尋ねてみた。
「鍛冶や石工を生業にしている種族であり、元は山だった場所に穴を掘って作った国だと聞いたことがある。おそらく依頼人は、石工が目的で尋ねるのだろう。あくまで予想だが。オーガの中で一番腕が立つヴィオを選ぶほどだ、きっと高価な鉱石を所持しているはず」
「なるほど。それを守ってほしいわけだ」
孤児院に帰った私は、従者四人を呼んだ。
「今回の依頼主には私達の関係、つまり主従関係は伏せること」
「えっ……!?」
「なんでそんなオーバーリアクションなんだ」
ヴィオだけではなく、ナータを含むオーク三人組までショックを受けた顔をした。
「あのね、五歳児に村一強いオークとオーガが従っているなんて、聞いても混乱させるだけでしょう?」
「村一強い……」
「聞いてる? リーノ」
照れるリーノを話題に戻させる。
「主従関係だってことは伏せる」
「「「……っ!!」」」
約束させようとしたが、ヴィオとリーノとミーニがうずうずと落ち着きない。
どんだけ言いたいんだよ、こいつら。
「わかったよ。でもごっこをしていると言うから」
なんで私が百歩譲っているのだろうか。
最初は私が無理難題な命令をして困らせてやろうとか思っていたのに、まるで逆だ。
ひょっとして、私はお人好し?
はぁー。先が思いやられる。
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