転生したら吸血鬼。彼女は本物の絆が欲しい。

三月べに

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一章

09 冒険者。

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 三日は安静にしてもらって、私達はヴィオさんのお世話をした。
 大人の世話をするというイベントが発生して、楽しんでいる子ども達に向かって、何度もヴィオさんは「すまない」と謝る。
 なので、誰もいない隙にまた暗示を使って「すまないじゃなくて、ありがとうって言って」と伝えた。

「わかったが……その、暗示を使うことはやめてくれないか」
「ヴィオさんが見ているのが悪いんですよ」

 暗示を使われている自覚はあるものの抵抗をしないし、目も普通に合わせてくるヴィオさん。変な人だと思う。
 まぁ抵抗出来ないのは暗示が効いている証だろうけれど。
 ヴィオさんの安静の三日間も、私達はイサークさんに鍛えてもらっていた。
 ヘッドドラゴンを仕留めた話をしたら、褒められるどころか「食べられたらどうするんだっ!」と拳を脳天に落とされた。
 逆に引き返したアッズーロは褒められていたけれど、解せぬ。
「私だって勝てるって判断をして挑んだんだけど?」と言ったら「食べられたら取り返しがつかないだろうがっ!」とまた拳を落とされた。
 すごく怒っていたので、もう反論するのはやめた。
 回復して出歩けるようになったヴィオさんは、今度は子ども達に遊んでとせがまれ始めたが、慣れないことなのか戸惑っている様子。
 しょうがないので、私達と一緒にイサークさんの元に行くよう誘った。
 子ども達からブーイングが出たが、ヴィオさんは安堵したように胸を撫でる。

「あんな多種の子どもに囲まれるのは初めてでしょう?」
「それにも戸惑うが、子どもに囲まれる自体初めてで……」

 どうしたらいいかわからないのが正直なところらしい。
 大人びた私とニーヴェア、大人しいアッズーロといると落ち着くみたいだ。

「これから行く家の人は、元冒険者なのか?」
「うん。イサークって名前」
「イサーク、か……」

 ヴィオさんは顎に手をやり考える素振りをする。

「知ってます?」
「あ、いや……」

 ヴィオさんが、首を左右に振る。
 何か知っていたら、イサークさんについての話を聞きたかった。
 こんな最果てでは有名だとしても知れられていない。
 本人は語るつもりはないしね。

「あ、ここです」

 街の外れの家に到着して、迷わずに横の畑を通って裏庭に行く。
 ひょいっと投げ渡される木刀を受け取る。

「イサークさん。彼が冒険者のヴィオさんです」

 ヘッドドラゴンから救った冒険者がいると話はしていたので、そう紹介した。
 イサークさんはヴィオさんを見た。
 ヴィオさんを振り返ると、驚愕した表情をしている。

「あなたはっ!」

 どうやらイサークさんのことを知っているようだ。
 イサークさんに目を戻してみれば、ギロリと睨み威圧していた。
 まるで黙っていろと言っているような睨みだ。

「っ……」

 気圧されてヴィオさんは黙り込んだ。

「知り合いですか?」
「いいや知らない」

 イサークさんは即答。
 嘘だな。絶対。
 すぐ嘘をつく。いけないんだぁ。
 三人で交互に見ていた。けれど、ヴィオさんは知っている様子。
 強いだけあって、やっぱりイサークさんは有名なのだろう。
 まぁいい。萎縮してしまったヴィオさんに暗示をかけて聞き出そう。

「ヴェルミ。暗示で聞き出したら、二度と鍛えてやらないぞ」
「……」

 なんでわかったんだ。この人。

「不敵な笑みを浮かべてたぞ」

 しまった。顔に出ていたか。
 しかし、鍛えてもらえないのは嫌だ。仕方ない。諦めよう。

「はーい」
「じゃあ、ヴェルミからいくぞ」

 本気でイサークさんを叩き潰すつもりで挑む。
 世界がスローモーションになる。地面を蹴り飛ばして、横に移動する。木刀をスイングしてイサークさんの膝に命中させようとした。
 だが、カン!
 イサークさんの持った木刀が受け止める。
 どうしてこのスピードについてこれるのか。解せない。
 そのまま弾かれて、背中から倒れた。立ち上がろうとしたが、木刀の先で額を小突かれて止められた。痛い。

「次、ニーヴェア」
「はい!」

 また今日も敗北をしてしまって、私はニーヴェアに木刀を手渡す。
 交代だ。椅子に座ってから、ヴィオさんを見上げてみれば放心している。

「強いでしょう? イサークさん」
「……」

 イサークさんではなく、私に目を向けていた。

「何?」
「君は一体何者なんだ……?」

 私に驚いている。

「だから吸血鬼の子どもだって」

 吸血鬼の子どもだから、これくらい出来る。
 それでは納得出来ないようで、凝視された。
 また目を見つめている。私の目を見ていたら、暗示をかけて面白おかしい動きをさせてやるぞ。

「おい。吸血鬼の目を見るな」

 話している間に、ニーヴェアが倒されたらしい。
 イサークさんが木刀の先をヴィオさんに向けて指摘をする。

「暗示にかかるぞ」

 もう二回かけられているけれど。

「別に大丈夫です。ヴェルミはいい子ですから、変な暗示をかけないでしょう」
「謎の信頼感」

 微笑みで答えるヴィオさんは、何故私をそこまで信頼しているのだろう。
 四日間一緒にいただけなのに。
 暗示が思わぬ作用を起こしているのか?
 ヴィオさんは、いい子いい子と私の頭を撫でた。

「……」

 イサークさんは、ドン引きしている。
 こいつ正気かって言いたそうな目を、ヴィオさんに向ける。
 イサークさんもおかしいと思うよ、その反応。失礼極まりない。

「イサークさん」

 構えているアッズーロが、名前を呼んで急かした。
 一番剣術が向いていないアッズーロも、呆気なく倒される。
 もう剣を持つことを諦めればいいと思う。

「はぁい! 次はヴィオさんとイサークさんでやってほしいです!」

 私は猫撫で声を出して、手を上げた。
 ギョッとするヴィオさん。
 イサークさんは嫌がることなく、木刀をヴィオさんに投げ渡した。

「……よろしくお願いします」

 覚悟を決めた表情をして、木刀を握り締めるヴィオさん。
 現役冒険者と元冒険者の戦い。
 ポップコーンが欲しいところ。
 イサークさんがどれだけ力を出すか、みものだ。
 先に動いたのは、ヴィオさん。スミレ色の髪を揺らし、瞳孔が開いた目をカッと開いて一振り落とす。地面につくとバンッと抉れた。オーガの怪力は、凄まじい。
 しかしその攻撃、当たらなければ意味を持たない。
 横にずれてかわしたイサークさんは、ヴィオさんの木刀を踏み付けて動きを封じる。そして右手に持つ木刀をヴィオさんの喉に突き付けた。

「お前もヴェルミと同じだな。一撃で仕留めようとして次の手を考えていない。次があると思って動け」
「っ、流石ですね……」
「はぁい、私の番ですね」

 一撃で仕留めたいところだけれど、相手が相手だ。
 一手、二手、三手と考えて動いてみよう。
 ヴィオさんから木刀を受け取って、イサークさんと向き合った。
 さて、どう攻めようか。
 イサークさんを観察して動きを真似て動いているのに、全然及ばない。
 すると、イサークさんから動いた。突いてきたから、木刀を楯にして受け止める。簡単に小さな身体は後ろに飛ぶが、影を操って壁を作り足場にした。それを蹴ってイサークさんの懐に入る。
 でも私の木刀が触れる前に、イサークさんの肘に叩き潰された。
 地面と頭がごっつんこ。痛い。

「ヴェルミ!」

 ヴィオさんが顔色を変えて駆け寄った。

「あー大丈夫ですよ」
「イサークさんっ! やりすぎですよ、相手はおんっ」
「いいんだよ。これくらいで怪我するほどやわじゃない。手を抜くと怒るし、隙あれば首を撥ねるぞ、コイツ」
「師匠は殺すつもりでいかないと一本なんてとれないじゃないですかー」
「殺意込めて飛びかかってくる四歳児に手加減出来るか」

 慌てふためいてくれるヴィオさんを宥めつつ、イサークさんにぶつくさ言う。

「もうそろそろ、私は五歳のはずですよ」
「はず?」

 イサークさんとヴィオさんが、私の言葉にきょとんとした。

「あー私は捨て子なんですよ。孤児院の前に置かれていたそうです。三歳だったので、自分の誕生日も知らないんで孤児院に来た日で一応カウントしてますが」
「「……」」

 ちょっと顔を歪ませて笑ってしまう。
 孤児院で誕生日として祝われる日は、親に捨てられた日。
 これからそれを数えていくのだから、複雑なものだ。
 イサークさん達は気まずそうに沈黙した。
 おっと。余計なことを言った。

「はい、次はニーヴェア」

 ニーヴェアに木刀を渡してイサークさんの前に出す。
 何事もなかったように、イサークさんのしごきが再開した。
 終わったあとは、孤児院でランチ休憩をする。
 また子ども達に捕まってしまったヴィオさんを救出して、狩りに出た。
 セイカの歌声で動物を集めて、その中から獲物を選んで仕留める。

「ヴェルミ達はすごいな……」
「自足自給しないと生きていけませんからね」
「いやそれもだが……」
「?」

 何が言いたいのだろうか、と子鹿を持ってもらっているヴィオさんを見上げた。

「あ、冒険者って儲かりますか?」
「あ! セイカも聞きたい! ヴィオさんはかせいでる?」

 上から下りてきたセイカが、ヴィオさんの肩に留まる。
 結構大きくなったセイカだが、ヴィオさんは重たいとは感じていないようだ。

「稼ぎ、か……。オレは生活が不自由しない程度かな」
「そもそもどういう仕事の流れなんですか?」
「ギルドに依頼が来るんだ。通常、そこで依頼を受けて討伐に行く。たまにギルドが異変を察知して、優秀な冒険者に救助などを依頼をすることもある」
「へぇ……」

 ニーヴェアの里の件は、後者か。
 ヘッドドラゴンはどっちなのだろう。

「ヘッドドラゴンはどっち?」

 あ、セイカが訊いてくれた。

「ギルドにきていた依頼を引き受けた。だが元々腕試しのつもりでもあったんだ」
「それで負けたんだぁ」
「セイカ」

 悪気なくセイカが笑う。
 ヴィオさんも笑った。

「ヴェルミのおかげで命拾いした」

 落ち込まない。暗示の効力だろう。
 自信は失わない。

「ありがとう」

 ヴィオさんのお礼に笑みで応えた。


 
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