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第一章
6.イザークの酒場
しおりを挟む「オレに出来そうな依頼あるかな……」
父さんを説得して始めた冒険者のバイトは、一応順調にこなしている。
学校帰りに(悪友達と一緒に)ギルドに寄って、週末に出来そうな依頼をボードから選び、受付へ持って行く。それが最近のルーティーンだ。
大概採取か掃除の手伝いか。そんなもんだけど、オレに出来そうな依頼なんてそれ位だ。
そして今日も、マーク、ジェイコブといういつもの面子で学校帰りにギルドへとやって来たのだが、
「オレ護衛依頼の指名入ったからそれ受けようと思ってんだ」
ジェイコブが突然そんな事を言い出しぎょっとする。
「護衛って、Eランク以上じゃないと受けれないだろ!?」
「それがオレ、もうEランクなんだよなぁ。もうすぐDランクの試験受けるし」
「はぁ!?」
何でだよ!? ジェイコブはオレと同時期に冒険者始めたんだからまだ一番下のGランクだろ!?
「オレもジェイコブと同じEランクだよ」
マークまで!? 何で!?
「ランクアップなんてポイント稼ぎゃすぐだろ」
「週末に採取や掃除やったとしてもそんなすぐポイントなんて貯まらないだろ!?」
ジェイコブが当たり前みたいにいうけど、オレはまだ2回しかバイト出来てない。もしジェイコブ達が放課後毎日バイトしていたとしても、そんなにすぐにEランクまでアップ出来ないだろう。
「あのなぁ、オレらはディークみたいに採取や掃除なんてやってねぇから」
は? Gランクが受けられる仕事は大抵採取や手伝いだろ。ジェイコブのやつ何言ってんだよ。
「ディーク、オレ達は最初から動物を狩って持ち込んだり、ポイントの高い鉱石を発掘したりしてポイントを稼いでたから、すぐEランクになれたんだ」
「一角兎みてぇな小さい動物ならGランクでも狩って良いしな。大量に狩ってポイントゲットしたんだぜ」
「オレは主に鉱石の発掘かな。探し当てるのも簡単だし、人間が入れない場所にもすぐ行けるしね」
なんて、二人共当たり前のように言ってる。
小動物は確かにGランクでも狩って良いらしいけど、オレにはあんな可愛い動物を殺す事はできないし、鉱石だって見ただけでは価値がどれ位のものかなんて見当もつかない。鑑定は出来るけど、前におじい様の持ってた鉱石を鑑定させてもらった時、どれを見てもわりと硬い石とか、緑色の石とか、そんな表示だったのだ。
きっとオレは鑑定の才能がないのだろう。
「でも、護衛は指名されないと受けられないんだろ? 長期の場合が多いから、信用が無いと出来ないって受付のお姉さんから聞いた事ある」
「それはな、先週末に狩りに行った帰り、脱輪してた馬車が居たから助けたら、偶々それが行商人の馬車でな、指名もらったんだよ」
お前どこの主人公だよ!? その馬車に可愛い女の子が乗ってて、旅をしている間に仲良くなったり、旅先で色んな女の子に出会って連れ帰るハーレム主人公か!?
「明後日から長期休暇だし、丁度良い暇潰しになると思って受けた」
なんてカラカラ笑うもんだから、頬っぺたをつねってやった。
「マークは?」
「オレは鉱石の関係で知り合った宝石商の依頼で、港町まで遠征予定。まぁゆったり旅しようかなって思ってるよ」
こっちはこっちで儲けまくって貴族のお嬢様とか連れてくるパターンの主人公!!
「……オレだけいつもと同じかぁ」
「そんなに違うのがやりたいなら、これは?」
不満気なオレにマークが依頼ボードから取ってきた紙に書かれていたのは…………
「“イザークの酒場”。仕事内容、給仕、皿洗い、掃除等。16時~22時。期間長期。まかない付。定員1名? って、何これ」
「長期休暇の間、この依頼受けたら? ポイントも時給も高いし、昼は採取して夕方から酒場の仕事ならすぐにでもEランクに上がれるさ」
マークの言うとおり、この仕事なら2人のランクに追い付けそうだ。給仕や皿洗いなら危険な事はないだろうし。
「そう、だな!! この依頼受けてみるっ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
“イザークの酒場”。酒場のマークと一緒にそう書かれた看板がかけられた店。
酒場というよりはレストランに近い品の良さと、まだ新しそうな清潔感のある外観に少しホッとする。
扉を開くとカランカランとドアベルが鳴った。
「すいませーん。冒険者ギルドで依頼を受けた者なんですが」
開店前なのか店内は薄暗く、厨房らしき場所からわずかな光が漏れていたのでそちらへ向かって声を掛ける。
「……どちらさん?」
暫くして厨房から現れたのは、30代位のくたびれたおっさんだった。
「あの、冒険者ギルドから依頼を受けて来ました……ディークと言います」
「あぁ、そういえば今日来るって言ってたな……ディーク君、か。俺はイザーク。ここのオーナーで厨房も担当してる。というか、この店は俺一人で切り盛りしてる」
「はぁ……」
「君にやってもらいたいのは、主にホールの仕事だ。注文取ったり料理や飲み物運んだり。手が空いたら皿洗いもやってもらえるとありがたい」
「はい。頑張ります」
「さっそくだが、いつから入れそうだ?」
「いつでも大丈夫です」
「なら今日からでも良いだろうか?」
今日から!? 随分急だな……。まぁ母さんには念話しとけば大丈夫か。
「分かりました」
頷けば、イザークさんは嬉しそうに「そうか!!」と笑顔を見せ、群青色のエプロンを渡してきた。
こうしてオレは長期休暇の間、“イザークの酒場”で働く事になったのだ。
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