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後日の『魔王』としもべ達【エンド】
しおりを挟む後日。
第一王子がだめならば、と王家から、『勇者』の力のあるディオ公爵との婚約の打診が来たため、火を噴く勢いで反対したカーティスは「オレ達の『魔王(エレンノア)』を婚約で縛ろうとすんじゃねーッ!!!」と僕(しもべ)仲間を引き連れて城へ突撃した。
打診は予想していたが、断る気でいたエレンノアは好きに暴れさせて、適度な頃合いで呼び戻しておいた。
城は、多少壊れたらしい。
被害は、門の完全破壊、威嚇攻撃で一部の塔の屋根に風穴があき、騎士団と玄関広間は半壊。これでも多少の被害で留まっている。
王都内の邸宅のサロンで、黒い三つ目の黒猫姿の魔物を膝の上に乗せながら、まったりと読書を楽しんでいたエレンノアは、ミスティスの淹れた紅茶を受け取り、啜った。
そこで『戻りなさい』の一言で、転移魔法で戻ってきたカーティス達。
「もうあんな城崩壊させてやる!!! 止めるな、エレンノア!」
「そのあと、また私にキスして、魔力酔いで倒れるつもり?」
まだカッカしているカーティスに、エレンノアは爆弾を投下した。
固まるカーティスの背中を、激怒のオーラを放って睨み付けるユーリとリーユ。
「また? またってなんだよ? てんめぇ~キス魔王子ぃ~!」
「何抜け駆けしてくれてんだ! こんのキス悪魔王子! エレンノア様の唇を穢したその口、そぎ落としやがれ!!」
「なんだとこの吸血魔双子! 穢れてはいねぇよ!!」
ユーリとリーユと、カーティスの言い合いに、オーディとアーディも割り込んだ。
「確かに殿下はキス魔って呼ばれてる王子だけど、エレンノア様に会ってからキスしてないって言ってたもん!」
「穢れてないもん!! 多分!」
「お前ら! 加勢するなら、ちゃんと加勢しろ! 気にしてることを抉ってくんな!!」
前に立ち塞がる兄弟を、カーティスは怒った。そして、ちょっぴり傷ついている。
「それを言うなら吸血魔双子は、エレンノア様の身体を傷つけてまで吸血してるじゃん!」
「そうだそうだ! 二度とエレンノア様の血を乞うな!」
「あーん!? オレ達は吸血鬼なんだよ! 牙で噛みつかずに切り傷で血を吸ったあと、オレ達があげた自己治癒力で治してるし!?」
「エレンノア様には、傷一つ残ってねーよぶぁーか!!」
ギャンギャンと言い合う二組。
その間に、ミワールはエレンノアの隣に座り、残りの紅茶をもらった。
「あー! 傷が治ればまた傷つけていいってこと?! サイテー!! 最低な加害者!!」
「ああ言えばこう言いやがって!! クソガキ!!」
ギャンギャン喚く悪魔少年達。
それをボーと眺めるミスティスは、正直。
「(どうでもいい)」
と、思っていた。
悪魔達の日常茶飯事のやり取りである。
血も魔力も欲さない。死神のミスティスが欲するのは、生命力だ。生きたいと言う渇望や、死にがたくないという絶望の思いから出るエネルギーなら、つい先日も補給したばかり。未だに満腹感のある彼は、余韻で静観していた。
「ミスティス。コーヒーをちょうだい」
「! かしこまりました、エレンノア様」
執事の真似事もこなすミスティスは、エレンノアの要望に、冷たい表情を緩めて応える。
「では、エレンノア様。アーモンド入りのショコラケーキもいかがでしょうか?」
シャインがにこりと笑みをつり上げて、ケーキを見せた。
「ええ。一緒に食べましょう?」
「喜んで!」
ショコラケーキが好物のシャインは、鼻歌をしながら、ミワールの分も分身を使って運んだ。
「一番に僕(しもべ)になったからって、図に乗んな第十三王子め!!」
「クソキス悪魔王子!!」
「ハッ! 最初の僕(しもべ)だと、威張った覚えないがな!? 気にしてんのは、てめーらだろ!! クソ双子!!」
「順番は関係ないでしょ! 殿下が強いから偉いの!」
「そうだそうだ! エレンノア様の右腕だ!」
バチバチと火花を散らして喚き合い続ける。
「同じ悪魔だから同レベルの喧嘩をするのかしらねぇ~?」
ショコラケーキをフォークで食べながら、ミワールは暢気に零す。
エレンノア様も片手で食べつつも、読書を続けていた。
「ぶっはー! 右腕!? そう言われたとこ、見たことないけどー!?」
「もしその座にいるなら力尽くで奪ってやるよ!!」
シャアッと牙を剥き出しにしたユーリとリーユは、禍々しい魔力を練り上げた。
「やんのか、かかってこいよ! クソハーフの双子ども! 今日と言う今日は、格の違いを見せてやる!」
ぶわぁああーッと、こちらも禍々しい膨大の魔力を練り上げて溢れさせるカーティス。
スススッと、後ろへ下がるオーディとアーディは、互いに抱き着き合った。
フォークを置いたエレンノアは、その手を上げて、人差し指をフイッと振り下ろす。
「『ひれ伏せ』」
その一言を添えて。
すちゃっと、その場にひれ伏す羽目になったユーリとリーユと、カーティス。溢れていた魔力も、木っ端微塵に消えてしまった。
エレンノアが怒ったのかと、冷や汗をダラダラ垂らす三人。
「家が壊れるでしょ」
それを阻止しただけで、言い合いなど気にしていないエレンノアは、ミスティスから受け取ったコーヒーを、冷まし忘れて口に含んだ。
「あちゅっ」
ベッと、火傷した舌先を出すエレンノアに。
「「「「「「「(ぎゃわいいッ!!!)」」」」」」」
一同、可愛さにノックダウン。ズキュンときつく締まる胸を押さえた。
「も、申し訳ございませんっ。エレンノア様の猫舌には、熱すぎましたか!」
淹れた本人であるミスティスだけは、青ざめて慌てる。
「いいよ。死神のあなたには、この熱さは脅威じゃないから無理もないわ。もう治ったから、気にしないで」
「は、はい……寛大なお言葉、ありがとうございます」
「美味しいコーヒーをありがとう、ミスティス」
「! ……どういたしまして」
吸血鬼の能力である自己治癒で、舌の火傷はもう治った。エレンノアが微笑んで礼を言うから、ミスティスはホッとして顔を綻ばせる。
こうして魔物を従わせていても、本人は人間だ。脆い。
いくら治癒力を備えていても、万が一のことがあったら恐ろしいと、心配の眼差しが集まるのは無理もない。
「エレンノア様~、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
オーディとアーディはエレンノアの膝に引っ付き、そこにいる猫を撫でながらも、上目遣いで見上げた。
「僕達も、そろそろコーヒーを飲んでもいい?」
「んー、どうかしら」
「僕達もミスティスのコーヒーを飲みたい! エレンノア様も10歳には飲んでなかった?」
「あら。よく覚えてるわね、ちっちゃかったのに」
「じゃあ、試しにひと舐めしてみる?」
ミワールが差し出してくれたカップを受け取り、オーディからコーヒーをひと舐めしたが、アーディも一緒になってぶるっと震え上がって「にがーい!!」と泣きべそかく。
それをエレンノアとミワールとシャインで笑った。
「エレンノア……そろそろ立っていいか?」
まだひれ伏した格好のカーティスが、許可を求めたが。
エレンノアは、反応を示さない。コーヒーを啜り、ミスティスに持たせると、本のページを捲る。読書中。
「「「(放置……!!)」」」
ひれ伏した格好を放置されている三人は、ガガーンッとショックを受ける。
結局、悪魔王子達は、読書のキリがいいところまで、ひれ伏す命令を取り消してもらえなかったのだった。
【エンド】
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