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ズボラライフ2 ~新章~

103.ガラスペンとまんねんひつ

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ルーベンス視点


「……新たなペンを我が国の特産品にする?」
「はい。ペンの生産ラインを王都ではなく地方に作る事で雇用が生まれ、現在表面化しつつある王都と地方の格差問題を解決でき、貴族を抑える事も出来るかと愚考致します。その際に紙製造業に関しても各地に工場を作る事を「ちょ、ちょっと待って!! 」」

ミヤビ殿に頂いた“まんねんひつ”と“ガラスペン”の生産実験が先頃終了し、大量生産が可能という結果が出た為に陛下へと計画案の提案をしていたのだが、話を遮られてしまう。話に水を差す事はするべきではないと教えたはずだが。

「その新たなペンって一体何なの!?」

相変わらず落ち着きのない国王だ。

「先程お渡しした資料に書かれていると思うのですがね」
「いや、素材の割合とか硬度とかそんな専門的なこと書かれた資料で僕が分かると思ってる!?」
「? これほど詳細な資料はないと思いますが」
「ルーベンスは何かにつけて資料見ろって言うその癖直した方が良いと思うなぁ!」

失礼な。全て資料に目を通せば分かる事を何故口に出して説明しなければならない。それとも、資料を見る目や理解する能力が無い、とでも言うつもりなのかね?

「すいませんでしたーーーー!!!!!!」

国王がすぐ土下座をする癖こそ直すべきだと思うがね。


◇◇◇


「こちらが“まんねんひつ”、そしてこちらが“ガラスペン”のサンプルですな」

陛下の前に2本のペンを置く。

「どちらも私の懇意にしている職人に作らせたものです。よろしければお試し下さい」

最初は恐る恐るといった体で眺め、暫くしてやっと手に取ると私に視線を移すので、まずはガラスペンをインクにつけるよう促す。

「とても美しいペンですね」

興味津々で陛下の手元を覗き込むのはブランチャード侯爵だ。この方の審美眼は優れており、美術品や装飾品の知識に関して右に出るものはいないだろう。ペンとはいえ、この2本は素材、デザイン共に拘り抜いた一級品。ミヤビ殿から頂いたものには劣るが、今の技術のすいを結集した筆記用具である。この方の目を惹くのも当然だろう。

「こちらは使用してこそ真の価値が分かるもの。デザインだけではありませんぞ」
「なるほど。宰相閣下がそこまで仰るのですから、余程素晴らしいものなのでしょうね」

その通りだ。これは世界を一変させる代物なのだからね。

「うわっ これすごい!! ガラスで出来てるからペン先がしっかりしていて潰れないし、羽のペンより書いていられる!?」
「……ペン先の溝にインクが入り込み、羽ペンよりも長く書き続ける事が出来るのか。面白い造りだ」

陛下は何度もメモ用紙に試し書きされている。よほど書き心地が気に入ったようだ。

「陛下、ブランチャード侯爵。そちらのガラスペンは貴族だけでなく、市井の者にも広まるよう価格帯も抑え販売する予定です。そして私が最も力を入れたのがもう一つのペン……“まんねんひつ”です」
「このガラスペンでも画期的なのに……」

陛下が“まんねんひつ”を手に取りインク瓶へペン先を持って行こうとするので即座に止めに入る。

「陛下、“まんねんひつ”にはインクを付けず試し書きをしてみていただきたい」
「え? インクを付けないと書けないよ……」

困惑気味にペン先を紙に付け滑らせると、「何これ!?」と声を張り上げる。その様に私は内心笑いが止まらなかった。

どうだ、凄いだろう。この“まんねんひつ”は!

「インクを付けてもないのに書けるなんて……っ ま、魔法のペンだ!!」

ククク……。その気持ち、わかりますぞ。魔法のようだと。しかし違うのだよ。これは緻密な計算と技術で作り上げた芸術品だ!!

「陛下、少しお貸し願いませんか。私も使用してみたいです」
「え? ちょ、だめっ まだ僕も書きたい!」
「そのような事は言わず。ほんの少しの間ですから」

やはりブランチャード侯爵も“まんねんひつ”の魅力には勝てないようだ。無理もないだろう。この私ですら初めて目にした時は分解して構造を知りたいという知的好奇心を刺激されたのだからな。

「ルーベンス!! これは凄いよ!! 一体どうなってるの!? インクも付けずにガラスペンよりも書いていられる!!」
「“まんねんひつ”は内部にインクを溜めておけるのでインクを付けずとも文字を書く事が出来るのです。勿論内部のインクが無くなれば書けなくなります。しかし補充も可能で、ペン自体が壊れぬ限り使用していただく事ができますな」
「ルーテル宰相、これは素晴らしいものです。たかがペンなれど、間違いなく世の中が変わる代物だ……」
「ブランチャード侯爵、正にその通りでしょう。しかしこの“まんねんひつ”は内部構造が非常に繊細でしてな。作れる者が限られている為量産は出来かねる」
「なるほど……では、これは一部の者にしか手に入れる事が出来ない貴重品という事ですね」
「ぼ、僕欲しい!! これがあればあの鬱陶しいインク付けも無くなるんでしょ!? ルーベンス、僕このサンプルでいいから、これ下さい!! お願いします!!!!」

このバカ陛下め。御自分の立場を考えんか!! どうしてこう、私の周りには立場を考えず阿呆な行動を取る高貴な御方が多いのか。

「陛下には後日いくつか献上させていただく。それをもって、貴方が信頼する部下へと下賜なされよ。それが他貴族への牽制にもなりましょう」
「!! わ、分かった」
「それと、この事業は国王主体で行う」
「え!?」
「国王の立場をより盤石にする事で、力を持つ貴族を抑える事が出来るのです。このままでは教会の二の舞という事も有り得るのでな」
「そ、そうだね……」

最近は高位貴族の動きも不穏なのでな。陛下には力を付けていただく必要がある。
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