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ズボラライフ2 ~新章~

121.嵐を呼ぶブーケ

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雅視点


「陛下がお持ちになっているのは、作り物のブーケなのだろうか?」
「なんと美しい!!」
「作り物の花だというのに、素晴らしく色鮮やかで繊細な……いや、作り物だからあのような色が?」
「あんなに美しい造花を作る職人がいるのか……っ」
「その職人、是非ご紹介していただきたいものですなぁ!」
「どちらで手に入れられたのか……」

王様を遠巻きに見ていた貴族達がザワザワし始め、王様は居たたまれなくなって、ジリジリと後退りしている。
貴族達はハイエナのようなギラギラした目でブーケを見ているので無理もない。

「やっぱり貴族の受けは良さそうだよね」
「ほら~。私の見立ては間違いなかったでしょ~」

フンッと勢いよく鼻から息を出すトモコ。

けど、ルーベンスさんには響いてないんだよね。

「まぁ。陛下ったらいまさら後ろにかくされても、もう見えてしまいましたのに」

大人顔負けの余裕を持って、クスクスと上品に笑う王妃様はとても少女とは思えない。王様もその顔に一瞬見惚れ顔を赤く染めていたが、ハッとした顔でブーケを握りしめ、また顔色を青くした。

「ちが、違うんだ。これはルーベンスの……っ」
「あら? ルーテル宰相がご用意してくださったのですか?」
「いや、そうじゃなくて……、」

自分が勝手に持ってきてしまった事を言い出しづらいのか、しどろもどろになっていて可哀想になってきた。

「これは何の騒ぎかね」

そこへタイミング良くなのか悪くなのか、現れたのがルーベンスさんだ。

「る、ルーベンス!! あの、これは、そのっ」
「陛下、一体何の騒ぎで…………」

ルーベンスさんは王様の手に虹色の薔薇ブーケが握られている事に気付き、ハッと息を飲んだ。そして周りをチラリと確認し、溜め息を吐く。それに王様がビクッと反応している。

「……陛下、先程の爆発音ですが、どうやら騎士団の訓練場で魔法訓練の最中に起こった事故のようです。騎士団には魔法訓練を中止し、今後の対策案を提出するよう申し付けておきましたので、避難指示は解除されて宜しいかと」
「そ、そうなんだ……あの、ルーベンス、これ「皆もこれ以上の避難は必要ない。各々、仕事に戻ってくれたまえ!!」」

王様の言い訳を遮り、周りの貴族にそう伝えると「陛下、詳細は執務室にてご報告させていただきますので、移動をお願い致します」と有無を言わさず連行していった。残されたのは呆気にとられる貴族達だったが、自分の仕事を思い出したのか、暫くして散らばっていった。王妃様を残して。

「あのような美しい贈り物をくださるだなんて、わたくしの陛下はやっぱりすてきですわ」
「サプライズが前倒しになってしまった事だけが残念でしたが、本当に美しい贈り物で、よろしゅうございました」

ニコニコとご機嫌に侍女と会話している王妃様に、これはブーケをプレゼントするしかないな。と苦笑いが出てしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ロリーオ視点


「ごめんなさいィィィ!!!!! 盗む気はなかったんです!! ルーベンスと話をしようと入った部屋にこのブーケがあって、あまりに綺麗で見惚れてたら、避難を急かされて慌てて部屋を出たんだ……けど、何でか手に握ってたんだよぉ……っ 本当にごめんなさい!!」

ルーベンスと共に僕の執務室に移動した後、すぐにブーケを差し出し謝罪する。殴られたらどうしようと怖くて顔が上げられない。

「……陛下、顔をお上げ下さい」

え、殴られるの!?

「陛下、怒ってはおりません。ですから顔をお上げ下さい」

え……? ほ、本当に怒ってない??

そっと顔を上げると、怒るというよりは呆れた顔で僕を見てるルーベンスが居た。

「まったく……一国の王ともあろうお方が、よりにもよって手癖が悪いなど、救いがありませんな」
「ぅぐっ」

違うんだ……本当に盗もうと思ったんじゃないんだ……。

自分でも情けなくて涙が滲む。

「加えて、ブーケを大勢に見られてしまったのは問題です」
「うっ」

そうだよね……。こんな神々の秘宝のようなもの、下手すれば戦争の火種になりかねないのは僕でも分かる。

「ご、ごめんなさい! ただ、あそこに居た貴族達とは距離もあったし、作り物だと思っていたようだったから、多分、大丈夫だと思います……」

尻すぼみになっていった僕の言葉に、またルーベンスが溜め息を吐く。

「このようなものを作れる職人などこの世におりませんがね」
「う゛っ」

「困りましたな」と全く困ってないような声で言うものだから、僕の可愛い王妃が勘違いしている事を言い出し辛くなる。

でも、言わなきゃだよね……っ

「あの、ルーベンス「ルーベンスさん入ってもいいですかーー?」」

いざ! と気合いを入れて喉の途中まで出かかっていた言葉を飲み込む。

「騎士団の誤爆って、大丈夫だったんですか?」

扉が開き、まるで世間話でもするように喋りながら入って来たのは、ミヤビ殿と女神様だった。

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