539 / 587
ズボラライフ2 ~新章~
93.西の港町“マーレ”
しおりを挟む結局、港町に行くメンバーは私、ショコラ、リン、アナさんの4名となった。
そう、アナさんだ。なんとアナさんも一緒に行く事になったのだ。理由は、ロードの最も信頼する部下であり、師団長の事務処理が終わらない限りアナさんの仕事も進まないので時間がある事、らしい。
ロードは嘆いていたが、自業自得である。
「さて、これから港町に魚介類を仕入れに行こうと思います。評判の良い、もしくは豊富な魚介類が獲れる港町がどこか知ってたら教えて下さい」
リンとアナさんを見れば、リンは「オレは海の無い国出身だからわからない」と言い、アナさんは少し考えてから、
「ルマンド王国の西に“マーレ”という港町があります。大きな町ではありませんが、海流にのって多種多様な魚が集まる為か漁獲量も多いのでミヤビ様の条件に合うのではないでしょうか」
さすがアナさんだ。漁獲量を理由に挙げると説得力が半端ない。
「じゃあその“マーレ”に行きましょう!!」
と、その前に軍資金を稼ぎに冒険者ギルドへGO!!
「おじいちゃん買い取りお願いしまーす」
冒険者ギルドの裏に回り声を掛けると、「嬢ちゃん来てたのか」とムキムキのおじいちゃんが現れた。リンと初めてヴェアを狩った時、解体、買取してくれたあのおじいちゃんだ。ヤコウ鳥の逮捕事件でも庇ってくれようとした優しい人なのだ。
「今日は騎士の坊主も一緒か。久しぶりじゃねぇか」
「お久しぶりです。いつもミヤビがご迷惑をお掛けしてすみません」
おい。リンよ、いつから私の保護者になった。
「ワハハッ あんたも苦労してんなぁ。ん? 前とは違う小さい嬢ちゃんと、騎士の兄ちゃんか。初めましてだな」
「ショコラは主様の護衛です~」
えっへんと胸をはるショコラが微笑ましい。おじいちゃんもそうかそうかとニコニコしている。
「お初にお目にかかります。騎士団に勤めておりますアナシスタ・ベルノ・レブークと申します」
「おお、こりゃ随分と丁寧な兄さんじゃねぇか。俺ぁダンってんだ。ギルドで鑑定や解体をやってる。宜しく頼まぁ」
おじいちゃんはダンさんと言うのか。初めて知った。
「おじいちゃん、またヤコウ鳥持ってきたから買い取って下さい」
実は、こうして時々ヤコウ鳥を持ち込んで小遣い稼ぎをしているのだ。(ギルド長とおじいちゃんにはもう精霊だってバレてるみたいだから堂々と買い取ってもらってます。)
今日は港町で買い物するかもしれないので軍資金は必要とやって来たわけである。ロードには内緒なのでアナさんにも後で口止めしておかないとね。
「おうよ。ここに出しな」
「はーい。もう解体はしてるのでお願いしまーす」
ここでは解体後に精算になるので、時間短縮の為にすでに解体されたものを無限収納から取り出す。
「なんだ、嬢ちゃん解体できるようになったのか」
「あ、ううん。他の人に解体してもらったんです」
本当は自分の能力で解体したんだけどさ。
リンが呆れた面持ちでこちらを見ているが気にしない。
「そうかい。綺麗に解体してあるな。デカい上状態も最高だし、これなら50万で買い取れるぞ」
よし!! 軍資金ゲット!
「リン、もしかしてミヤビ様はいつもこのようにしてお金を手に入れられているのか?」
「はい。アイツ、宝石も金塊も、金目のものはいくらでも自分で創れるのに何故か森の動植物を売ってるんです」
「…………そうか」
アナさんとリンが何やらコソコソ話しているが、私は50万という大金を手に入れホクホクである。
これだけあれば満足する量の魚介類が買えるだろう。
さぁ、港町“マーレ”へ繰り出すぞ!!
◇◇◇
そしてやって来ました西の港町“マーレ”。
海の匂いが風にのって鼻先をくすぐり、活気の溢れる市場では様々な魚介類が…………魚介……
「魚介類が、ほとんど売って……ない、だと!?」
なんという事でしょう。港町の中央市場のはずが、人もまばらで、店も閉まっている所がほとんどだった。
「来る時間帯、間違えた?」
もっと早い時間に来ないと開いてないのかな? そういえば、王都の朝市も日の出と共に店が開いて、この時間帯には閉まるもんね。
「確かに朝市であれば閉まる時間帯ですが、マーレの中央市場は朝から夕方まで開いているはずです。小さな町とはいえ、商人は王都へ運ぶ海産物のほとんどをマーレから仕入れていますので、常に賑わっているはずなのです」
「副師団長、オレ……私が話を聞いてきます」
アナさんの言葉に異変を感じたリンが、すぐさま話を聞きに市場の人をつかまえに行った。
「何かあったのかな?」
「ミヤビ様、リンが戻ってくるまであちらのベンチで待ちましょう」
アナさんは流れるようなエスコートで近くのベンチに誘導し、私を座らせると、自分はその横に立ったまま周りの様子を見ている。ショコラも座らずに護衛の役割を果たしていた。なんだかその仰々しさにそわそわする。
「副師団長っ 大変です!」
暫くしてリンが慌てて戻ってき、アナさんに自分が聞いた話を報告しだした。
「どうやらこの近辺の海域に魔物が棲み着いたらしく、漁に出られない状態らしいんです」
「そんな報告は上がってきてないが……いつからそんな状態が続いているんだ」
「1週間前からのようなので、まだマーレからの報告が届いてなかったのかもしれません」
「1週間か……マーレは海事産業で生計を立てている者が多数を占めている。あまり良い状況とは言えないな」
「援軍を要請するにしてもさらに1週間以上はかかります。オレ……私達がその魔物と戦うというのも、魔物の正体が不明という点と、海の魔物であるという点から、現状ではあまり良い策とはいえません」
どうやら海に魔物がいるらしい。だから漁ができなくて店が開けられないのかと納得する。
しかし、海の魔物っていったいどんな魔物なのだろうか? 負のエネルギーの魔物なのか、それとも魔力を持った動物なのか。負のエネルギーの魔物なら消滅させなければ危険だ。
「ミヤビ様、この町は現在危険な状態にあります。リンと共に師団長の元へお戻りになって下さい。リンは師団長へ今の話を報告して指示に従うように」
「待ってください! 副師団長はどうするつもりですか!?」
「私はこの町に残り町民に避難を促す。同時に魔物の情報収集も行うつもりだ」
「それならオレがここに残ります!!」
「ここの領主にも話を聞く必要がある。それは貴族である私の方が円滑に事を進めやすいだろう。君は君の出来る事をしっかりやりきるんだ。いいな」
アナさんってロードより師団長らしくない? リンもキラキラした瞳をアナさんへ向けてるよ。
って違う! このまま何も手に入れられずに王都に戻る事はできないのだ!!
「アナさん、私はまだ王都には戻りません。だってその魔物を倒せば全て解決でしょう?」
「ミヤビ!? お前まさか……っ」
31
お気に入りに追加
2,539
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる