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序章
02 精霊と出会う。
しおりを挟む冒険者団体『ドムステイワズ』は、自由行動が基本だ。
ただし、「いってきます」と「ただいま」は絶対に言うこと。
言い忘れた場合、ペナルティーがある。リーダーの奥さんであるリリンさんのご飯を一回食べられない。料理や洗濯が担当のリリンさん。他にも、冒険者を引退した女性が三人、家政婦を三人雇っている。
私も同じ担当だったけれど、冒険者になったから暫くは専念させてもらう。
働きながら、食事も作るって結構大変だ。だって毎食考えるってだけでも疲れる。前世で一人暮らしを経験してよくわかっていたので、感謝しかない。
「リリンさん達! いつもありがとう!」
「いいのよ。ノークス。冒険者になっても、くれぐれも気を付けてね」
ややぽちゃっとしている。いや、むっちりしている体型と言うべきか。
やっぱりぽちゃっとしていると言っておこう。金髪を束ねて、旦那さんと同じ朗らかな笑みを向けてくれる。でも眼差しは心配をしていた。
「はい! いってきます!」
力強く返事をして、しっかり挨拶をして飛び出す。
新人冒険者は、しばらくの間、一人で戦う。初心者向けの魔獣退治で経験をしてから、仲間と戦うことが許される。魔獣と対峙し、怖気付いて、固まってしまわないようにだ。それで足を引っ張る場合があるらしい。
経験豊富でも、ブロンズランクのレベル3でも、同じだ。ギルドの受付嬢にも、リーダーにも釘を刺されたが、わかっている。
ギルドは、朝六時から開く。
冒険者のダグを首からぶら下げて、スキップするように走った。
ギルド会館は、とっても広い。大きな掲示板が三つ並んであって、それぞれゴールド、シルバー、ブロンズ色。前世で近いのは黒板かな。
ブロンズ色の掲示板に手を当てる。魔力を流し込めば、光って依頼が表示される。ブロンズランクの依頼は、大抵一人で討伐出来るものばかりだ。
だから、初心者向けの森の付近の討伐依頼を受けながら、慣れることが賢いやり方。そうヘンリーさんから教わった。
「ネークボアの討伐っと」
ネークボアなら、私でも倒せる。初心者向けの森にも近い。
ダグをペタンとつければ、ネークボアの討伐依頼はダグに吸い込まれて、掲示板から消えた。
これを討伐完了のあとにギルド受付に提示すれば、お金が支払われる仕組み。もちろん、討伐の証拠がいる。魔獣の魔石だ。
魔獣は魔石から創造される生き物。息の根を止めると、アメジストのような紫色とクリスタルの結晶みたいな形が、ドロップするのだ。
魔石は、ライトなどの原料に使われる。電池の代わりってところだ。
職人の手によって、光る石になったり、冷気を出す石になったりする。消耗品だけど、この世界の電気代やガス代ってところだ。
「よっと!」
ギルド会館の階段を飛び降りて、また走った。
次に向かうのは、初心者向けの森だ。
先ずは、街を囲んだ分厚い壁の西門を出る。すぐに森があるから、その中に飛び込む。
さらに西に向かって走っていけば、初心者向けのエリアだ。
家一つ分くらいの大きさの魔石が、地面から生えている。ナイフでもハンマーでも傷付かない。魔法をぶつけても、同じだ。そこから魔獣が生まれ落ちる。ブロンズランクの冒険者一人で、倒せるくらいの弱い魔獣だ。
魔石は、悪魔の創造物だと言われている。
どうして魔獣が生まれ、そして襲いかかってくるのかは、解明されていない。だから、この世界の住人は、そういうものだと認識している。
ボトッと魔石から一匹の魔獣が、今生まれ落ちた。
それは兎にとても似ている。でもユニコーンのようなツノがある。
目はギラついて、兎らしかぬ雄叫びを上げて、私に突進してきた。
私は腰の後ろのナイフを右手で取り出して、ツノを左手で掴み、ブスッと脳天に突き刺す。そうすれば、濃い紫の煙と撒き散らして、ポトンと石ころみたいな魔石が落ちた。
それを拾って、腰の収納ポーチに入れつつ、周囲を警戒。
一人だからこそ、周囲の警戒を怠ってはいけない。
「いないな」
私のスタイルは、ナイフの接近戦。魔法も多少使える。
父がナイフ使いで、母は魔法使いだった。
当然とも言えるスタイルだ。
「ネークボアを狩るか」
他の魔獣を狩りつつ、標的を討伐する。
また走った。森を駆けることは、慣れている。特に西門側の森は。
ネークボアは、顔は猪で、身体はちょっと長い魔獣だ。
そのネークボアを探していれば、また一匹の兎型の魔獣が突進してきた。
ツノに気を付けて、また脳天を刺す。
耳をすませて、気配を探る。よし、進もう。
ブーツで地面を蹴るように駆けていれば、聞こえてきた。
助けを求める声だ。
幼い感じ。自分と同じ新人冒険者が、怖気付いて逃げ回っているのだろうか。そう思って、すぐに助けに向かう。
「助けて助けて!!」
その声がはっきり聞こえたのに、姿は確認出来ない。
でも魔獣の方は見付ける。猪型の魔獣が二匹。
私は右手でナイフを、左手にもナイフを持って、横切ろうとする魔獣を追いかけて頭を刺した。先ずは一匹。そして宙を回転し移動をして、二匹目の頭を刺して仕留めた。
石ころ並みの魔石が二つ、落ちる。
兎型の魔獣よりも一回り大きいのに、魔石の大きさは似たり寄ったりなのはどうしてだろう。魔石の大きさは、強さに比例する。これが初心者向けの魔石サイズなのだろう。
「大丈夫?」
姿を確認出来ないけれど、近くの茂みにでも隠れたと思い、そう声をかけた。
「大丈夫なの!」
「わっ!?」
声は目の前からしたものだから驚く。
赤のような橙のような、球体の光の中に何かいる。
目を凝らしてみれば、はっきり見えるようになった。
まるでまだ咲き開かない一輪の薔薇のような頭と、ぷっくりした身体の二頭身。手足は摘んだように、短く細い。つぶらな瞳と全体的に、鮮やかな赤色だった。掌に乗りそうなほど、小さい。
「あれ? もしかして精霊なの!?」
精霊より妖精と呼んだ方がしっくりくるけど、この世界では稀に、とても稀に精霊と出会うことがある。こんな感じの妖精から、人型までそれぞれ違えど、契約すれば強力な魔法を授けてくれる。
「わー! わた……オレ、精霊初めて見た! 初めましてノークスっていうんだ。精霊さん。名前は?」
「名前はないの!」
威張るように胸を張る精霊さん。可愛いと思いつつ、周囲に魔獣がいないことを確かめる。
精霊は自然の中に生まれ落ちると両親から聞いた。例えば朝露の雫の中から生まれたり、木洩れ陽の中に生まれたり、様々だ。大抵名前を持たずに生きるという。
「ノークスがくれたら、契約してあげてもいいの!」
「まじで!? やった! 契約するよ! えっと名前は……ローズでどう?」
精霊が契約を持ちかけてきて、断らない冒険者はいない。だって強力な魔法を授けてくれるのだ。すぐ頷いた私は、安直だけどぴったりだと思って聞いた。
「今からローズなの!」
気に入ってくれたようだ。
「じゃあ、ローズはノークスと契約するなの!」
「ノークスはローズと契約をする!」
ちょこんと差し出された手は、ちっちゃい。
それに右手の人差し指で軽く触れた。互いの魔力の交換。
私の魔力を受け取ったローズは、ぱくんと食べた。
するとカッと光った。ローズは真っ赤なドレスを着たような姿に変わる。契約することで姿が変わるらしい。可愛いな。
これで契約完了だ。
「よろしく、ローズ!」
「よろしくなのー! ノークス」
ローズは真っ赤な顔を綻ばせた。
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