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ズボラライフ2 ~新章~
125.ルーベンスの作戦2
しおりを挟むウィンストン・セブレ・キュフリー侯爵視点
「染料は特殊なものではなく、皆が知るもので染色可能だ━━━……」
陛下は何を考えておられるのだ? あのように美しい花の製造方法ならば、金を払ってでも、いや、盗んででも知りたいと願うものはごまんといるだろう。
だというのに、自ら口にするとは……しかも他国の者が居るこのような場で。
陛下の傍らに立つルーテル宰相に視線を移せば、彼はいつものように澄ました顔で、相変わらず鼻につく。
あの人は昔から余裕綽々といった態度を崩さない。
「結局、宰相の掌の上という事か」
十中八九、此度の事もあの人が絡んでいるのだろう。
「キュフリー侯爵、何かおっしゃいましたか?」
近くに居た貴族の一人が、どうしたのかと顔を覗き込んでくる。
「いや……。貴族派と他国の者達が煩くなりそうだ、とな」
「そうですな。最近、陛下のご活躍は目まぐるしいですし、上下水道整備についても、追い風が吹いておりますから。陛下の評価はうなぎのぼりですな」
「我々は王派ですから、陛下ご自身のご活躍に不服はございませんが、貴族派を刺激してしまう事は懸念されますね」
上下水道整備にしても、もう少し慎重にすべきではないかと思うが、ルーテル卿の考えは違うらしい。
教会の消失で力を失った貴族派を、一掃するという事なのだろうが、些か早計と言わざるを得ない。せめて陛下にお子が産まれるまでは待つべきではないか。
「貴族派の中には聖女を輩出したヘルナンデス子爵家や、私兵を多く持つハティサブレイ辺境伯家、軍馬の育成を生業としたエルコンドル男爵家もある。慎重に事を進めなければ、最悪の場合内戦になりかねない」
「ルーテル宰相もそれぐらいは理解されているだろうに……」
頭の痛いことばかりだ。
我々が思い悩む中、当の本人は顔色一つ変えずワインを口にしていた。
やはり気に入らん。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルーベンス視点
虹薔薇などという巫山戯た花に、これ以上時間を取られるわけにはいかないと取り繕った案だったが、周りの様子を窺うになかなか悪くない反応だ。
今までのパーティーには無かった、料理の提供で食料の豊富さを。花の研究に予算を回せ、さらにその製造方法を公にする余裕がある国だと、他国に見せつけ国力の差を明確にする事ができた。
嬉しい誤算だったな。
手にしていたワインをあおり、今日の主役に思いを馳せる。
「━━━……愛する王妃の為に用意したのは勿論、花だけではない」
花の染色方法を簡単に説明し終わった陛下が、侍従に目配せし持ってこさせたものこそ、本当の主役。虹薔薇はおまけにすぎん。元々アクシデントのようなものだったがね。
これで人間には作り出せぬものだったなら、今日の主役が霞んでいるところだ。
まだ何かあるのかと騒ぐ人々の中、陛下が王妃の為に用意していたものは、
「私の愛しいつがい。どうか、私の気持ちを受け取ってほしい」
「まぁ……これは、」
侍従の持つジュエリートレーの上には、青緑に輝く、親指の先程の宝石に繊細な細工が施された、首飾りがあった。
「あれが陛下の用意したプレゼントですの?」
首飾りを目にした貴族達から、訝しげな声が上がる。王妃も戸惑っているようで、陛下をうかがうように瞳を揺らしていた。
「確かに美しい首飾りだ……。しかし、宝石の大きさからも考えて、とても王から王妃のプレゼントとは思えない。一体陛下は何を考えておられるのだ」
「もしや陛下の王妃様へのご寵愛が薄れたのか?」
「バカなっ 人族のつがいへの執着は一生消えることはない! 滅多なことを言うでないわっ」
騒がしくなる会場の中、陛下がジュエリートレーから首飾りを取り、王妃の首へとかける。
まだ幼い王妃には、宝石の大きさが小さめとはいえ、充分な存在感がデコルテを飾っている。
「ぼく……、私の愛しい人。この宝石にはね、私の魔力を閉じ込めてあるんだよ」
「え?」
陛下の一言に、会場中の時が止まったように静まった。
「驚いた? この中央の宝石は“魔石”といってね、ほら、街灯や魔道具にも使われているあの石なんだ。魔力のこもった宝石だと思ってくれたらいいからね。いざという時、王妃を守ってくれるから」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雅視点
「まさか“魔石”を、宝石のように使用されるとは! さすがルマンド王国の国王ですな」
「次から淑女達が求める装飾品は、ただの宝石から魔石に変わりそうですね」
「王妃様のあの首飾りは、もう装飾品ではなく、身を守る為の魔道具ですよ。魔石を使用した装飾品、是非手に入れたい!」
「しかし魔石は貴重なもので、現在は国が保有しているもの以外見つかってないのでは?」
「なんとっ それでは陛下は、そのように貴重なものを王妃様への贈り物にされたと!? さすが人族は違いますなぁ……」
今や王宮の話題は、王様が贈った魔石のネックレス一色だ。
貴重な魔石を贈る事で、王様の力を誇示でき、王妃様も大切にしてますよってアピールになるんだって。後、魔石の事を世に知らしめるためもあるらしい。
魔道具の認知度向上と、魔石の汎用性とか、なんか色々国内外にアピールできたってルーベンスさんはご機嫌だった。
なんだかルマンド王国が、ものすごく発展し始めてる気がする。
まぁ、料理の方はイマイチなんだけどさ。
あーあ、早く美味しい異世界料理、食べたいなぁ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おまけ
トモコ: 「王妃様の誕生日パーティー、キラキラだったね~」
雅: 「そうだね」
トモコ: 「誕生日といえば、みーちゃんっていくつなの~?」
雅: 「は? トモコと同い年ですけどー? 同じ学校で同じクラスだったこと忘れてマスかね?」
トモコ: 「でもみーちゃん、神王様でしょ~。だったら、何百万年って生きてるはずだよね?」
雅: 「!?」
トモコ: 「つまりみーちゃんは、何百万歳??」
雅: 「転生したからァァァ!! 年なんて生まれ変わったら前世の年は白紙になるからね!! つまり私は、もうすぐ4歳です!!!!!」
トモコ: 「それもそれでどうかと思うよ~」
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