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序章
03 初日。
しおりを挟むローズと警戒しながら標的を探し、話を聞いた。
「へぇ。新人冒険者と契約するためにここまで来たんだ?」
「そうなの! すぐに助けてくれたノークスが気に入ったなの!」
「あはは、ありがとう」
生まれたばかりのローズは、とりあえず契約者を探しにここの森に来たそうだ。
「ローズは何から生まれた精霊なの?」
「聞いて驚くなの! 火と雷なの!」
「ほんと!?」
「そうなの!」
ローズはえっへんと威張るように胸を張った。
木に雷が落ちて、燃えたそこから生まれたのだという。
「じゃあ、火と雷の融合魔法が使えるってこと?」
生まれたてとはいえ、かなり強い精霊かもしれない。
「そうなの! 雷のように素早い火の魔法をあげるなの!」
ローズが祈るように目を瞑り、手を合わせた。
赤い光が強くなり、手を差し出した私に灯る。
魔力が、感じられた。ピリッとするし、熱い。
「確か、精霊の魔法ってイメージするだけでいいんだよね?」
「そうなの!」
普通の魔法は詠唱が必要だけれど、精霊の場合はなくてもいい。
「ネークボアを見付けたら早速試してみるよ!」
「そうするなの!」
そんな会話をして、数時間が経った。
兎型や猪型の魔獣が交互に現れたけれど、ネークボアは中々見付けられない。ローズは飽きてしまったのか「早く試そうなの」と急かした。
「ローズも果物は食べるでしょ? ほら」
林檎の木を見付けたから、取ってやる。ちゃんと拭いたナイフで半分に切った。それを差し出すとローズは、ぱぁっと目を輝かせて受け取る。
私が先にかじりついて、味を確認した。
「甘いよ」
「うん! 甘いなの!」
すぐにカプッと、ローズも林檎にかじりつく。
「初めてなの!」
初めての林檎は、お気に召したようだ。フルフルと、一輪の薔薇のような頭を揺らした。
「そうか、生まれたばかりだもんね。じゃあ苺も見付けてあげるよ。美味しいよ?」
指先でローズの頬をつつけば、ぷにっと鳴った。
ぷにぷにだ。マシュマロみたい。
「ノークス、好きーなの」
すりすりとローズから指に頬擦りをしてくれる。
可愛いなぁ。和む。
次は苺と標的を探しつつ、進んだ。
遠くで爆発音が聞こえる。他の新人冒険者も頑張っているようだ。
「やっと見付けた。ネークボア」
「……」
長い胴体と猪の顔の魔獣を見付けた。茂みから伺う。
ローズがやけに静かなので見てみれば、苺の方じゃなくて残念そうな表情をしている。あとで見付けてあげよう。
茂みから、手を翳して狙いを定めた。
雷のように素早い火の魔法を発動した。
ヒューと打ち上げられた花火のように、真っ直ぐにネークボアへ向かう。そしてドォンと爆ぜた。
私が持っている火の玉を飛ばす魔法より、早くて派手で強力だ。
「あっちから来たなの!」
音で兎型の魔獣が右方向の茂みから飛び出してきた。
慌てることなく、ナイフを突き刺して仕留める。
「後ろからもなの!」
次に飛び込んできた魔獣を、サッと避けた。
方向転換して再び向かってきたところを心臓部を狙い突き刺す。
もういないようだ。
「素早くて強力な魔法だけど、派手すぎて周りの魔獣を集めちゃうな……気をつけよう」
そう独り言を零しつつ、足元の魔石を拾う。
小石サイズが二つ、石サイズが一つ。ポーチに収納。
「苺、探しながら、頑張ろうっか!」
「そうなの!」
すっかり苺に興味が持っていかれているローズのために、笑いかけた。
林檎でランチをすませて、デザートの苺を探す。
一時間後くらいに、やっと苺を見付けた。真っ赤な熟れた苺。
また食べやすいように半分に切ったものを持たせれば、カプッとローズは食べた。
「美味しいなのー!」
苺の味もお気に召したようだ。
嬉しそうで何より。もう半分も渡してあげた。
ローズと一緒にまた少しそのエリアで討伐をする。
「よし、そろそろ帰ろうっか。オレが属してる冒険者団体『ドムステイワズ』に紹介するよ。その前に、ギルド会館だ。行ったことある?」
「ないなの!」
「案内するよ、おいで」
「うん!」
ぴったりと寄り添ってきたローズを連れて、街に戻った。
「ここがアルジス街だよ。いい街でしょ?」
私が生まれ育った街。
薄ベージュ色の壁と薄茶の煉瓦の屋根。建物がひしめくように並んでいる。中には白い塗装の壁もあるけれど、全体的に落ち着いている感じ。素朴な街並みを、私は気に入っている。
そして、色とりどりの髪の住人が、行き交う。
ローズには街自体が目新しいのだろう。ルビーのような目を輝かせて見ていた。
「そんで、あれがギルド南東支部だよ」
ちょっと街から浮いている感じなのは、しょうがない。
アーチ型が並ぶ二階建ての巨大な建物は、オレンジっぽい色。
中に入れば、冒険者でいっぱいになっていた。
「あの掲示板から依頼を受けたりするんだよ。ネークボアは、ブロンズランクの依頼。このダグに入ってる。提出すれば報酬がもらえるんだよ」
「ほうほう!」
私がブロンズのダグを見せる。ローズはコクコクと頷く。
他の冒険者のように、私はローズを連れて列に並んだ。
依頼完了を報告をする窓口は三つあって、一番空いている奥から三番目の列の後ろにつく。
ローズが気にするから、シルバーランクの掲示板から依頼をダグで受け取る様子を一緒に見た。
順番が来たところで、ダグを提示。
光ったブロンズのダグから、読み取った。対応をしてくれたのは、どうやら精霊のようだ。つり目で左に片眼鏡をかけた水色の肌。同じく水色の髪が頭の上ににあって、波打つように左に向いている。黒の燕尾服を着たその水色の精霊は、ローズより一回りも大きい。テディベアサイズ。ちょこんと窓口に座った姿は、二頭身だってこともあって可愛かった。
置いてある名札には、ルーヴァと書いてある。
「ネークボアの討伐依頼完了、報告ですね。魔石を見せてください」
「はい」
接客スマイルはなし。クールな精霊のようだ。
ローズの存在も気に留めていない。慣れっこのようだ。
私はポーチの中から、石サイズの魔石を取り出して渡した。
「ネークボアに間違いありませんね。依頼料は、銀貨五枚です。他に換金する魔石があるなら、換金します」
「あ、お願いします」
ポーチを腰から外して、ジャランと中身をトレイの上に出す。
素早く視線を走らせるとルーヴァは言う。
「銀貨十枚と銅貨三十枚です」
「それでお願いします」
それが妥当だと思い、私は頷いた。
「計算が早いですね。一目で判断したなんてすごい」
「経験と慣れです。私は規則正しく雫が落ちる水の精霊ですので、きっちりしないと気が済みません」
「なるほど。安心して任せられますねー」
「……嫌がる人もいますがね」
ボソッと呟いたルーヴァ。首を傾げたけれど、お金を差し出されたから、受け取るとルーヴァは「次」と後ろの人を呼んだ。
私が退けば、ついてきたローズが「愛想がないなの!」と言う。
「クールで、いい精霊だと思うけど?」と私はそれだけを返した。
接客業なので、愛想は必要だとは思うけれどね。
銀貨が十五枚、銅貨が三十枚。
地球に例えると金貨が一万円、銀貨が千円、銅貨が百円ってところだ。
一日の稼ぎとしては上々である。
「さぁ、次は『ドムステイワズ』の家だよ」
「ノークスの家族に会えるなの?」
「あー……両親は三年前に他界したんだ」
「……そうなの?」
寂しそうな顔をするローズに、私はニッと笑ってみせる。
「うん。だから『ドムステイワズ』がオレの家族! ローズもその一員だぜ?」
「……ノークスの家族! ローズも家族なの!」
ぱぁっと明るい顔に戻っては綻ばせるローズ。
私の頬に寄り添ってくれたから、頬擦りをしてやった。
街に溶け込むような、いたって普通の大きな建物だ。
「ただいま!! 聞いてよ、みんな!! オレ、精霊と契約したんだ! 名前はローズ!」
扉を押し開けたところで、今いるメンバーに報告をした。
私よりも先に帰ってきたり、休日にだらけているメンバーが、テーブルについていたけれど、ギョッとした顔をする。精霊と契約している『ドムステイワズ』のメンバーはいないので、私がこの中で初契約の冒険者だ。
でもローズは、どうやら恥ずかしがっているようで、私の髪に隠れてしまう。意外と人見知りをするのかな。
「オレの新しい家族だよ! よろしく!」
ローズを両手で包み、差し出した。
のちに帰ってきたリーダー達にもみくちゃにされて、褒められる。ローズも手厚く歓迎されて、やっと元気に「よろしくなのー!!」と声を上げた。
それが、私の冒険者としての初日だ。
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