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序章
13 魔族と同居。
しおりを挟む魔王。
隣の魔族の王国、ラグズウルズの王。
私でも名前を聞いたことがある。魔王の名はラーグイス。
「えっ? 魔王ラーグイス様な、んですか?」
「そうだ。こんな姿だがな」
スープを啜ったあと、少女は自嘲的に笑ってみせる。
「我に呪いをかけた、即ち反逆の罪。それで死刑が下ったのだ。しかし、呪いを解いたあとに、首を刎ねるべきだったな。書物さえ見付ければ解けると思ったが、書物ごと家が燃やされていた。悔やんでも、後の祭りだ」
かなり淡白に話す少女に、ぽかんとしつつも、質問をしてみた。
「その書物にしか書かれていない呪いなんですか?」
「魔法の中でも呪いの類いは稀だ。今も探させてはいるが、絶望的だな」
「えっと……いつから、ていうか、いつ呪いにかかったのですか?」
「二年前だ」
「……ちょうど、ここに来た時くらいですか?」
食事を続けていた少女こと魔王様が顔を上げる。片方の眉が上がっていた。
「何故知っている?」
「あーいや、一方的に知ってたんですよ。オレのデビュー、冒険者デビューの時にブロンズランクのレベル3って判定が出たのに、騒がれなかったのは、あなたがギルドを訪れていたから。それで覚えていたんですよ。ほら、魔族ってここでは珍しいですし、目立ってましたよ」
「……そうか」
怪訝な顔付きをやめて、食事を再開する。
全然驚かれないのは、少々つまらないと感じた。
「レベル3でデビューとはすごいな」
あ! 感心してくれた!
「くっ!」
「?」
口を押さえたからどうしたのかと思えば、少女の姿の魔王様が肩を震わせながら笑い出した。
「くくくっ! お前、顔に出やすいな。考えていることが手に取るようにわかるぞ」
顔に出ていたのか。恥ずかしい。
それでわざわざ感心したような言葉を言ってくれたのか。
今度は照れて頬を赤らめた。
「可愛いやつだな」
口角を上げて不敵に笑う美少女。
ドキッとしてしまった。
いや、これは、誰でもドキッとしてしまうものではないだろうか。例え同性が好きなのか、異性が好きなのか、わからない私のような人でもときめいてしまう。イケメンな美少女の不敵笑み!
「あ、そうだ。紹介がまだでしたね。ローズとリーデはもう済んでるのかな? 一応紹介……ノークスです。オレと契約してくれている精霊のローズ、リーデ、ルーヴァです」
「以後お見知り置きを、魔王様」
ローズとリーデはもう自己紹介したらしく、ルーヴァだけが礼儀正しく一礼をした。
「魔王様と呼ばないでもらおうか。ここではラドイスと名乗っている」
「よく偽名で冒険者のタグを手に入れましたね」
「昔は偽名でも登録出来たのだ。緩い時代だった」
「そうですか……」
そう言えば、魔王様って何年前から魔王様なんだろうか。
私が名前を聞いたのも、幼い頃だった。
魔族は人間とは寿命も成長も違うと聞いたから、結構長生きなのだろう。
「じゃあ、ラドイスさんと呼びますね」
「いや、この姿で冒険者名を呼ばれては困る」
「それもそうですね……ん? なんでまた、魔王さ……いえ、あなたがここで冒険者をやっているんですか?」
呪いの姿の時に、ラドイスさんと呼んでもいけない。
厄介だなと思っていれば、そもそもどうして、ここにいて冒険者をやっているのかを疑問に行き着いて問う。
「ここまで話したから明かしてやる。暗殺されないためだ」
「暗殺!?」
「そうだ。元の姿なら、並みの相手など蹴散らすことも容易い。しかしこの姿はせいぜい……そうだ、お前と同等の魔力しかない。つまりシルバーランクのレベル2ぐらいしかないのだ」
少女の姿の魔王様は、腕を組んでふんぞり返った。
ローズは頭の上に、リーデは膝の上に乗せたまま。
はっきり言って可愛いことこの上ない。
「へ、へぇ……それは身の危険も感じますね」
シルバーランクのレベル2の魔力量なんて十分だと思うけれど、魔王の座を守るには足りないのだろう。元はゴールドランクのレベル1。
「……あれ? あなたは本当に……ゴールドランクのレベル1ですか?」
魔王様が、タイリースさん達と同じレベルとは思えなかった。
今までは一晩かけてゴールドランクの魔獣を狩っていると思っていたけれど、話によれば昼のうちに狩っていたことになる。それで翌朝に換金しているという流れだろう。
少なくても、レベル2じゃないのか。
英雄レベルと言われる、それじゃないの?
「レベル1だぞ」
首にぶら下げたタグを、私に向かって放ったものだからキャッチをした。
確かにレベル1と書かれていた。しかし、年季が入っているような傷が目立つ。
「……ちなみに、いつレベル更新しました?」
最後に鑑定をしたのは、いつなのか。タイリースさん達も、年に一回は鑑定してもらうと聞いている。
それを問うと、食事を再開した少女は、またニヤリと不敵に笑った。
「さぁな。昔すぎて覚えておらん」
「……っ!!」
この人、絶対ゴールドランクのレベル1じゃない!
そう確信をした。
「たまに城に帰ってはいる、昼にな。だいたい、我の魔王としての仕事など大してないのだ。絶対君主の顔として、不敗の存在として、降臨していればいい。我が国の王はそういうものだ」
「ああ、強者がなるんでしたね。ただし先代魔王を殺めた者はなれないって掟」
「そうだ。魔王になりたければ、決闘で正々堂々と勝ち取る。まぁ、そんな野心を持つ魔族、今時おらんがな」
強者こそ魔王の座につく資格を手に入れられる。
暗殺や殺害は、認めないという掟。
先代魔王を殺めた者を、魔王とは認めてはいけない。そういう意思で国民が決めた掟なのだという。
「そんな国なのに、暗殺を狙う者がいると?」
「念のためだ。何せ、魔王と認められない者が出るだろう。こんな……姿……」
憎たらしそうに自分の身体を見下ろす少女。
美少女なのに、気に食わないなんて、なんて贅沢!
「だが、我の従者や家臣が、必死に隠してくれている。まだ我に魔王で居てほしいのだと。だから、大抵のことは任せて、我はこの安全な場所にいるわけだ」
「……なるほど、理解しました」
誰も魔王が冒険者をやっているなんて思わないだろう。
ここは魔王国とは反対に位置していて、魔王様の顔を知るような魔族も人間もいない。最適な隠れ場所と言えるだろう。
「ごちそうになった」
「いえいえ、些細なお礼です」
私も彼女……ではなく、魔王様もスープを食べ終えた。
「この家にはお前と精霊達しかいないのか」
「はい、両親は他界して、オレと精霊達だけです」
「そうか。我が居候しても問題はないか?」
パチクリ。目を瞬かせた。
居候したいという申し出だろうか。
「宿を転々としていたが、そろそろ朝は男、夜は少女の姿で出入りしていると詮索される。二人分の宿泊費くらい払えるが、せっかく互いに秘密を明かしたのだから、もっと親しくなろうではないか。生活費はちゃんと払う。だから部屋を貸してくれないか?」
「……そうですね。別に生活費を出さなくてもいいですよ。恩人なのですからね」
「いや、それでは恩着せがましい。生活費は受け取ってくれ」
別に恩着せがましくても構わないのだけれども。
部屋も空いていることだし、タダでもよかったけれど、気兼ねせずに泊まれるならその方がいいのだろう。
「わかりました。じゃあ一日、銀貨三枚でどうですか?」
「安いな……」
「部屋の掃除は自分でする点は宿とは違いますから、結構妥当な値段だと思いますけど」
「そうか。ではそれにしよう」
本当は宿代の相場なんて知らないけど、魔王様が承諾するならこれでいいのだろう。
「……つかぬことをお聞きしますが」
「なんだ?」
「その姿用の服は持っていないのですか?」
美少女の愛らしい顔の眉間にシワが寄った。
「持っているわけがないだろう」
「んー。夜は出掛けないとしても、持っていて損はないかと。美少女がそんなダボダボな服を着ていては、目にした男性が余計なことを考えてしまいますから。あ。なんなら母の服を貸しますよ」
食器を片付けたあと、私は両親の寝室のクローゼットから母のドレスを引っ張り出す。
「少し大きいですが、男性ものよりはマシでしょう。他のも好きに使って構いませんよ」
とりあえず、ネグリジェを渡した。
「ふむ。服まで貸してくれてすまないな。やはり銀貨三枚では足りない」
「あ、そうなりますか? もう使わないし、かといって母のものなので売るのも躊躇していたんです。使ってもらえるだけで嬉しいですから、お金はいりません」
そう笑ってみせれば、しばらくの間、見つめられる。
それから、美少女が微笑んだ。
「お前が気に入った。ノークス」
またもやドキッとしてしまった。
「では世話になるぞ」
「あ、はい。そうだ、名前決めません? その姿だけ呼ぶ時困りますし……」
「そうだな。ではノークスが決めていい」
「本当ですか!?」
やったとガッツポーズをする。
「レードでどうですか?」
ラーグイス、リーデ、ルーヴァ、レード、ローズ。
ラ行をコンプリートである。
いやまぁ、魔王様の名前は私が考えたわけではないけれども。揃った感があっていい。
「構わん」
「じゃあ、レードさん。これからよろしくお願いしますね」
「ああ、よろしく頼む」
こうして、魔王様と同居生活が始まった。
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