異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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ズボラライフ2 ~新章~

96.自業自得

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「ミィ! ミィ!!(オカンの所にはまだ帰りたくねぇって言ったべ! 無理だからっ 無理だからァァ!!)」

セレブがパリピってるようなクルーザーを海に浮かべた私の後ろで、往生際悪くミィミィ言ってるうみねこを腕に抱きながら呆然としている少年。頭を抱えているリン。そして一瞬の動揺を強靭な精神で立て直したアナさん。ショコラにいたっては「ショコラに乗れば沖までひとっ飛びですよ~」とクルーザーに対抗意識を燃やしていた。

「ぁ……あのお方は、何者なのでしょうか……?」
「それは聞かない方が君の為だ。うみねこの件が終わったら、全て忘れて家族の元に帰るんだよ」
「っ……は、はい!」

アナさんが少年に何か声を掛けているが、クルーザーに攻撃しようとするショコラを止めていた為会話が聞こえなかった。

「さぁ皆、船に乗って下さい」

言えばアナさんは少年を抱き上げて船に飛び移り、リンは渋々、ショコラは頬っぺを膨らませたまま船に飛び乗った。
皆の行動に、海岸と船の間に足場を創り忘れたと思ったが後の祭りである。皆運動神経がよくて良かったよ。しかし自分の番になってから怯んだのは気づかれてないよね? 仕方ないでしょ! こちとら運動神経も平凡なんだよ!!

「主様~? どうしたんですか~??」

なかなかクルーザーに飛び移れない私を訝しんだショコラが声を掛けてくる。

「ぅ、ううん。何でもないよ」

もし仮に、ここで皆と同じようにジャンプしたとしよう。私が海に落ちる確率は極めて高い。何故なら海岸とクルーザーの間は1メートル以上離れている。今更自分だけ足場を創るとかちょっとどうかと思うよね。

うわっ 皆がこっちに注目してるよ。

アナさんが足元と私を見比べてハッとした顔してるけど、成人女性を抱き上げるとか無理だろう。だってお互いつがいがいるから拒否反応がすごいんだってさ。ロードが言ってた。つがいがいる人は成人している人(男女関係なく)に触りたくなくなるって。家族や赤ちゃん、子供ならまだ大丈夫らしいよ。
そう思うと、さっきエスコートしてくれた時は相当無理してたって事だろうね。もしかしてアナさんが手袋してるのって直接触れたくないから? 貴族だからだと思ってたけど、なるほど納得だ。

あ、オロオロし始めた。さすが紳士。リンなんて首を傾げて眉をしかめた上に「何やってんだよ」って言ってくるっていうね。しかしどうしよう……

ハッ!! そういえば私、宙に浮けるんでした!!
地球の頃の平凡な自分にあまりにも馴染みすぎてて、自分が創造主って事すぐ忘れちゃうんだよね~。ヘヘッ

「いやぁ。自分が創ったクルーザーの格好良さに見惚れちゃったよ」

誤魔化しながらふわふわっと宙に浮いて船へと移る。
アナさんはホッとしたような表情を一瞬したが、すぐにキリッとした顔に戻った。

「なに自画自賛してんだよ」
「主様の創るものがカッコいいのは当然です~。でも今回ばかりはショコラの方が役にたちます~」

呆れたようなリンと、まだ不機嫌なショコラ。口をパクパクしている少年は何が言いたいんだろうか?

「ミヤビ様、この船の操縦はどのようにするのでしょうか」
「この船は自動で動くから、操縦とかは気にしなくて大丈夫です。とりあえず沖まで行ってみましょう」


◇◇◇


風をきって走るクルーザーのサンデッキで、サンセットサンラウンジャー(チェアベッド)に寝転び、トロピカルジュースに手を伸ばす。

「おい、これから魔物に会うってのになんだそのバカンス気分は!」
「やだな~。元々バカンスで来たんだよ?」
「ミヤビ様、元々海産物の仕入れに来たのであって、バカンスが目的ではありませんよ」
「な、なんだって!?」
「副師団長の言うとおりだ。あほミヤビ」

アホ言うなリンめ。

「さぁミヤビ様、沖に出ましたので魔物がいつ出てきてもおかしくはありません。そろそろ気を引き締めていただいた方がよろしいかと」

アナさんがそう言うので、トロピカルジュースを一気に飲み干し周りを見る。
後方にマーレの港が微かに見える以外、空と海だけの景色に囲まれている。

「ミィ……(ここまで来ちまった。もうダメだ……)」
「レブーク様、この子の元気がどんどん無くなっていってるようなんですが」
「怪我が悪化しているわけではなさそうだが……もしかして仲間に会いたくないのか?」
「ミィ……(会いたくないっていうか、会わせる顔がないっていうか……)」

心配している少年と真剣に考えているアナさんには悪いが、そのうみねこ、食い意地はって人間の獲った魚に手を出そうとした挙げ句網に引っ掛かって怪我をするという魔獣にあるまじき行為を晒し、恥ずかしさのあまり親に会わせる顔がないアホの子なのだ。

「うみねこ君、キミの親を呼んでもらっても良いかな」
「ミッ!?」
「呼んでもらわないと話ができないでしょ」
「ミィ……(嫌だぁ。オカンに大目玉くらうのがオチだべ……)」
「自業自得なんだからしょうがないでしょ。ほら、大きな声で呼ぼうか。せーの」
「ミィ……。(うぅ……。)ミィィィィィィィィ!!!!(オカンンンンンンンンン!!!!)」
「うわっ ど、どうしたの!?」

急に鳴き声を張り上げたうみねこに驚く少年。
そんな事は関係なく、うみねこの鳴き声は耳鳴りのように大海原へと拡がり暫く後、ゴゴゴゴ……と地鳴りのような音が下から聞こえてきたと思ったら目の前の海がどんどん盛り上がっていき、船が激しく揺れたのだ。

「ギャーーーーーッ!!」
「ミヤビ様!! 柵にしっかりお捕まり下さい!! リンっ 少年を頼む!!」
「はい!!」

激しく揺れる船上でアナさんが冷静に指示をとばす。
私はそんな中、サンデッキを転がり柵にぶつかってポーンと海に投げ出されてしまった。あまりにポーンと飛んだので、びっくりしすぎてポカンと目下にいるアナさん達を見てしまった。

「えぇ!? ミヤビ様ァァァ!!!!?」

海の上に落ちていく私に手を伸ばすアナさん。

「ンナォォーーーーーーーーーーーン」

海面にぶつかる直前、耳をつんざくような鳴き声が空気を揺らしたのだ。


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