初恋の人が『初恋の女の子』に夢中で婚約破棄までしたので、彼の真の『初恋の女の子』である私は受け入れて、辺境伯令息の甘い優しさに癒されます。

三月べに

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『初恋の女の子』④婚約披露宴

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 ◇・◆◆◆・◇


 王都貴族学園。
 第一王子のディソン殿下が、隣国の王女を学園でエスコートしたことで爆発的に広まった侯爵令嬢のメアリーンとの婚約解消と、新たな婚約に騒ぎになった。
 そして、忽ち、その傷心のメアリーン嬢に辺境伯の跡取りであるアルリックが婚約を申し込んだことも、同時に話題を盛り上がらせた。
 二つのビッグカップルの話題。

 ディソンと王女は美談にされがちで、メアリーンの方は、ディソンに捨てられたからといって、変わり身が早すぎると悪く言われた。
 解せない。それを言うなら、ディソンはどうだ。
 ずっとよそ見し、蔑ろにして、捨てるなり王女の手を取った。

 不機嫌な顔をするアルリックに、卒業までの辛抱だから、とメアリーンは明るく笑って見せた。

 そちらの話題よりも、メアリーンはもう一つの方が、顔を曇らせてしまうことだ。
 隣国の王女がディソン殿下の探していた『初恋の女の子』疑惑の話題は、あくまで憶測の噂程度。
 でも、もしも公にしたら、王女は多くを騙すことになる。
 それは、果たしていいのだろうか。
 そんなことをして、本当にいいのだろうかと、メアリーンは悶々とした。

 隣国アドバーンダの第三王女アンジュ・サリー・アドバーンダ。
 白銀の髪と緑の瞳の可憐な少女だ。
 おしとやかな性格の彼女が、国同士を巻き込むきっかけになった嘘をついた。

 押し潰されないだろうか。メアリーンも知っているだけで不安に押し潰されそうだ。
 でも、学園内で見かけるアンジュに憂いは見えず、幸せそうにディソンに微笑む姿だった。

 ちなみに、ディソンはアンジュに危害を加えると本気で思っているらしく、睨みで近付くことを拒む。
 こちらも友人の集まりでは、アルリックに連れられて、先に席を外させてもらっている。

 メアリーンに婚約を申し込んだことについては、アルリックはディソンに「手綱はしっかり握っておけよ」と注意しただけだった。アンジュに危害を加えないように、アルリックが見張るならちょうどいいと考えているのだ。


「失望が増えるわ……」

 ディソンの言動に、そうため息を零すメアリーン。

「アンジュ王女殿下も、嘘を重ねないといいけれど…………」
「メアリーン。君がそんなに顔を曇らせることはない。君の罪じゃないのだから」
「うん……そう、ね」

 メアリーンの吐露を聞き、アルリックは励ますが、イマイチ割り切れないメアリーンの気は晴れない。
 そうして、手にする招待状を見た。
 卒業前に、ディソンとアンジュの婚約披露宴が開かれる。その招待状だ。
 これはディソンに直接渡されて「やましい気持ちがなければ祝福出来るよな?」と挑発的な言葉を投げられた。
 メアリーンが何を考えていると決めつけているかはわからないが、少なくとも、ちゃんと祝福している姿勢を見せないといけない。


 その婚約披露宴で、メアリーンが恐れていたことが起きた。


 改めて発表されたディソンとアンジュの婚約。演説でディソンは、ついにアンジュが長年捜していた『初恋の女の子』だと語ったのだ。

「私の真実の愛が、実ったのだ!」

 ご機嫌にグラスを掲げて自慢するディソンの傍らで、頬を赤に染めて微笑むアンジュ。
 メアリーンは生きた心地がしなかった。

「(言ってしまわれた……公にされてしまった……)」

 なんでアンジュがあんな顔をしていられるのか、メアリーンには理解出来なかった。
 ディソンを騙して、双方の王国を欺いて、微笑んでいられる意味がわからない。

「メアリーン。帰るかい?」
「いえ……。私、少しお酒を飲むわ」

 心配して顔を覗き込むアルリックに首を振って見せる。祝福している姿勢を見せるためにすぐに帰るわけにはいかなかった。気を紛らわせるために、メアリーンはウエイターからお酒を受け取る。

 ゴクゴクと飲み干すメアリーン。
 なんとか挨拶をしてくる貴族を捌きつつ、そのペースを落とそうとするアルリックだったが、だめだった。メアリーンはすっかり出来上がってしまった。
 無理もない。
 アルリックはどれほどその秘密に押し潰されそうになっているか、理解しているからこそ、気を紛らわせる飲酒を止めきれなかった。


「すまない、皆。メアリーンを見ていてくれ。水を持ってくる。絶対に目を離さないでくれ」
「わかっているよ、心配性だな」
「わたくし達がちゃんと見ておりますわ」

 親しい友人達がテラスのテーブルで集まっているので、風に当たりながら酔いを醒ましてもらおうと、アルリックは頭をゆらゆらしているメアリーンを託す。
 婚約してからのアルリックの過保護さに、令息達は苦笑を隠せない。
 令嬢達からすれば、気持ちはわかるので微笑みで見送る。

「結局、殿下の『初恋の女の子』って、アンジュ王女殿下だったんだな」
「ちょっと!」
「おい!」

 デリカシーの足りない令息がぼやくように零したそれに、キッと睨みつける反応を見せた令嬢達。
 隣にいた令息もそれはマズい発言だろうと、肘で小突いた。
 ここには、婚約者でありながら、長年『初恋の女の子』に苦しめられたメアリーンがいたのだから。

 しかし、酔っているメアリーンは鼻で笑った。


「殿下が話している『初恋の女の子』は、かなり美化されているけれど、私のことよ」


 秘密を暴露して、友人達に聞かせてしまった。
 抱えられない秘密を、酔いによってポロリと零してしまったのだ。
「えっ」と、誰かが声を漏らす。

 メアリーンはまだ足りないと、隣の令嬢のシャンパンを奪って飲み干してしまった。

「元々、政略結婚は建前で、婚約も彼の気持ちが先走ってちょっと強引に結ばれたもの。そのあと高熱が出てすっかり忘れてしまったのよね」

 一度口にしてしまえば、もう躊躇もなくなる。

「嘘……じゃあ、今まで『初恋の女の子』なのに、メアリーンは比べられていたの?」
「本人なのに? 比べて貶されたというの?」
「え、待ってくれよ。メアリーン嬢。なら、なんでディソン殿下に……――っ!」

 信じられないと顔色を悪くする令嬢達よりも、言いかけた令息が一番顔色を悪くして固まった。
 振り返って見れば、そこには親しい友人達の元に来たディソンとアンジュが来ていたのだ。

 慌てて一同は、立ち上がる。遅れて、ふらつくメアリーンも立ち上がった。

「……何をくだらない嘘をついている」

 親の仇を見るかのような目付きでディソンは睨みつける。

「どちらが嘘をついているか。アンジュ王女殿下はご存じてすよね?」

 酔っているにもかかわらず、メアリーンは目敏く真っ青なアンジュに気付いて指摘した。
 嘘をついてまで嫁ぐ隣国の王女への怒りが、メアリーンの中に燃え上がっていたのだ。容赦はしない。



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