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序章
11 最年少記録。
しおりを挟む目を覚まして、ハッと飛び起きる。
「!!」
でもここは魔獣が彷徨く森の中ではなかった。
覚えのある白い天井。ギルド会館のものだ。
私はギルド会館の休憩室の黒い革のソファーにいた。
胸に置かれていたのか、拳サイズの魔石がコロンと転がる。
シルバーランクの魔石だ。しかも、少し赤みがかかっている。これは値段が高いだろう。
稀に、突然変異の魔獣が現れる。強さは普通の魔獣よりも上。レベルが上だと錯覚してしまうほど、強い。今回のレッドマティベアは、それだったみたいだ。
胸といえば、引っ掻かれた傷があったはず。でもない。
服が破れているだけだ。
「ノークスくん! 気が付いた!?」
「よかった! ノークスさんが起きましたよ!」
メリッサさんとコニーの声。
二人の姿は、確認出来なかった。
「「「ノークス!」」」
顔にぷにっとした感触と、もこふわの感触がぶつかる。
この声は、ローズとルーヴァとリーデ。感触も、その精霊達のものだ。
「ローズ、ルーヴァ、リーデ。無事だったんだ? よかった」
そっと精霊達を、腕で包み込む。
「オレ、どうやってここに……?」
あの魔族の男性が、運んでくれたのだろうか。
いくら小柄な少年の身体でも、森の奥からここまで運ぶなんて、重かっただろう。だってあの男性は、ローブでわかりにくいけど、細身のようだった。鍛えた身体ではないだろう。
かと言って、私が自力で帰ってきたとは到底思えない。
「ノークス!!!」
タイリースさんの声が響く。
「バカ野郎!!!」
続いて、ジョーさんの声が落ちたかと思えば、拳骨を脳天に喰らう。
「いたぁ!?」
見れば『ドムステイワズ』のメンバーが勢揃いしていた。
リリンさん達までいる。
皆に、もみくちゃにされてしまった。
無茶したことを怒ったり、無事を心配してくれたり、様々だ。
レベル上の強敵であり、ウォンさん達の仇であるレッドマティベアと戦ったことは、皆に知れ渡っていた。
どうやら最初に会ったあの腕に怪我を負った冒険者が、ギルドにも知らせたようだ。
ちょうど『ドムステイワズ』のメンバーが、他の冒険者団体と、レッドマティベアの討伐依頼をギルド会館で取り合っていたらしい。
ブロンズランクの森まで来たと聞いてますます激しくなる言い合いに、ギルマスのリグルドさんが仲裁していた時だ。
ひょっこりと私を抱えたあの魔族の男性が現れたという。私をリグルドさんに渡すと「こやつが倒した」とだけ告げて去ったとそうだ。
怪我を治してくれたのは、リーデ。空になった魔力が回復することを待っていて、私はこうして起きた。
「レッドマティベアに襲われていたブロンズランクの冒険者達は無事ですか? オレが戦わないと、他の冒険者がやられると思って……いてて! はい! 途中から自力で勝つことしか考えてなかったです!!」
もみくちゃにされながら、なんとか冒険者達の無事を確認するも、もみくちゃは激しくなる一方だ。特にタイリースさんとリリンさんの締め付けと、ジョーさんの拳がグリグリと後頭部に当てられて痛い。
白状をする。途中から、冒険した。
「冒険して……なんとか、ローズとルーヴァとリーデと一緒に勝ちました」
にへら、と笑う私は、結局激しい抱擁に埋もれることになる。
そんな私に待っていたのは、何故か水晶玉だった。
「えっと……何故、今鑑定を?」
冒険者のランクとレベルを測るあの水晶玉だ。
嬉々とした顔で差し出したリグルドさんが口を開く前に、左右からカランとクランが出てきて答えた。
「ノークス兄さんは、シルバーランクのレベル1」
「でも倒したのは、シルバーランクのレベル2」
「つまりは、レベルのアップが期待出来るはず!」
「そう! ノークス兄さんは、最速でレベル2になった可能性があるんです!」
リグルドさん以上に嬉々として目を輝かせるカランとクラン。
最速でシルバーランクのレベル2になった可能性。
怖気付かなければ、ブロンズランクのレベルアップはトントン拍子で上がれる。シルバーランクのレベル1になることは容易い。そのレベルの冒険者は、ごまんと居るのだ。
でもレベル2に上がるのは、至難の業。普通は、何年もかかる。
「ちなみに最速記録は今のところ、本部の方で十六歳だそうだ。ノークスはまだ十四歳だよな? ほらほら、レベルを確認だ」
また本部に行く時の自慢話に出来ると確信しているリグルドさんが、水晶玉を台とともに差し出してきた。
全然レベルアップの自覚がないから、皆の期待外れになるのは嫌だなと思いつつも、無駄に時間を引き伸ばすことはせずに水晶玉に触れる。
魔力から戦闘能力を測ることが出来る魔法の水晶玉。
カッと光り出した色は、銀。そして2の数字が映し出されていた。
シルバーランクのレベル2だ。
「「「おおおっ!!!」」」
割れんばかりの声が上がる。
こうして、私は最速の最年少記録でシルバーランクのレベル2になった。
無茶をしたことはしっかりリグルドさんとタイリースさんにお叱りを受け、無事だったことと最年少記録を盛大に祝われたのだ。
数日後の休憩室。私は思いもよらずにレベル2と書かれたタグを手に入れて、ニヤニヤしてしまった。
「事情を知っている冒険者達は君を賞賛し、そして嫉妬しているよ。でも事情を知らない冒険者は精霊三体持ちだからレベルアップしたのだとか、年齢詐称じゃないのかって言ってたのを耳にしたよ。ギルドで働いているから、疑われちゃってるね」
サブマスターのアエストロさんがそう話しかけてきたけど、私はキョトンとする。
「それって、水晶玉の鑑定を無視して、自分でレベル2のタグを発行したとか疑われているってことですか?」
「そういうことですね」
「ええー、ギルドの評判に傷がつきそうですね。なんかすみません」
「いやいや、疑うような冒険者達の評判なんて気にしないよ」
アエストロさんは手を振っては笑い退けた。
「ただ残念だよね。君が命がけで仇を討ったというのに、そんな噂をする輩がいるなんて」
「まぁ……仕方ないですよ。世間は賛否両論ですから」
「ノークスくんは、歳のわりには達観しているよね」
それって老けている考え方をしているとオブラートに包んでいるのかな。
そう言えば、ネマさんのお姫様抱っこの件から、敵意が向けられていたけれど、それらが和らいだ気がする。私がレベル2になったから、それより下の冒険者は睨むことをやめたのだろうか。
「そういえば、彼に礼を言ったのかい?」
「彼?」
唐突で誰のことか、わからなかった。
「魔力切れで意識のない君を運んだ、魔族の彼だよ」
「ああ! 実はお礼を言おうといつも探してるんですけど……中々会えなくて」
しゅんと肩を下げる。
「そうだね、ちょうど君が森に行っている間に、換金に来るからね。彼は」
「すれ違いなんですよね」
「ちょっと来るまで待ってみれば、どうだい?」
「そうしようかな……」
でも、晴れてレベル2になった私は『ドムステイワズ』のシルバーランクのレベル2のメンバーのパーティーに入れてもらって冒険者活動をしているから、別行動がしにくい。冒険者業を休む日に待ち伏せるかな。
「そういえば、オレ、名前すら知りません。名前はなんですか?」
「彼の名前かい? そうだね、命の恩人の名前くらい知っていないと失礼だね。彼は、ゴールドランクのレベル1のラドイス」
ラドイス。
私の冒険者デビューの日に、この街のギルドに現れた魔族の男性。
そして、意識を失くした私をギルドに運んでくれた命の恩人。
なんか縁がある人だし、仲良くしたいなぁ。
「ラドイスさん、か」
ちゃんとお礼を伝えよう。
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