2 / 13
序章
02 精霊と出会う。
しおりを挟む冒険者団体『ドムステイワズ』は、自由行動が基本だ。
ただし、「いってきます」と「ただいま」は絶対に言うこと。
言い忘れた場合、ペナルティーがある。リーダーの奥さんであるリリンさんのご飯を一回食べられない。料理や洗濯が担当のリリンさん。他にも、冒険者を引退した女性が三人、家政婦を三人雇っている。
私も同じ担当だったけれど、冒険者になったから暫くは専念させてもらう。
働きながら、食事も作るって結構大変だ。だって毎食考えるってだけでも疲れる。前世で一人暮らしを経験してよくわかっていたので、感謝しかない。
「リリンさん達! いつもありがとう!」
「いいのよ。ノークス。冒険者になっても、くれぐれも気を付けてね」
ややぽちゃっとしている。いや、むっちりしている体型と言うべきか。
やっぱりぽちゃっとしていると言っておこう。金髪を束ねて、旦那さんと同じ朗らかな笑みを向けてくれる。でも眼差しは心配をしていた。
「はい! いってきます!」
力強く返事をして、しっかり挨拶をして飛び出す。
新人冒険者は、しばらくの間、一人で戦う。初心者向けの魔獣退治で経験をしてから、仲間と戦うことが許される。魔獣と対峙し、怖気付いて、固まってしまわないようにだ。それで足を引っ張る場合があるらしい。
経験豊富でも、ブロンズランクのレベル3でも、同じだ。ギルドの受付嬢にも、リーダーにも釘を刺されたが、わかっている。
ギルドは、朝六時から開く。
冒険者のダグを首からぶら下げて、スキップするように走った。
ギルド会館は、とっても広い。大きな掲示板が三つ並んであって、それぞれゴールド、シルバー、ブロンズ色。前世で近いのは黒板かな。
ブロンズ色の掲示板に手を当てる。魔力を流し込めば、光って依頼が表示される。ブロンズランクの依頼は、大抵一人で討伐出来るものばかりだ。
だから、初心者向けの森の付近の討伐依頼を受けながら、慣れることが賢いやり方。そうヘンリーさんから教わった。
「ネークボアの討伐っと」
ネークボアなら、私でも倒せる。初心者向けの森にも近い。
ダグをペタンとつければ、ネークボアの討伐依頼はダグに吸い込まれて、掲示板から消えた。
これを討伐完了のあとにギルド受付に提示すれば、お金が支払われる仕組み。もちろん、討伐の証拠がいる。魔獣の魔石だ。
魔獣は魔石から創造される生き物。息の根を止めると、アメジストのような紫色とクリスタルの結晶みたいな形が、ドロップするのだ。
魔石は、ライトなどの原料に使われる。電池の代わりってところだ。
職人の手によって、光る石になったり、冷気を出す石になったりする。消耗品だけど、この世界の電気代やガス代ってところだ。
「よっと!」
ギルド会館の階段を飛び降りて、また走った。
次に向かうのは、初心者向けの森だ。
先ずは、街を囲んだ分厚い壁の西門を出る。すぐに森があるから、その中に飛び込む。
さらに西に向かって走っていけば、初心者向けのエリアだ。
家一つ分くらいの大きさの魔石が、地面から生えている。ナイフでもハンマーでも傷付かない。魔法をぶつけても、同じだ。そこから魔獣が生まれ落ちる。ブロンズランクの冒険者一人で、倒せるくらいの弱い魔獣だ。
魔石は、悪魔の創造物だと言われている。
どうして魔獣が生まれ、そして襲いかかってくるのかは、解明されていない。だから、この世界の住人は、そういうものだと認識している。
ボトッと魔石から一匹の魔獣が、今生まれ落ちた。
それは兎にとても似ている。でもユニコーンのようなツノがある。
目はギラついて、兎らしかぬ雄叫びを上げて、私に突進してきた。
私は腰の後ろのナイフを右手で取り出して、ツノを左手で掴み、ブスッと脳天に突き刺す。そうすれば、濃い紫の煙と撒き散らして、ポトンと石ころみたいな魔石が落ちた。
それを拾って、腰の収納ポーチに入れつつ、周囲を警戒。
一人だからこそ、周囲の警戒を怠ってはいけない。
「いないな」
私のスタイルは、ナイフの接近戦。魔法も多少使える。
父がナイフ使いで、母は魔法使いだった。
当然とも言えるスタイルだ。
「ネークボアを狩るか」
他の魔獣を狩りつつ、標的を討伐する。
また走った。森を駆けることは、慣れている。特に西門側の森は。
ネークボアは、顔は猪で、身体はちょっと長い魔獣だ。
そのネークボアを探していれば、また一匹の兎型の魔獣が突進してきた。
ツノに気を付けて、また脳天を刺す。
耳をすませて、気配を探る。よし、進もう。
ブーツで地面を蹴るように駆けていれば、聞こえてきた。
助けを求める声だ。
幼い感じ。自分と同じ新人冒険者が、怖気付いて逃げ回っているのだろうか。そう思って、すぐに助けに向かう。
「助けて助けて!!」
その声がはっきり聞こえたのに、姿は確認出来ない。
でも魔獣の方は見付ける。猪型の魔獣が二匹。
私は右手でナイフを、左手にもナイフを持って、横切ろうとする魔獣を追いかけて頭を刺した。先ずは一匹。そして宙を回転し移動をして、二匹目の頭を刺して仕留めた。
石ころ並みの魔石が二つ、落ちる。
兎型の魔獣よりも一回り大きいのに、魔石の大きさは似たり寄ったりなのはどうしてだろう。魔石の大きさは、強さに比例する。これが初心者向けの魔石サイズなのだろう。
「大丈夫?」
姿を確認出来ないけれど、近くの茂みにでも隠れたと思い、そう声をかけた。
「大丈夫なの!」
「わっ!?」
声は目の前からしたものだから驚く。
赤のような橙のような、球体の光の中に何かいる。
目を凝らしてみれば、はっきり見えるようになった。
まるでまだ咲き開かない一輪の薔薇のような頭と、ぷっくりした身体の二頭身。手足は摘んだように、短く細い。つぶらな瞳と全体的に、鮮やかな赤色だった。掌に乗りそうなほど、小さい。
「あれ? もしかして精霊なの!?」
精霊より妖精と呼んだ方がしっくりくるけど、この世界では稀に、とても稀に精霊と出会うことがある。こんな感じの妖精から、人型までそれぞれ違えど、契約すれば強力な魔法を授けてくれる。
「わー! わた……オレ、精霊初めて見た! 初めましてノークスっていうんだ。精霊さん。名前は?」
「名前はないの!」
威張るように胸を張る精霊さん。可愛いと思いつつ、周囲に魔獣がいないことを確かめる。
精霊は自然の中に生まれ落ちると両親から聞いた。例えば朝露の雫の中から生まれたり、木洩れ陽の中に生まれたり、様々だ。大抵名前を持たずに生きるという。
「ノークスがくれたら、契約してあげてもいいの!」
「まじで!? やった! 契約するよ! えっと名前は……ローズでどう?」
精霊が契約を持ちかけてきて、断らない冒険者はいない。だって強力な魔法を授けてくれるのだ。すぐ頷いた私は、安直だけどぴったりだと思って聞いた。
「今からローズなの!」
気に入ってくれたようだ。
「じゃあ、ローズはノークスと契約するなの!」
「ノークスはローズと契約をする!」
ちょこんと差し出された手は、ちっちゃい。
それに右手の人差し指で軽く触れた。互いの魔力の交換。
私の魔力を受け取ったローズは、ぱくんと食べた。
するとカッと光った。ローズは真っ赤なドレスを着たような姿に変わる。契約することで姿が変わるらしい。可愛いな。
これで契約完了だ。
「よろしく、ローズ!」
「よろしくなのー! ノークス」
ローズは真っ赤な顔を綻ばせた。
0
お気に入りに追加
460
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる