幼馴染

kisaragi

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一章

7. 林間学校2

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「氷系の魔法使いは希少じゃ無かったのか?」

 客入りも悪いし、早めに店を閉めての作戦会議だ。
 時夫が疑問を呈する。

「学園でも多分一人もいないと思います」

 国の強力な魔力を持つ若者が3桁も集まるところでも居ないレベルの希少さだ。
 だからこそ他の魔法の組み合わせでも、氷を作れる時夫と、特別な種族のフォクシーのいるこの店の地位は盤石だった筈なのだが。

「氷系の魔力の篭った魔石も存在はするのですが、他国の王室が代々所有する杖についているとかですから、魔道具でもあり得ません」

 ルミィが魔道具の可能性も否定する。
 よしんば魔石を手に入れられたとしても、そこまでの代物をアイスクリーム作るのには使わないだろう。

「まさか……氷を冬から取っておいて、それを利用して?」

 氷室とかこの世界にもありそうだし。

「それで価格競争で我々に勝てますか?
 こちらは冷やす過程が省けてるんですよ」

 コニーの意見は最もだ。

「調査が必要だ。潜入するぞ」

 時夫が重々しく結論を告げた。

「せんにゅー?誰がやります」

 ルミィは完全に他人事っぽい顔をしている。
 時夫はスッとスプーンでマルンアイスを突いてる当事者であるルミィを指差した。

「え!?私ですか?」

 そして、スッと自分を指した。

「え!?トキオですか?」

 時夫は胸元を指差した。服の下にはお揃いのネックレス。

「俺ら以外に適任はいないだろ?
 客も少ないから他の3人で店回せるだろうし」

 そんな訳で『フォームチェンジ』!

「え!?トーニャさん!?」

 そうだった。忘れていたが、女の姿を伊織は知ってるんだった。
 ちょっと照れるな。
 ……いや、待て。気持ち悪がられないかな。
 急に不安になったが、オドオドしては逆効果かと、コホンと咳払いをして真面目くさって答える。

「そうなんだ。たまに女の姿であちこち潜入して仕事してるんだよ」

「そうだったんですか。トーニャさん優しくて親切だったから、また会いたいと思ってたんです!」

「伊織ちゃん……」

 伊織は時夫の両手をギュッと握って歯並びの良い白い歯を見せて笑う。
 淑女感は無いけど、魅力的な笑顔だ。
 やはり、この笑顔が下品と陰口を言われない日本の方が伊織には合ってるのかも知れない。

「イオリ、いちいち殿方の手を握ったりしてはいけません」

 ルミィが苦言を呈してきた。
 お嬢様としては気になるのか……。

 ……いや、でもルミィも偶に時夫の手を握ったりするのに。
 迷子の恐れがある時は緊急時だからオッケーってことか?
 
『嫉妬』と言う単語が頭に浮かび掛けて、頭を振る。
 ルミィは相棒だし、時夫はその内日本に帰る身だ。変なことは考えない様にする。
 いつまで一緒に居られるか分からないのに、変に意識して関係を壊したくは無い。

「はーい……」

 伊織が不服げに手を離す。

 そして、ルミィも顔も変える変装をする。
 なんと、ゾフィーラ婆さんの姿だ。
 これなら、絶対にバレない!

「じゃあ、行ってくるよ」

 念のためフードで顔を隠しつつ、いざ、敵陣へゴーゴーだ。

 店番3人が手を振り、狐っ娘二人は尻尾も振ってお見送りしてくれる。
 店内から、客足が遠のいた今も一日に何度もやってくる冒険者ギルド長も手をブンブン大きく振って見送ってくれる。
 ……あの人はいい加減ギルドの方の仕事ちゃんとした方が良いと思う。

 そんなこんなで、

 やって来ました!
 新しいアイスクリーム屋さんとやら!

『パーラーゴールダマイン』

 時夫の店の客をごっそり引き抜いたように、長蛇の列だ。
 最後尾に並んで様子を見ると、なるほど、中々可愛い顔立ちの若い女の子を揃えている。
 しかし、身内贔屓無しにこちらの四人の看板娘の方が圧倒的に可愛い、と思う。
 違いがあるなら……露出度か。

 なんと言うか、時夫デザインの制服は、ちゃんと接客のプロって感じで、でも可愛くって、女性陣の本来の良さが引き立っているが、
 こちらは……膝上が出とる!!
 いや、ニーソ的なので肌自体はそこまで見せてないけど!
 それに……胸元が……出とる!
 しかも!凹凸が!胸元の!凹凸が!

「トキオ……何を熱心に見てるんですか……?」

 隣のフードを老婆から、低ーい呟きが聞こえた。

「……いや、なんも見てないっす」

 ――敵の戦略の分析のためなのに!!ルミィは俺を疑うなんて酷いよ……。
 本当だよ!!
 ……とは、言わなかった。変に言葉を重ねる先には地獄が待っている気がする!!

 時夫は死線をいくつも潜り抜けるうちに、危機察知能力が上がっているのだ!
 きっとこの能力は今後も時夫の命を繋いでくれることだろう……。

「しかし……ゴールダマイン、ですか」

 ルミィが意味ありげに看板を見上げながら囁く様な声で独り言を言う。
 老婆の姿だと、こう言う呟きも雰囲気出るなぁ。

「何か意味があるのか?ゴールドマイン」

「ゴール、ダ、マインですよ!
 ……第一王子の手下に緑頭の成金趣味のロン毛がいたでしょう?
 アイツの名前がフィリー・ゴールダマインです」

「な、なんだってー!」

「しっ!声が大きいです!」

 周りの客の男達は鼻の下を伸ばして店員さんを見てるので、騒ぐ時夫の方は見ていなかった。
 あ、あの客はウィルの店で声入り目覚まし時計買いまくってた奴だ!
 ……うちの店でも見たことある気がするな。
 店員さんに果敢に声をかけている。店員さんの笑顔が引き攣り気味だ。
 熱意は凄いがあちこち狙いすぎでは?

 そして、夏の照りつける太陽に灼かれつつ、なんとか目当てのアイスクリームを手に入れた。
 フレーバーはパクられたとしか思えない程に一緒だ。
 味はうちの方が良い!……と思う。
 
「もう常連なんだし、こっそり名前教えてよ~。
 今日なんて君と会う為にこれでアイスクリーム食べるの8個目なんだよ?」

 さっきの常連客が店員さんを一人捕まえて粘っている。
 ツインテールの小柄な女の子だ。
 かなり迷惑そう。

 時夫の中の紳士たれと自らに求める心が、迷惑客を放置しておけなかった。

「ちょっとトキオ……」
 
 止めるルミィを手で制して、常連客に声を掛けた。

「仕事中の人にあんまり長時間話しかけるもんじゃ無いわよ!」

 常連客はポカンとした顔で時夫を見た。
 目と口を真ん丸くしている。
 顔の輪郭と鼻が元々丸っこいせいで、顔全体が丸で作られている。

「き……綺麗だ……」

「ん……?」

 時夫は何かの聞き間違いかと思って、眉を顰めた。

 ガバッと常連客が汗ばんでヌルヌルの手で時夫の両手を握りしめた!
 うへぇ!手汗すごい……。手を洗いたい……。

 振り解こうとしたが、謎のしつこさで汗の滑りもなんのその、振り解けない。
 たす……助けて……。

「こりゃ!おなごの手を突然握る者があるか!」

 ルミィが妖怪手汗男の肩をグーパンした。

「な、なんだこのババア!」

 時夫は『クリーンアップ』で手を綺麗にしつつ、手汗男から距離を取る。
 ゾフィーラ婆さんの姿のルミィはいつもの目立つのとは違う予備の地味な杖を構えて時夫を背に庇ってくれている。
 ルミィ……ありがとう。

 ツインテールの店員さんは気がついたら店の奥に引っ込んでいた。

「この人は私のお婆ちゃんだわよ!」

「トキオ……なんか口調変です」

 ルミィの呟きはさて置き、時夫もルミィの背後から精一杯男を睨みつける。

「いや、その……お詫びにアイス奢ります!
 ……少しお話ししませんか、お嬢さん!」

 時夫にも今の状況に合点がいった。
 コイツ節操無しに、見た目が良い女に片っ端から声かけてるんだ!

「いや……お断りだわよ!」

 ふんっ!時夫はそんな安い女じゃ無いわよ!
 ルミィと共にさっさと店を離れる!
 アイスは溶けないうちにぺろぺろ舐める!

「ま、待って!俺はあの店の裏メニューも!安さの秘密も!なんでも知ってますよ!」

 時夫は足を止める。
 ルミィを見る。
 ルミィがコクリと頷いた。

「貴様……その話……詳しく聞かせてもらうわよ!」

 保護者《ルミィ》付きのおデートが決定した。
 
 
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