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序章
06 誕生日。
しおりを挟む私の部屋は、ローズとルーヴァと私で共有している。
ローズはベッドサイドテーブルの上に手作りベッドを使い、ルーヴァは自分の給料で買ったというベッドを持ってきて部屋の隅に置いた。
狭くなったな、とほのぼの思う。
掛け持ちを始めて一週間。
冒険者業の方をお休みして、ローズとまったりしていた私は、思い立った。
「お弁当作ろう!」
ほら、なんか作りたくなるってこと、あるじゃん。
「ノークス、料理出来たの?」
「そうだよ。まぁ冒険者になってからは、キッチンに立ってないけどね」
ローズがキョトンとしたから、笑って答える。
「ついでにギルドの皆に、おやつも作ろう」
「おやつ!?」
ローズは赤い瞳を瞬かせた。
「甘いものじゃないよ?」
キッチンに向かいながら話す。肩に乗ったローズは、ちょっと残念そうにぷっくりとむくれた。
「しょうがないな。材料があったら、甘いお菓子を作ってあげるよ。本当はジャガイモとごぼうの揚げ物にしようと思ってたけど……」
よく考えたら揚げ物を持っていくのは、油まみれになる。
「やったなの!!」
両手を広げて、大喜びをするローズ。
「キッチン貸してくださいー」
タイリースさんの妻リリンさんの許可を得る。
「あら、珍しいわね。どうしたの?」
「お弁当を作って、ギルドにおやつを作ろうと思いまして。コーンフレークとバターとマシュマロは、ありますか?」
昼食の準備をしているリリンさんが、朗らかな笑みで迎えてくれた。
「あら、久しぶりね。私達の分も作ってくれるかしら。そしたらお弁当は昼食を詰めておくわ」
「コーンフレークもマシュマロもあるわよ。バターも好きに使って」
「ありがとう! じゃあ皆さんの分も作りますねー」
お弁当も自分で作ってしまいたかったけれど、リリンさん達のついでに作ってもらおう。
マシュマロはわりと高価なお菓子なんだけど、私がお菓子作りに使うから、置いてもらっている。
「何作るなの? ノークス」
「マシュマロコーンだよ」
「マシュマロコーン?」
大抵の知識を生まれ持ってくる精霊も知らないマイナーなお菓子。
お母さんが作ってくれたものだ。
先ずは弱火で鍋を熱して、バターでマシュマロを溶かす。マシュマロがとろりとしてきたら、そんな鍋の中に、ただのコーンフレークをたくさん投入した。焦がさないうちに絡めて、食べやすいサイズに小分けして完成だ。
マシュマロの甘い匂いが漂うコーンフレークの塊。
「わぁー! 美味しそうなの!」
私の頭の上で、ローズがポンポンと跳ねた。
「美味しいのよ、ローズちゃん」
リリンさんが、ローズに笑いかける。
「温かいうちにどうぞ」
ローズに一つ、持たせた。カプッとかじる。
咀嚼をするとサクサクと音が鳴った。
「美味しいなの!」
マシュマロでコーティングしたコーンフレーク。お気に召したようだ。
少し時間が経てば、かっちり固まるそのマシュマロコーンを、バスケットに詰め込む。
「食べたら病みつきになっちゃうのよねー困っちゃうわー」
「もっもっもっ!」
サクサクとかじりつきながら、ローズは返事をしたみたい。
食べ始めたら、ついつい食べ続けてしまう中毒性あるお菓子である。
正午前に、そんなお菓子のバスケットとお弁当を持って、ローズと一緒にギルド会館へ行った。
「ルーヴァ。皆さーん、こんにちは! お菓子持ってきました。よかったら食べてください」
ギルド会館の中は、空いている。冒険者も昼食に行っているのだろう。
そんな隙を狙って、ギルドメンバーも交代で昼食をとろうとしていた。
「え? お菓子? 何何?」
エルアさんが興味津々に覗き込んだ。
「マシュマロコーンというお菓子ですよ。甘いものが好きなら、ぜひ」
「いただこう」
先にマシュマロコーンを取ったのは、意外にもアエストロさん。
物珍しそうに見たあと、かじりついた。
「ん! 美味しいね」
「本当ですか? 私も!」
「あ、私もいただきます!」
どうぞどうぞ、と差し出す。
メリッサさんとネマさんが、取って口に運んだ。
「ルーヴァも」
「いただきます」
ルーヴァに一つ、手渡した。
絶賛される中、私もお弁当と食べているとリグルドさんもやってきて、バスケットのお菓子に注目。
少年の冒険者の手作りお菓子だと聞くと、ちょっと変な顔をされた。
それでもパクリと一口いく。「美味い」と一言伝えると、また一つバリバリと食べる。
「しっかし、趣味がお菓子作りなのか? ノークス」
「いえ、両親を十歳の頃に亡くして、それから冒険者団体の家に預かってもらっていたので、その時に食事作りなどの雑用を引き受けまして。あっ、レシピは母に教えてもらいましてね。一緒に作ったんですよ……」
明るく話したはいいけれど、語尾が小さくなってしまった。
思い出が過ぎり、気まずい空気を察知。
ポンポンと、リグルドさんとアエストロさんに肩を叩かれた。
「お気に召してくれて嬉しいです!」
にっこりと笑っておく。
それから、冒険者業の休みの日は、マシュマロコーンを作って持っていくことにした。喜ばれるからだ。
ギルドの求人募集に、人がようやく来た。
コニーという名の少女だ。亜麻色の髪が長くて可愛いめの娘。なんと同い年だという。
コニーが来ても、すぐに仕事を覚えるまで時間が要る。だから私がすぐ外されることはなかった。そもそもお目当てのパーティーメンバーが見付からないので、ソロ活動のままだ。
結局、掛け持ちをして、日々が過ぎた。
やがて、冒険者になって、一年が経つ。
つまり、誕生日を迎えたということ。私も十四歳となった。
盛大に『ドムステイワズ』で祝われて、ギルド会館の中でも祝われる。
おめでとうの言葉は、嬉しいものだ。
「ノークスの誕生日プレゼントなの!」
「ローズと私で選びました。どうぞ使ってください」
契約している精霊達からは、なんとプレゼントをもらった。
精霊の加護を込めたナイフが二つ。刀身にそれぞれ、ローズとルーヴァの魔力を感じた。
精霊の魔力を補充するという貴重なナイフ。精霊と契約している人ぐらいしか使用出来ない代物だ。結構な値段がするはず。
お金を出したのは、働いているルーヴァだろう。
「ありがとう! 早速明日から使うね!」
使うのが楽しみだ。
だって世界で一つだけの魔法のナイフだ。
雷のような火の魔法のナイフと、水を自在に操る魔法のナイフ。
「ローズもルーヴァも、大好き! 二人に会えて、オレほんと嬉しい!」
「ローズも好きなの! ノークスが大好きなの!!」
「……照れますね。私も好きですよ」
柔らかな精霊を控えめに抱き締めた。
ローズは精一杯抱き付いてきて、ルーヴァはそっぽを向く。
幸せな気分で眠った。
翌朝。フィットしたポロシャツのようなデザインのトップスと、ブカッとしたズボン。腰のベルトに、ナイフのホルダーをしっかりつけた。そして、昨夜もらったナイフを差し込んだ。黒の腕当てをつけて、格好つけた。
ルーヴァをギルド会館に送ってから、ブロンズランクの魔獣が出没する森に走っていく。試し切りには、最適だ。
「ローズ、後ろよろしく」
「任せるなの!」
いつものように背後はローズに警戒してもらい、私は戦いに専念。
いや戦いと言うより、狩りだ。
一方的に仕留めまくる。一角ツノの兎や猪の魔獣。
ローズの魔力が光るナイフは、刺し込んだ瞬間に感電し爆ぜた。
ルーヴァの魔力が光るナイフは、水がまるで刃のように纏って切れ味は抜群を発揮する。
ついつい楽しくて、時間を忘れた。
ギルドの仕事、遅刻である。
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