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09 お披露目。
しおりを挟む聖女のお披露目を名目にしたパーティーが始まった。
私はへーリーさんに贈ってもらった淡いオレンジ色のドレス。これでもかと真っ白な髪をとかしてくれた。短すぎると髪飾りがない。しょぼん。代わりに、金色のピアスをぶら下げている。主役でもないのだし、それほど派手にしなくていいとリースさんに言った。
主役はもちろん、聖女の亜豆ちゃんだ。栗色のセミロングは、ハーフアップにしてダイヤの花の髪飾りがつけられ、眩い純白のマーメイドタイプのドレス。それほど濃くは化粧をされていないのに、これまた美しく、私がいつも言っているように天使のような愛らしさがあった。
そんな亜豆ちゃんのそばには、近寄りがたい騎士達が目を光らせている。パーティーなのに、そこだけ物騒な雰囲気であった。
国の大事な聖女様だもの。仕方ない対応だとは思うけれど、ちょっとはその刺々しい雰囲気をどうにかならないものだろうか。
「もう少し楽しそうな顔をしてください!」
そんな騎士達に向かって、亜豆ちゃんは言ってやる。
「私の護衛をしてくれているのはわかっているけれども! せっかくのパーティーですよ!」
「そうだな、アズキの言う通りだ。お前達もっと柔らかい表情をしろ。だからモテないんだぞ」
「「……」」
仕事なのだから、仕方ないじゃないか。
王子も、何を言っているんだ。
強面の騎士達は、沈黙をしてちょっと下がった。
マッチョもいいと思いますよ。なんてフォローは気休みにならないかな。いやでも私は腰が細い人がタイプだから言えないか。こう羨ましい気持ちと裏腹にキュンとしてしまうことが理解出来るだろうか、出来ない? え?
想像してみて。肩幅はしっかり男の人のそれなのに、腰が抱きつけるほど細いイケメン。はいキュンとしたでしょう。
へーリーさんと共に並んで立っている私は、へーリーさんの腰を盗み見る。でも魔導師の白を基調にして金の装飾が施された正装の上からでは、わからない。
いつか抱きついてもみようなんて考えなくもない。別にへーリーお兄さんの体型を詳しく知りたいわけではない。いや腰の細いお兄さん萌えるなんて考えていない。ふふふ。
「楽しんでいますか? 疲れていないでしょうか? ハナさん」
へーリーさんが気遣ってくれるけれども、私は例の如く元気だ。
でも正直、挨拶回りは疲れた。へーリーさんに挨拶する貴族に次々と紹介してくれるけれど、流石の接客スマイルもすり減った気がする。中には見覚えのある人もいた。私にお詫びに来た人達だ。お偉いさんだったから、当然のように貴族だった。
「この度は不運でしたね」とまたもや声をかけられた。
いえ、幸運でしたけれども!
心の中では満面の笑みで、でも表では「お心遣いをありがとうございます」と言っておく。なんか困った時はいつでも頼ってくださいっとか言われたけれど、社交辞令だろう。まぁでも覚えておこうか。
ついでのように娘さんやら息子さんやら紹介されたものだから、頭がパンクしそうである。それにしても顔の整った人達ばかりで、目の保養だ。
煌びやかなに照らすシャンデリアの下で、着飾った人々が綺麗に笑う。
眩くて美しくて、くるりと回ってしまいたくなる。
くるり、くるり、と踊り出したくなるわ。
「楽しんでいます。招待をありがとうございます、へーリーさん」
「楽しんでいるなら、何よりです。たまにはこういう楽しみもいいものですよね」
「そうですね」
そんなへーリーさんは、国王陛下の呼ばれたので私から離れた。
国王陛下は初老で白金の髪と白い髭を整えた男性。横についている王弟殿下は随分歳が離れているようで、私とそう変わらない年齢の男性。彼も私の部屋に訪ねてきてくれた一人。こちらは王子と並ぶと兄弟に見える。白金の長めの髪と青い瞳を持つイケメンさん。
あ、目が合ってしまった。
微笑みの爆弾を返される。大人の色気というものを持ち合わせているから、もう微笑むだけで爆弾のような威力だ。隙間から見えたぶら下がる青い雫型のピアスさえも、エロいと思う。
あのイケメンには、別の意味で近付きたくない。色気のあまり卒倒しそうだもの。
笑みを作り上げてから、私はそっぽを向く。
王子がべったりした亜豆ちゃんの元に行こうと、歩いていれば気が付いた。
綺麗に着飾った笑みの下にあるもの。
醜い嫉妬だ。
「今ならバレないわ」
「やってしまいましょう」
「ええ、恥をかかせてやりましょう」
横切った令嬢三人が囁き合って、亜豆ちゃんを見ている。
美しく笑っているのに、嫌な囁き。嫌な予感。
私が亜豆ちゃんの元に辿り着いても、その令嬢達から目を放さないようにした。
「あ、花奈ちゃん。花奈ちゃん?」
ウエイターが、水を運ぼうとこっちに歩む。
するとそのウエイターの影が、文字通り引っ張られたように見えた。
ウエイターは足を掴まれたかのようにバランスを崩して、トレイに乗せたグラスがひっくり返る。
グラスから水が溢れて、危うく亜豆ちゃんにかかるところだった。
ウエイターが前のめりになった瞬間に私は割って入り、腕でカバーをしながら亜豆ちゃんを庇う。腕でカバーしても、頭の上から水を被ってしまった。
パリンッとグラスは、床に落ちて割れる。
「……」
腕の下で私は、令嬢達を冷たく見据える。
見ていたぞ、という意味を込めて。
この子に何かするっていうなら、私が相手になってやる。
令嬢達がびくりと震えたが、後ろに近付いたオレンジ色の頭を見付けたので、私はその場にしゃがみ込もうとした。か弱いアピールをするつもりだったのだけれど、誰かに受け止められる。
あ、よかった。そう言えばグラスが割れたんだった。
ん? でも待てよ。へーリーさんは令嬢の後ろにいるし、これ亜豆ちゃんの腕でもないな? 誰かしら?
「花奈ちゃん!!」
これは亜豆ちゃんの声。
「ハナ様!!」
聞き慣れない男の人の声が、私を様付けにする。
顔を上げて見てみれば、これまた顔の整ったイケメンがいた。今日は数多くのイケメンを見て慣れてきたと思ったけれど、近距離は効果絶大。艶やかな黒の長髪を、後ろで束ねている。
誰だこのイケメン。いや見覚えはあるぞ。確か……一番隊の騎士。騎士の正装を着ているから、間違いないだろう。
「も、申し訳あり、ありませんっ」
ウエイターがどうしようもないほど、青ざめてガクガクと震えている。
「いえ、あなたは悪くありません。あなたの影が引っ張られたように見えました……彼女が掴んだように見えましたが?」
私は弱々しく(これ大事)伝えた。
「い、言いがかりっ」
令嬢が否定しようとするも、無駄だ。
「私もこの目で見ましたよ?」
へーリーさんが口を開く。これまたゴゴゴッと効果音がしてきそうな怖い笑みを貼り付けていた。
あ、この令嬢達、終わったわ。私は確信した。
イケメン騎士は、私の濡れた頭をハンカチで拭いてくれる。
あ、親切にどうも。
「危うく聖女様にも、私の妹のような存在のハナさんにも、怪我をさせてしまうところでした。聖女様を傷付けようとした罪は……重いですよ?」
「あっ、そ、そんな」
「そんなつもりじゃっ」
「ただ恥をかかせたかっただけですわっ」
へーリーさんに気圧されてその場に膝をつく令嬢達は、ウエイターよりもガクガクと震え出しては泣き始めてしまう。
「エリュテーマさん。ハナさんを連れて行ってください」
「かしこまりました。ハナ様。このまま運びますね?」
「あ、はい……」
エリュテーマという名前のイケメン騎士に、お姫様抱っこされた。
このままパーティーにいることは出来ないけれども、まだ令嬢達の行方が気になる。ガン見していたけれど、パーティー会場から連れ出されてしまった。
どうなる!? 令嬢達!!
「……あの、申し遅れました。私は第一番隊の副隊長を務めています、エリュテーマ・イグニスです」
「は、はい。私はハナです」
「……存じ上げております」
気になってしょうがない私に、自己紹介をするエリュテーマ。
一番隊は王子に挨拶する暇を与えなかったものね。
逆に私のことは噂で聞いているようで、頷かれた。
「あ、あの、ここで下ろしてください。もう大丈夫です」
「お部屋まで連れていきますが?」
「ここで休んでから、自分で帰りますので」
「……ご無理はなさらないように」
見張るように見つめながら、エリュテーマは差しかかった庭園の噴水そばに私を座らせる。それから、またハンカチでそっと髪を拭ってくれた。
「ありがとうございます……エリュテーマさん」
「エリュ、とお呼びください」
「エリュ、さんですか」
「はい……」
優しい手付きだ。そう思っていれば、カチンとガーネッド色の瞳と目が合った。少し動揺したように揺れたガーネッドの瞳は、どこか熱をはらむようにして見つめてくる。
「……あ、あのっ……!」
ゴクリと息を飲み、意を決したように口を開いたエリュさんの後ろに並ぶアーチ。その中を進む、亜豆ちゃんの手を引く王子が見付ける。
「オレ、あなたをっ」
「ごめんなさい、エリュさん! これで失礼しますね!」
「えっ」
「お世話になりました、ありがとうございます」
早口で言って私は、王子というか亜豆ちゃんを追い掛けた。
でもエリュさんが何かを言いかけていたので、振り返って笑いかける。
「また今度、お話しましょう」
「……っ」
ドレスの裾を持ち上げるように握り締めて、その場を去った。
噴水そばでエリュさんが突っ伏している。なんて、目に入っていないかったのだった。
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