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序章
08 引っ越し。
しおりを挟む予想通り。冒険者団体の『ドムステイワズ』の家から引っ越しをすると言えば、リーダーのタイリースさんが号泣してしまった。
「なんでだぁああ、ノークス!? あの家に戻るのは、結婚してからだと思っていたのに!! なんでだぁああ!?」
家族を持ってからあの家に戻るとばかり思い込んでいたようだ。
結婚か。全然想像つかないや。
相手誰だろう。むしろ性別はどっちなんだ。
私はどっちを好きになるのだろうか。
そんな疑問を覚えつつも、私はタイリースさんを宥めた。
呑んでもいないのに、号泣しだしたタイリースさんの元にメンバーが集まってきて、原因を聞く。すごく驚かれてしまった。
「え? ホームを出て行く!? なんでだよ!?」
「あたし達のせい!? こき使ったから!!」
シルバーランクのレベル1のメンバー達が騒ぎ出す。私とパーティーを組んでくれたシャロンさん達だ。
「違いますよ。オレはただ……」
オレは事情を話して、それから三体目の精霊のリーデを紹介した。
「リーデなのー。よろしくー」
くるりん、スピンをして登場したリーデを見て、一同は固まる。
それから怒涛のような文句が、私にぶつけられた。
「精霊三体持ちだと!? ふざけんな!!」
「心配して損した!!」
「三体持ちとか、聞いたことねーし!!」
「ずるすぎるだろ!! お前!!」
ゴッと拳骨が落とされてしまい、私は涙目で頭を押さえる。
「皆ひどっ!! 痛いよジョーさん!!」
「自分だけ精霊と契約するからだ!」
「精霊からオレと契約したいって言うから!」
「もう一回殴られたいのか!? このモテ男!!」
まだ拳骨を落とそうとするジョーさんから、離れる。
「ノークスが昔の家に戻るって言うんだ、皆も悲しみなさいな。寂しいよ、ノークス。でもいつでもご飯を食べにおいで」
「リリンさん……!」
「そうだ! ここもお前の家だ!! ノークス!!」
リリンさんが涙ぐみながらに言ってくれたあと、タイリースさんが私を苦しいほどきつく抱き締めてきた。痛いけれど、気持ちが嬉しいから受け入れる。
そのあと、パーティーだったリーダーのウォンさんやシャロンさん、それからエイブさんとウィルさんが、私の引っ越し祝いをしてくれた。ただの乾杯なのだけれども。
冒険者になった時のようにお酒を勧められたけれど、それはちゃんと遠慮した。
一日休ませてもらい、引っ越しをする。
元々、荷物は大してなかった。服に生活用品くらい。だから自分で抱えて運ぶのは、往復三回くらいで済んだ。ローズとルーヴァとリーデも、少し手伝ってくれた。
冒険者団体の『ドムステイワズ』の家から、あまり遠くない。歩いて、五分くらいの距離だ。
アルジスの街によく馴染む薄茶色の屋根。一階建てで、ダイニングルームとキッチンとバスルーム以外に、部屋が四部屋ある。精霊にそれぞれ部屋を与えようとしたけれど、私と一緒の部屋がいいと言われた。
なので、ローズとルーヴァのベッドを、私の部屋に運んだ。
「よし、ここが我が家だ」
ただいまって、気持ちが大きい。
またここに住めるとは、嬉しい限りである。
私達の寝室は、昔からある私の部屋。十歳まで遊んでいた積み木などのおもちゃは、物置にしまった。代わりに、ベビーベッドを取り出す。それをリーデのベッドにした。ちょうどいいサイズで、気に入ってくれる。
「まぁ、皆の家だと思っていいよ。好きに寛いでね」
「そうさせてもらいます」
「そうするなの!」
「家が出来て嬉しいー」
ベッドに飛び込めば、ローズ達は私の上に乗った。
精霊はあまり重さを感じないから、軽い軽い。
「でもこれからが大変なんだよなぁー」
掃除をする暇はあるだろうか。食事をする体力や時間がないなら、ホームに行けばいい。バスルームはあるけど、やっぱり掃除だな。
快適に住むには、掃除する時間も設けなければいけない。
「一人暮らしは結構大変なんだよなぁ」
「一人暮らしの経験はないはずでは?」
私のお腹に座ったルーヴァが問う。
「あ。話してなかったけど、オレ、前世の記憶があるんだ。わかるかな? 生まれる前の人生。まぁはっきり全部あるわけじゃないんだけどさ、その前世で一人暮らしをした経験があるんだよ」
胸の上に突っ伏していたローズも、太ももに貼り付いていたリーデも、顔を上げて、私を見る。
「前世、ですか……」
「やっぱりこの世界でも珍しいことなの?」
「いえ、本人が話さないだけで、いると思われます」
ルーヴァはそう答えた。
「オレは前世から生まれ変わりたい願望を持っていたけれど、まさか男の子になるとは思わなかったなぁ」
「え!? 前世は女の子だったなの!?」
「うん」
ローズが驚きで声を上げる。
女の子というか、喪女だけれど、そこまで言わなくていいだろう。
「なんだ? ローズ。元女の子のオレは嫌か?」
起き上がって、首を傾げてローズを見た。
「なっ! 嫌だなんて言ってないなの! ノークスはノークスなの! 好きなの!!」
「わたちも好きなのー!」
ローズとリーデに飛び付かれた私は、ベッドに倒れ込む。
「あはは、ありがとう」
抱き締めるのはちょっとローズが柔らかすぎて不安なので、頬擦りで留めておく。
「ノークス。一人暮らしではありません。精霊三体がついています。一緒に生活していきましょう」
ルーヴァが冷静な態度で告げた。
「そうだね、うん、一人じゃなかった。これからもよろしくな? 皆!」
「よろしくなの!」
「よろしくー」
「よろしくお願いします」
両親と暮らしていた家で、精霊達と新しい生活を始める。
「早速ですが、冒険者業について確認をしましょう。ブロンズランクだからといって、油断はいけませんよ」
片眼鏡をくいっと上げたルーヴァ。
「うん、わかってるよ。ルーヴァ」
「リーデは光の魔法を使うのですよね?」
「あとねー、鼻がきくのー」
「「鼻?」」
ルーヴァと私は声を重ねた。
リーデは自分の黒い鼻を、ぽむっと押す。
「犬みたいに嗅覚が鋭いってこと? じゃあ魔獣の捜索に役立つね! 探し回る手間が省けるよ!」
「役に立つのー」
「後ろは任せるなの!」
リーデに魔獣の捜索をしてもらい、ローズには後ろを見張ってもらう。それで決定だ。
「よし。明日に備えて寝よう!」
それぞれベッドがあるというのに、何故か私と同じベッドで寝ることにする精霊達。寝返りで潰してしまうことが心配だから、寝返りしないようにしよう。
翌朝起きたら、顔を洗って髪を整えた。
着替えて、腰にナイフ二つを装備したら、冒険者団体『ドムステイワズ』の家に行くために家を出る。
「いってきます!」
亡き両親がいると思って、出掛ける挨拶をした。
冒険者として、この家から出掛けるって、なんか最高な気分だ。
まるで、冒険者の初日の気分。
家でしっかり朝の挨拶をして、朝食をもらってから、また「いってきます」を言う。
ギルド会館までルーヴァを送り、街を出てブロンズランクの森に直行した。
リーデの鼻は、結構便利だと思う。
リーデは街の外に出ることが初めてらしく、興奮で小さな尻尾を激しくプイプイと振っていたけれど、ちゃんと仕事をしてくれた。
「あっちから兎っぽい匂いがするー!」
そうリーデが言えば、一角ツノの兎型の魔獣がいたので狩る。
「こっちから猪っぽい匂いがするー!」
そうリーデが言えば、猪型の魔獣がいたので、それも狩った。
そんな調子で森を駆け回り、魔獣の討伐はスムーズに済んだ。
普段の二倍近くは狩った気がする。ポーチがパンパンに膨れた。
正午になって、ギルドに出勤。換金を任せたルーヴァに、上々だってことを嬉々として話した。基本、自分で換金しない。ズルなどを疑われないためだ。
「それはよかったです。本当ですね、二倍の金額になってます」
「でしょでしょ?」
「わたちの鼻すごいー」
のほほんとしているリーデを、ローズと一緒になって撫でた。もふもこでる。
換金専用窓口をギルドの経営時間まで担当して、家の方に帰った。夕食のためだ。皆に「おやすみなさい!」と言って、次は自分の家に帰る。
水の魔法で水を出す。宙にまとめた水に火の魔法を纏わせて熱湯に変えてから、浴槽にジャバンと落とす。それで、まったりとお風呂に浸かった。
銭湯代が浮くし、誰の目も気にせず、一人でお風呂って気兼ねしなくていい。あ。精霊が一緒だった。
ほっこりしたあとは、寝室に行く。
「今日もお疲れ様。ローズ、ルーヴァ、リーデ。おやすみ」
「おやすみなの! ノークス!」
「おやすみなさい」
「おやすみー」
それぞれが自分のベッドに潜ったことを確認してから、ぐっすりと眠った。
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