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ズボラライフ2 ~新章~
94.うみねこ
しおりを挟む目の前に広がるのはまるで、あまりの透明度に船が宙を飛んでいるようだと表現されるあの青い海のように清んだ美しい海だった。
「綺麗だね~」
一応創造主ではあるが、何万年前の世界しか知らない上、遠い記憶すぎてあまり覚えていない。たしか目の前の海より荒々しかったような気がする。
「綺麗だね、じゃないからな! お前いい加減自分がこの世界で一番尊い存在だって認識しろよっ」
ならばリンよ、その尊い存在をぞんざいに扱っているのだと気付け。
「ミヤビ様、我々は貴女様を危険に晒したくないのです。どうかお考えをお改めいただき、ロード師団長の元へお戻り下さい」
「主様にはショコラが居るので危険はありません~」
アナさんが丁寧に王都へ戻ろうと促す中、ショコラは自信満々に胸を張る。私はといえば、閑散とした港で美しい海を眺めていた。本来であれば活気に溢れた港だろうに……。
魔物が棲みついたとはとても思えない静けさだ。
海へギリギリまで近づこうとすれば、リンに肩を掴まれ止められた。
「おいっ それ以上海に近づくなよ。どんな魔物がいるかわかってないんだからな」
「正体不明だから一度見てみたいんだけど」
「お前はオレが殺されてもいいのかよ!?」
信じられないという目で見られ首を傾げる。
「魔物にリンが殺されるの? そんな強さの魔物ならこの町はとっくに無くなってると思うけど」
何しろ神々の加護に私の加護も上乗せされ、獣王の力に目覚めたリンは人間種で最強なのだ。
「違う!! 師団長に殺されんだよ!!!」
そっち!? アナさんも頷くの止めて!
「私を傷つけられる者はいないので大丈夫です!」
「そういう事じゃない! お前を危険な場所に連れて行ったって事実がヤバいんだ!!」
「つがいが危険な場所に近づく事を容認できる男などいません」
えー……。でも今日のBBQパーティーの為に魚介類は手に入れたいんだよね。港の市場に売ってないなら直接海に獲りに行くしかないでしょう。そういう理由ならロードも許してくれると思う。
「とりあえず船が必要だよね」
「今の話からなんでそうなるんだよ!? より危険な場所に行こうとすんな!」
「いやいやリン君。虎穴に入らずんば虎児を得ずというでしょう。私達の目的は魚介類を手に入れる事なんだから、この大海原に出るのは必然だと思うよ」
「目的は魚介類から魔物をどうするかに変わってるんだよ!! もうお前帰れ!!」
「なら魔物を倒して魚介類を手に入れる!! それまで帰らないからね!!」
「船すら無い状態で何言ってんだっ」
「船なら出せますー。自動運転機能付きのやつ」
「止めろバカ!!」
私は美味しいご飯が食べたいのだ。止めてくれるなリンよ。
「副師団長! 見てないでコイツをなんとかして下さい!!」
「君に止められないのなら私では無理だ。こうなれば私達の全力をもってミヤビ様を守るしかない」
立派な船を出すぞ~っと気合いを入れたその時だ。
「ミ゛ィーーーーー!!!」
猫!? それも子猫!!
子猫の鳴き声が聞こえ、自分でも驚くような速さで振り返る。
「ダメだよ……お母さんの所に戻らなきゃ心配させちゃうよ?」
「ミ゛ィーー!!」
「ダメだったら。君の住む場所は海なんだから。陸だと長く生きられないでしょ」
猫が海で暮らせるか!! よもやここで猫を殺そうとする凶悪犯に遭遇しようとはな。動物虐待と殺猫未遂容疑で逮捕だ!!!!
血走った目でその凶悪犯の姿を捉えたのだが…………なんと凶悪犯は6才位の少年だった。その腕の中には件の子猫が……ん? 子猫の下半身が、魚だと!?
「なにその生物ゥゥゥ!!!?」
「!? な、何!?」
私の声にビクッとしてこちらを見た男の子は、私達が居た事に気付いてなかったのだろう。瞳をまん丸にしてこちらを見ている。
「あの~、すみません。その動物って、何ですか?」
可愛い茶トラの子猫の上半身に、魚の尾びれがくっついている。人魚の猫バージョンのような生物に好奇心をくすぐられ、思わず声をかけてしまった。
「え……あ、この子は、“うみねこ”です」
ん?
「あの、海に棲む魔物で……あっ 魔物といってもおとなしいので人間に危害を加えたりはしなくて……ッ」
いや、 私の知ってる“うみねこ”は鳥デスガ? 読んで字の如くの姿はしてません。カモメの仲間で海の上を飛んでて、猫みたいな鳴き声してるんだヨ。
私の反応に焦り出す少年は、猫魚をぎゅっと胸に抱き一歩後退した。
“うみねこ”と呼ばれる奇っ怪な生物は少年の腕の中でこちらを好奇心旺盛な瞳で見ている。
「いや、君からその子を取り上げたりしませんから。そんなに怯えなくても」
ジリジリ後退していく少年に、怪しい者じゃないよと万歳のポーズを取れば、「お前それなにしてんの?」とリンに言われて「海外で使える怪しくないポーズだよ」と返事をしたら「ますます怪しいけど?」とマジな顔で返された。
「と、とにかく! 君からその生物を取り上げたりしないから、話をしませんか!?」
◇◇◇
「━━━……それで、父さんの網にこの子が引っ掛かってて、怪我もしてたから手当てする為に連れ帰ったんです」
「じゃあさっきはその子を海に還そうとしてたんだね」
「はい。怪我も治ったから家族のところへ帰してやりたくて。でも海に入りたがらないから困ってたんです」
少年の話を聞くと、どうやら漁をしていた父親の船の網に引っ掛かって怪我を負った“うみねこ”の子供を助け、怪我が治ったから今日海に還そうとしていた所だったらしい。
「今ここは魔物が出没する危険地帯です。君はそれを知りながら一人ここへ来たんですか?」
優しい声だが、疑義の念を抱いたのか質問するアナさんに明らかに目を泳がせる少年。その態度に目を細めたアナさんは、私を守るように一歩前に出ると話を促す。
「あの……っ 今この海に棲みついてる魔物はこの子の家族だと思うんです!! だから僕、早くこの子を帰してあげなきゃって思って……」
なんだって!?
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