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『初恋の女の子』⑦10年後
しおりを挟むそれから10年の時が経つ。
結婚してから、ジャックス辺境伯領を出たのは数えるほどのアルリックは、不定期に王都の王城の情報収集をお抱えの暗部にさせている。
ディソンとアンジュは結婚をし、今は国王夫妻となった。
一人の王子を結婚一年後に身籠り、出産した。
表向きは仲のいい夫婦ではあるが、ディソンがアンジュと寝室をともにすることは、もうないだろうと言えるほど、ディソンはアンジュを憎んでいる。
公の場以外では見向きもしない。
王子の前でもフリはするが、愛していないのは明白。
アンジュも数年で歩み寄りは諦めたらしい。悪足掻きをせず、現状維持をしている。
ディソンは、王子に言い聞かせているらしい。日記をつけることを。
”自分は大事な記憶を失い、大事な人を失ってしまった”と。
同じ失敗をしないように、と日記をつける習慣を覚えさせた。
アルリックは、ディソンの『初恋の女の子』に対する執着を危惧している。
流石に国王の身で辺境伯の人妻に手を出そうとはしないだろうが、なんとか再会しようとことあるごとに招待状を送りつけてくるのだ。アルリックは断れるものは断り、妻のメアリーンは連れて行かなかった。
他の貴族が当時の王太子妃のアンジュが身ごもった時期に子作りに励んでも、アルリックとメアリーンは避妊をしていた。絶対に同年代にはしないと話し合って決めたのだ。
それにアルリックは、しばらく妻メアリーンを独占したかったのも理由。
それは公言していたので、何年経ってもアツアツ夫婦だと持て囃された。
七歳差なら、大丈夫ではないか。
避妊さえやめてしまえば、毎晩愛し合っているから、あっという間にメアリーンは懐妊した。今、順調にお腹は膨れているところだ。
出来れば、娘ではなく息子が生まれて欲しい。今のところ、王子に婚約者候補は決まってもいない。
こちらの子どもを狙われてはたまったものではない。せめて子どもだけでも繋がりを、という考えをしてもおかしくないのだ。
「……その時は、葬るしかないか」
ボソリとこぼしたアルリックの不穏な呟きは、身を隠して情報を報告した暗部の者しか聞いていない。
生まれたばかりの娘と、王子の婚姻を求められたのならば、暗殺もしたくなるだろう。
ディソンの執着なら、あり得る。暗部の調べでは、彼の寝室にはメアリーンの肖像画が飾られているとか。不快な嫉妬が湧く。その肖像画を盗ませたいところだが、いざ暗殺する時に動いてもらった方がいい。
最愛のメアリーンの肖像画が一つでもディソンの手元にあるのは、不愉快極まりない。
その上、最愛のメアリーンとの子どもが狙われては、アルリックは国家転覆も厭わない。
それだけの力はあるし、メアリーンと子どもが世界の何よりも最優先するべき存在だ。
「アル」
「メア! 歩いては危ないだろう?」
愛しい妻が膨らんだお腹を押さえて自分の元にやってきたことに驚き、慌てて駆け寄って支えるアルリック。
サッと横に抱え上げた。子どもが成長した分、重さを感じる。
「またこの子がお腹を蹴ったのよ!」
嬉しそうに報告する穏やかな笑みのメアリーンを見て、つられてアルリックも笑みを零す。
「ふふ、そうか。そんな元気いっぱいなんて、誰に似たんだろうね?」
「さぁ、どちらかしら。女の子かしら、男の子かしら?」
「どちらでもいいよ。僕達の大切な子どもに変わりないからね」
本心を告げるアルリック。
性別がなんであれ、妻とともに守り抜くまでだ。
大事に囲って、愛おしく守る。
「愛しているよ、メア」
「ん? 私もよ、アル」
口付けをすると、キョトンとしながらも応えてくれるメアリーン。
幸せそうに笑ってくれる彼女を、心から愛おしく想う。
まるで”自分も”と存在を主張するかのようにポコッとメアリーンのお腹を蹴る胎児の存在が伝わり、アルリックは愛しい妻のメアリーンと一緒に笑いを零した。
ハッピーエンド
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