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ズボラライフ2 ~新章~

閑話 〜夏祭り2〜

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夕日が照らす中、ぽつぽつと、エルフ通りの提灯に明かりが灯されていく。
中央広場に向かって、道の両脇に並んだ屋台からはジュージューと油がはねる音や、湯気がたち始めた。

「は、早く行かなきゃ。始まっちゃうよっ」
『ミヤビ様は準備ができましたら、山鉾に乗って登場していただきます。それからお祭りが始まりますので、慌てる必要はありません』

山鉾!? 何で私が山鉾に乗って登場するの!?

「神王様、お手を床と平行にしていただいてもよろしいでしょうか」
「神王様、御御足を上げていただいてもよろしいでしょうか」
「はーい、腰の紐をぎゅってしますねー」

いつものごとく3人娘が着付けを行ってくれてるが、何で夏祭りに私の衣装はこれなんだろ??

トモコがデザインしてくれた衣装を見下す。
どう考えても、平安時代の貴族が朝廷で着ていたような服装だよね……。これ。

金糸で細かな模様が編み込まれた生地に、立体感のある刺繍がこれでもかと入れられ、一体幾らするんだというような平安装束。
自分で創っておいてなんだが、こんな天皇が結婚式で身に着けるような服装、夏祭りに相応しくないよ。これじゃ盆踊りも出来ないし、夜店にだって行けないじゃないか!?

「神王様、お顔に失礼致します」

そう言われたと思ったら、顔の前に布がかかった。

「え、これ何??」
『下々に神王様の御尊顔が晒されることのないよう、薄布で御顔を覆わせていただきました。ご安心下さい。他の神々も同じように布で顔を覆っております』

そう言って、ヴェリウスまで布で顔を覆う。
まるで何かの儀式のようで少し怖い。

そうこうしているうちに、私の頭の上には孔雀かと言わんばかりの黄金の冠が乗せられ、ますます祇園祭のお稚児さんを彷彿とさせる。

「神秘的で荘厳な美しさが際立つ御衣装ですわ!」
「神王様の為にある御衣装ですね!」
「はぁ~、うっとり致します~」

3人娘が褒めに褒めまくってくれるけど、顔が隠れてる衣装なので複雑である。

『お支度が出来ましたら山鉾へ移動をお願いします』


ヴェリウスに促され、山鉾に乗り込んでぼーっとしていれば、私とお揃いの平安装束を纏った双子を抱いた、これまた平安装束に身を包んだロードが乗り込んで来た。

やはり顔は布に覆われている。

「皆お揃いだね」
「ああ。オメェの顔が見えねぇのは残念だが、まぁ厄祓いの儀式だっつーんだから仕方ねぇか」

は? 厄祓いの儀式??



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ロリーオ視点


凹凸のほとんどない、正確に整列した石畳。区画整理された街並みの美しさ。見たこともない立派な建物は、全てが王宮よりも美しく頑丈そうだ。
そして何より、空が落ちてきそうなほど近い。

そう、ここは空に浮いた街。

周りには同じように浮かぶ島々。見るもの全てが美しく、不思議なもので溢れている。

「ここが、神王様の住む街……」
「なんて美しいのでしょう」

隣でほぅっと色っぽい吐息を出すつがいに、ドキドキしながらも、周りの景色にワクワクが止まらない。

「ロリーオ様、神王様が住まれているのはこの浮島ではありませんよ」
「え?」

カルロの言葉に驚き、どういう事? と聞けば、「上を見て下さい」とにっこり微笑まれる。

「上? 空が近いよね??」

日が落ち、オレンジと紫のグラデーションがかった美しい空を見上げる。

星も見え始めていて、とっても綺麗だ。

「違います。後方の空です」

首を傾げ後を向くと…………

「!!!!!!!!?」

声を出そうとするけど、言葉にならない。

だってこんな……ッッ

「て、天空に浮かぶ、神殿ですわ…………」

僕の言いたい事を、つがいが代弁してくれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



雅視点


シャーン、シャーンと鈴の音が響き、山鉾がガタガタと動き出す。
山鉾を取り囲むように、シンプルな白い平安装束を着て、布で顔を隠した神々が並走する。ざっと100人程居るだろうか。
傍から見るとまるで百鬼夜行のようにエルフ通りを進む私達を、キラキラした瞳で見上げる祭りの参加者達に、某夢の国のパレードに参加している気分になる。
先程から頭の中で、パレードの音楽が鳴り響いているのだ。

「手とか振った方が良い?」

御簾越しに、エルフ通りの両サイドを埋める人混みを見下ろしながら、ロードに聞いてみる。

「止めとけ。ヴェリウスに説教されんぞ」

片膝に私、反対の膝に双子を乗せ、ご機嫌な様子で屋台に視線を移しているロード。

どうせお酒に合いそうな食べ物だとでも思っているんだろう。
さっきから美味しそうな匂いがしてるもんね。

「ところでさ、私達、なんでパレードしてんの??」

ずっと気になっていた事を聞けば、ロードは「ぁ゛あ゛?」と本気で言ってんのかと言わんばかりの顔をして見てくる。

「オメェが言ってたんじゃねぇのか? この“夏祭り”っつーのは、厄祓いの為の儀式だってよぉ」

はい?

「祭りの始まりに、世界の安寧を祈るんだろ?」


初耳なんですけどォォォォ!!!!!?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ズボラを読んで下さっている皆様。いつも雅さんのおバカな冒険(?)に付き合ってくださり、ありがとうございます!! 少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。

ここでお知らせを一つ。

8月から、「継母の心得」という新作を密かにスタートしました。
転生ファンタジーな恋愛もので、アニメオタクな女主人公が、オタク知識をフル活用しながら子育てをしていくアホな物語です。
子供用の玩具がない世界で、玩具を作ったりと奮闘していきますので、興味のある方は是非、ご覧頂けると嬉しいです!

実はなろうにもこれとは別の新作も投稿しております。そのうちアルファポリスの方でも投稿したいと思っておりますので、そちらも早く見たいという方は覗いてみてください。
ちなみに、美醜逆転✕乙女ゲームものです。

新作共々、宜しくお願いします!

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