美少年に転生しまして。〜元喪女の精霊と魔王に愛され日々!〜

三月べに

文字の大きさ
上 下
11 / 13
序章

11 最年少記録。

しおりを挟む



 目を覚まして、ハッと飛び起きる。

「!!」

 でもここは魔獣が彷徨く森の中ではなかった。
 覚えのある白い天井。ギルド会館のものだ。
 私はギルド会館の休憩室の黒い革のソファーにいた。
 胸に置かれていたのか、拳サイズの魔石がコロンと転がる。
 シルバーランクの魔石だ。しかも、少し赤みがかかっている。これは値段が高いだろう。
 稀に、突然変異の魔獣が現れる。強さは普通の魔獣よりも上。レベルが上だと錯覚してしまうほど、強い。今回のレッドマティベアは、それだったみたいだ。
 胸といえば、引っ掻かれた傷があったはず。でもない。
 服が破れているだけだ。

「ノークスくん! 気が付いた!?」
「よかった! ノークスさんが起きましたよ!」

 メリッサさんとコニーの声。
 二人の姿は、確認出来なかった。

「「「ノークス!」」」

 顔にぷにっとした感触と、もこふわの感触がぶつかる。
 この声は、ローズとルーヴァとリーデ。感触も、その精霊達のものだ。

「ローズ、ルーヴァ、リーデ。無事だったんだ? よかった」

 そっと精霊達を、腕で包み込む。

「オレ、どうやってここに……?」

 あの魔族の男性が、運んでくれたのだろうか。
 いくら小柄な少年の身体でも、森の奥からここまで運ぶなんて、重かっただろう。だってあの男性は、ローブでわかりにくいけど、細身のようだった。鍛えた身体ではないだろう。
 かと言って、私が自力で帰ってきたとは到底思えない。

「ノークス!!!」

 タイリースさんの声が響く。

「バカ野郎!!!」

 続いて、ジョーさんの声が落ちたかと思えば、拳骨を脳天に喰らう。

「いたぁ!?」

 見れば『ドムステイワズ』のメンバーが勢揃いしていた。
 リリンさん達までいる。
 皆に、もみくちゃにされてしまった。
 無茶したことを怒ったり、無事を心配してくれたり、様々だ。
 レベル上の強敵であり、ウォンさん達の仇であるレッドマティベアと戦ったことは、皆に知れ渡っていた。
 どうやら最初に会ったあの腕に怪我を負った冒険者が、ギルドにも知らせたようだ。
 ちょうど『ドムステイワズ』のメンバーが、他の冒険者団体と、レッドマティベアの討伐依頼をギルド会館で取り合っていたらしい。
 ブロンズランクの森まで来たと聞いてますます激しくなる言い合いに、ギルマスのリグルドさんが仲裁していた時だ。
 ひょっこりと私を抱えたあの魔族の男性が現れたという。私をリグルドさんに渡すと「こやつが倒した」とだけ告げて去ったとそうだ。
 怪我を治してくれたのは、リーデ。空になった魔力が回復することを待っていて、私はこうして起きた。

「レッドマティベアに襲われていたブロンズランクの冒険者達は無事ですか? オレが戦わないと、他の冒険者がやられると思って……いてて! はい! 途中から自力で勝つことしか考えてなかったです!!」

 もみくちゃにされながら、なんとか冒険者達の無事を確認するも、もみくちゃは激しくなる一方だ。特にタイリースさんとリリンさんの締め付けと、ジョーさんの拳がグリグリと後頭部に当てられて痛い。
 白状をする。途中から、冒険した。

「冒険して……なんとか、ローズとルーヴァとリーデと一緒に勝ちました」

 にへら、と笑う私は、結局激しい抱擁に埋もれることになる。
 そんな私に待っていたのは、何故か水晶玉だった。

「えっと……何故、今鑑定を?」

 冒険者のランクとレベルを測るあの水晶玉だ。
 嬉々とした顔で差し出したリグルドさんが口を開く前に、左右からカランとクランが出てきて答えた。

「ノークス兄さんは、シルバーランクのレベル1」
「でも倒したのは、シルバーランクのレベル2」
「つまりは、レベルのアップが期待出来るはず!」
「そう! ノークス兄さんは、最速でレベル2になった可能性があるんです!」

 リグルドさん以上に嬉々として目を輝かせるカランとクラン。
 最速でシルバーランクのレベル2になった可能性。
 怖気付かなければ、ブロンズランクのレベルアップはトントン拍子で上がれる。シルバーランクのレベル1になることは容易い。そのレベルの冒険者は、ごまんと居るのだ。
 でもレベル2に上がるのは、至難の業。普通は、何年もかかる。

「ちなみに最速記録は今のところ、本部の方で十六歳だそうだ。ノークスはまだ十四歳だよな? ほらほら、レベルを確認だ」

 また本部に行く時の自慢話に出来ると確信しているリグルドさんが、水晶玉を台とともに差し出してきた。
 全然レベルアップの自覚がないから、皆の期待外れになるのは嫌だなと思いつつも、無駄に時間を引き伸ばすことはせずに水晶玉に触れる。
 魔力から戦闘能力を測ることが出来る魔法の水晶玉。
 カッと光り出した色は、銀。そして2の数字が映し出されていた。
 シルバーランクのレベル2だ。

「「「おおおっ!!!」」」

 割れんばかりの声が上がる。
 こうして、私は最速の最年少記録でシルバーランクのレベル2になった。
 無茶をしたことはしっかりリグルドさんとタイリースさんにお叱りを受け、無事だったことと最年少記録を盛大に祝われたのだ。



 数日後の休憩室。私は思いもよらずにレベル2と書かれたタグを手に入れて、ニヤニヤしてしまった。

「事情を知っている冒険者達は君を賞賛し、そして嫉妬しているよ。でも事情を知らない冒険者は精霊三体持ちだからレベルアップしたのだとか、年齢詐称じゃないのかって言ってたのを耳にしたよ。ギルドで働いているから、疑われちゃってるね」

 サブマスターのアエストロさんがそう話しかけてきたけど、私はキョトンとする。

「それって、水晶玉の鑑定を無視して、自分でレベル2のタグを発行したとか疑われているってことですか?」
「そういうことですね」
「ええー、ギルドの評判に傷がつきそうですね。なんかすみません」
「いやいや、疑うような冒険者達の評判なんて気にしないよ」

 アエストロさんは手を振っては笑い退けた。

「ただ残念だよね。君が命がけで仇を討ったというのに、そんな噂をする輩がいるなんて」
「まぁ……仕方ないですよ。世間は賛否両論ですから」
「ノークスくんは、歳のわりには達観しているよね」

 それって老けている考え方をしているとオブラートに包んでいるのかな。
 そう言えば、ネマさんのお姫様抱っこの件から、敵意が向けられていたけれど、それらが和らいだ気がする。私がレベル2になったから、それより下の冒険者は睨むことをやめたのだろうか。

「そういえば、彼に礼を言ったのかい?」
「彼?」

 唐突で誰のことか、わからなかった。

「魔力切れで意識のない君を運んだ、魔族の彼だよ」
「ああ! 実はお礼を言おうといつも探してるんですけど……中々会えなくて」

 しゅんと肩を下げる。

「そうだね、ちょうど君が森に行っている間に、換金に来るからね。彼は」
「すれ違いなんですよね」
「ちょっと来るまで待ってみれば、どうだい?」
「そうしようかな……」

 でも、晴れてレベル2になった私は『ドムステイワズ』のシルバーランクのレベル2のメンバーのパーティーに入れてもらって冒険者活動をしているから、別行動がしにくい。冒険者業を休む日に待ち伏せるかな。

「そういえば、オレ、名前すら知りません。名前はなんですか?」
「彼の名前かい? そうだね、命の恩人の名前くらい知っていないと失礼だね。彼は、ゴールドランクのレベル1のラドイス」

 ラドイス。
 私の冒険者デビューの日に、この街のギルドに現れた魔族の男性。
 そして、意識を失くした私をギルドに運んでくれた命の恩人。
 なんか縁がある人だし、仲良くしたいなぁ。

「ラドイスさん、か」

 ちゃんとお礼を伝えよう。


 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ 小さいからって何もできないわけじゃない!

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◇2025年02月18日頃に1巻出荷予定! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

処理中です...