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『初恋の女の子』③メアリーン視点
しおりを挟むディソン殿下とは、幼い頃から王妃様主催のお茶会に母が参加する時に、年が同じ子ども達も交流していた際に知り合った。二人で抜け出して、隠れて過ごしたエピソードは、ディソン殿下の曖昧になってしまった記憶の中にある。すでに知れ渡っている話があるから、『初恋の女の子』に成りすまそうする者も出てきた。
本人が名乗り出ないから。なりすましは可能だと思われたのだろう。曖昧な記憶の中の『初恋の女の子』は、結局見つからない人物だと。
お互い、初恋だった。
だから、ディソン殿下が婚約を申し込んでくれて嬉しかった。舞い上がっていた。
政略結婚という建前を用意したのは、王家にも利益があると証明して、大人ぶりたかったのだと幼いながらにも思った。それさえも、微笑ましくて、嬉しかったのだ。
利益ある政略結婚なら、反対されないし、断られにくいと考えて。
国王夫妻には、ディソン殿下は私への想いを打ち明けなかった。気恥ずかしかったのだと思う。大人ぶってかっこつけたのだから、しょうがない。
……そう、しょうがなかったのだ。
ディソン殿下が高熱で何日も寝込んだのは、婚約が成立してから半年ほど経った頃だった。
そのあと、無事回復されて、泣いて喜んだ。
本当に気付かなかった。
幾度も妃教育を受けるために王城へ通い詰めて、親睦を深めるためのお茶会をディソン殿下としていた。
ある日、殿下が私のことを『政略結婚の婚約者』と言い、そして『初恋の女の子』の話を語ったから、ようやく気付いた。
彼の記憶が、おかしくなってしまっている。
慌てて、医者の元に駆け込んだ。ひとえに、殿下が心配だったから。
そうして、アルリック様に打ち明けた通りだ。
医者の指示通りに、私は私が殿下の『初恋の女の子』だということを言わなかった。無理に思い出させないために。でも予想を超えてディソン殿下は『初恋の女の子』に固執し、記憶に関して慎重に扱ってくれていた医者を追い出してしまった。
私はもう。比べられる度に、そうなる努力をしていた。思い出してもらうより、彼の理想になろうと必死だった。
でもどんなに頑張っても初恋の想いは、しぼんでいき、耐えに耐え抜いたが……結局、折れた。
婚約破棄は、トドメにへし折った。
正直、未来が怖い。いつか、王女の嘘が発覚して、その婚姻も台無しになるのか。
それは大事。国同士が荒れかねない。だから、約束をさせた。宣誓をさせた。
ディソン殿下は、やっと『理想の初恋の女の子』を見つけ出したのだ。
記憶の中と同一人物ではないけれど、それでもディソン殿下が選んだ相手だから。
どうか、違えることはしないでほしい。……絶対に。
私はいいの。私の『初恋の男の子』は、もういないのだから……――――。
私の初恋は実らず、消えてしまった。
アルリック様はそれを聞くと、また優しく手を握り締めてくれた。
「無理はしないで。時間をかけて、癒そう」
不幸中の幸いで、アルリック様が手を差し出してくれて、思ってくれることに感謝の涙が落ちた。
甘えて、よりかからせてもらった。
優しい甘い温もりに――――。
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