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第一章
8.トモコ姉ちゃん
しおりを挟むギルド長視点
「ギルド長、やはりディーク君の持ち込む薬草類はかなり品質が良いですね」
副ギルド長が、最近冒険者登録した子供の持ち込む素材に関して報告をしてきた。
子供に関しての報告は逐一するように命令していたのは俺自身なので、書類にきちんと目を通す。
「そうか。やっぱり嬢ちゃんの息子なだけあるな。ありゃ十中八九、アイテムバッグ持ちだろうよ」
持ち込まれる薬草類はまるで取りたてのように新鮮で、高品質であり、薬師に評判が良いと書かれてある。
植物はベテラン冒険者がどんなに急いで採取しても、ある程度鮮度は落ちてしまうのが普通だ。時間停止でもさせない限りな。
つまりディークは、そういった類いのアイテムバッグを持っている事になる。
「アイテムバッグ!? 500万以上の高額取引されてるレアアイテムですよ!? しかも時間停止が付与されているものなんてそれこそ1000万、いえ、それ以上の価値があります!! そんなものを子供が持ってると!?」
「ああ。嬢ちゃんの子供ならありえるだろ。何しろ嬢ちゃんは精霊様だしなぁ」
「……ミヤビさんが“王宮の精霊様”だという事は薄々気付いていましたが……。それにしてもギルド長、迂闊すぎますよ。無闇に話すのは止めて下さい」
「俺だってお前が自分の娘じゃなけりゃ話さんさ。それより、ディークの受付はお前がしてやってくれ。あの魔石や魔力の件でも理解したと思うが、恐らく彼は自分の稀少性を理解していない」
嬢ちゃんが自分の正体を隠している事から、自分の子供にも人間を装うよう言い聞かせているだろうが、嬢ちゃん自身精霊様が人間にどう思われているか分かってなかったからな。
「承知しました」
「頼んだぞ」
もしディークの件が他にもれるような事があれば、俺達はあの伝説の英雄を敵に回す事になるんだからな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ディーク視点
マーク達に追い付く為、ギルドポイントを稼がないといけないオレは、学校が休みの間だけ午前中も採取や森の案内という仕事を受けていた。
稼げはしないが、ポイントは貯まるのでちびちびやってる。
「あ~。オレもマークやジェイコブみたいにチートだったら良かったのに」
ぶちぶちと薬草を引っこ抜きながら愚痴をこぼす。
「へぇ~。ディークってば厨二みたいな事考えてたんだ~」
「ヒィィッ!?」
誰も居ないと思ってたのに!? どっから声が!?
突然聞こえた声に驚いてキョロキョロと辺りを見回す。
「こっちだよ~」
どうも聞き覚えのある声に、警戒が徐々に解けていく。
後ろを振り向くと、思った通りの人が居て息を吐いた。
「トモコ姉ちゃん!! びっくりさせんなよっ」
「アハハ。ごめんね~。何か面白い事言ってたからつい声掛けちゃった~」
間延びした喋り方も、この外見ならありかと思わせる絶世の美少女は、白く美しい髪を靡かせておどけてきた。
「神様だからって、いきなり現れるのはナシだろ! 心臓止まるかと思った!!」
「え~、神だからこそいきなり現れるんじゃん」
そう。この美少女こそ母さんの心友である神様なのだ。名前はトモコで、性格は子供っぽくて好奇心旺盛なトラブル体質。オレにとっては姉のようなひとだ。
「神様がそうポンポン人間の前に現れんじゃねぇって言ってんの!」
「ディークはみーちゃんの息子なんだから、顔くらい見に来ても良いでしょ~」
トモコ姉ちゃんは昔から、オレを自分の息子のように可愛がってくれている。でも、頭のネジが数本抜けているような、おかしな言動をたまにするので要注意だ。姉ちゃんの冒険とやらに付き合わされて散々酷い目にあってるからな。
「トモコ姉ちゃんまだ新婚だろ。フラフラしてないで旦那の所へ帰った方が良いと思う。アディーは人族だから心配すんだろ」
年齢不詳とか言ってるトモコ姉ちゃん(おそらく母さんと同じか上)だが、最近オレのイッコ上の友人で、人族のアディーにつがい認定され結婚した。神様をつがいにするアディーにもビビるけど、それをすぐ受け入れたトモコ姉ちゃんもすげぇ。
ちなみにアディーは頭が良すぎて、スキップ制度を使い、今は浮島の大学に通ってる。バイトは大学の研究室で片手間にポーション作って売ってるって言ってた。こいつもチートなんだよなぁ。
「アディーはこの時間大学だもん。それより、ディークはじゅうぶん魔法も使えるのに、チートに憧れるの?」
「そりゃあ何も出来ないやつより、何でもできるやつの方が良いだろ」
「ん~、そりゃ知識とかは無いよりあった方が良いし、魔法は使えないより使えた方が良いよね~。でもそれってさ、知識は勉強すれば増えるし、ディークの場合、魔法の才能はみーちゃんから引き継いでるでしょ~」
分かってるよ。自分が恵まれてるって事は。勉強が出来ないのも努力してないだけだって事も。でも、
「……マークやジェイコブは、同じ時期に冒険者登録したのにもうEランクなんだ。オレは未だにGランクで……そりゃ人間のオレが神族や精霊様と張り合おうなんて烏滸がましいけどさ、友達だから追い付きたいって思うのは、変なのかな?」
「あ~……頑張るのは良い事だと思うよ。それに、ディークは人間じゃなぃ……ムニャムニャ」
「え? トモコ姉ちゃん何か言った?」
最後の方よく聞こえなかった。
「何でもない。それより、採取と森の案内の他にも依頼受けたの~?」
「今んとこ、酒場でホールの仕事してるよ」
「酒場!? それロードさんが良く許したね!?」
「父さんにはバイトで冒険者登録する事しか言ってない」
「えぇ!? それマズくない!?」
「依頼内容にまで口出しされたくないんだよ」
父さんは反対しかしないだろう。オレが受けられる依頼なんて限られてるのにさ。
「母さんには一応言ってるから安心して」
「あ、そうなんだ~。それなら良かった~」
「だからトモコ姉ちゃん、父さんには黙っててくれよ!」
「オッケー! またアディーとお店行くから宜しく~」
そう言ってトモコ姉ちゃんは消えてしまった。
おい!! アディーはまだ17だぞ!? 未成年連れて酒場に来る気かよ!?
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