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ズボラライフ2 ~新章~

93.西の港町“マーレ”

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結局、港町に行くメンバーは私、ショコラ、リン、アナさんの4名となった。
そう、アナさんだ。なんとアナさんも一緒に行く事になったのだ。理由は、ロードの最も信頼する部下であり、師団長の事務処理が終わらない限りアナさんの仕事も進まないので時間がある事、らしい。

ロードは嘆いていたが、自業自得である。

「さて、これから港町に魚介類を仕入れに行こうと思います。評判の良い、もしくは豊富な魚介類が獲れる港町がどこか知ってたら教えて下さい」

リンとアナさんを見れば、リンは「オレは海の無い国出身だからわからない」と言い、アナさんは少し考えてから、

「ルマンド王国の西に“マーレ”という港町があります。大きな町ではありませんが、海流にのって多種多様な魚が集まる為か漁獲量も多いのでミヤビ様の条件に合うのではないでしょうか」

さすがアナさんだ。漁獲量を理由に挙げると説得力が半端ない。

「じゃあその“マーレ”に行きましょう!!」

と、その前に軍資金を稼ぎに冒険者ギルドへGO!!





「おじいちゃん買い取りお願いしまーす」

冒険者ギルドの裏に回り声を掛けると、「嬢ちゃん来てたのか」とムキムキのおじいちゃんが現れた。リンと初めてヴェアを狩った時、解体、買取してくれたあのおじいちゃんだ。ヤコウ鳥の逮捕事件でも庇ってくれようとした優しい人なのだ。

「今日は騎士の坊主も一緒か。久しぶりじゃねぇか」
「お久しぶりです。いつもミヤビがご迷惑をお掛けしてすみません」

おい。リンよ、いつから私の保護者になった。

「ワハハッ あんたも苦労してんなぁ。ん? 前とは違う小さい嬢ちゃんと、騎士の兄ちゃんか。初めましてだな」
「ショコラは主様の護衛です~」

えっへんと胸をはるショコラが微笑ましい。おじいちゃんもそうかそうかとニコニコしている。

「お初にお目にかかります。騎士団に勤めておりますアナシスタ・ベルノ・レブークと申します」
「おお、こりゃ随分と丁寧な兄さんじゃねぇか。俺ぁダンってんだ。ギルドで鑑定や解体をやってる。宜しく頼まぁ」

おじいちゃんはダンさんと言うのか。初めて知った。

「おじいちゃん、またヤコウ鳥持ってきたから買い取って下さい」

実は、こうして時々ヤコウ鳥を持ち込んで小遣い稼ぎをしているのだ。(ギルド長とおじいちゃんにはもう精霊だってバレてるみたいだから堂々と買い取ってもらってます。)
今日は港町で買い物するかもしれないので軍資金は必要とやって来たわけである。ロードには内緒なのでアナさんにも後で口止めしておかないとね。

「おうよ。ここに出しな」
「はーい。もう解体はしてるのでお願いしまーす」

ここでは解体後に精算になるので、時間短縮の為にすでに解体されたものを無限収納から取り出す。

「なんだ、嬢ちゃん解体できるようになったのか」
「あ、ううん。他の人に解体してもらったんです」

本当は自分の能力で解体したんだけどさ。
リンが呆れた面持ちでこちらを見ているが気にしない。

「そうかい。綺麗に解体してあるな。デカい上状態も最高だし、これなら50万で買い取れるぞ」

よし!! 軍資金ゲット!

「リン、もしかしてミヤビ様はいつもこのようにしてお金を手に入れられているのか?」
「はい。アイツ、宝石も金塊も、金目のものはいくらでも自分で創れるのに何故か森の動植物を売ってるんです」
「…………そうか」

アナさんとリンが何やらコソコソ話しているが、私は50万という大金を手に入れホクホクである。
これだけあれば満足する量の魚介類が買えるだろう。

さぁ、港町“マーレ”へ繰り出すぞ!!


◇◇◇


そしてやって来ました西の港町“マーレ”。

海の匂いが風にのって鼻先をくすぐり、活気の溢れる市場では様々な魚介類が…………魚介……

「魚介類が、ほとんど売って……ない、だと!?」

なんという事でしょう。港町の中央市場のはずが、人もまばらで、店も閉まっている所がほとんどだった。

「来る時間帯、間違えた?」

もっと早い時間に来ないと開いてないのかな? そういえば、王都の朝市も日の出と共に店が開いて、この時間帯には閉まるもんね。

「確かに朝市であれば閉まる時間帯ですが、マーレの中央市場は朝から夕方まで開いているはずです。小さな町とはいえ、商人は王都へ運ぶ海産物のほとんどをマーレから仕入れていますので、常に賑わっているはずなのです」
「副師団長、オレ……私が話を聞いてきます」

アナさんの言葉に異変を感じたリンが、すぐさま話を聞きに市場の人をつかまえに行った。

「何かあったのかな?」
「ミヤビ様、リンが戻ってくるまであちらのベンチで待ちましょう」

アナさんは流れるようなエスコートで近くのベンチに誘導し、私を座らせると、自分はその横に立ったまま周りの様子を見ている。ショコラも座らずに護衛の役割を果たしていた。なんだかその仰々しさにそわそわする。

「副師団長っ 大変です!」

暫くしてリンが慌てて戻ってき、アナさんに自分が聞いた話を報告しだした。

「どうやらこの近辺の海域に魔物が棲み着いたらしく、漁に出られない状態らしいんです」
「そんな報告は上がってきてないが……いつからそんな状態が続いているんだ」
「1週間前からのようなので、まだマーレからの報告が届いてなかったのかもしれません」
「1週間か……マーレは海事産業で生計を立てている者が多数を占めている。あまり良い状況とは言えないな」
「援軍を要請するにしてもさらに1週間以上はかかります。オレ……私達がその魔物と戦うというのも、魔物の正体が不明という点と、海の魔物であるという点から、現状ではあまり良い策とはいえません」

どうやら海に魔物がいるらしい。だから漁ができなくて店が開けられないのかと納得する。
しかし、海の魔物っていったいどんな魔物なのだろうか? 負のエネルギーの魔物なのか、それとも魔力を持った動物なのか。負のエネルギーの魔物なら消滅させなければ危険だ。

「ミヤビ様、この町は現在危険な状態にあります。リンと共に師団長の元へお戻りになって下さい。リンは師団長へ今の話を報告して指示に従うように」
「待ってください! 副師団長はどうするつもりですか!?」
「私はこの町に残り町民に避難を促す。同時に魔物の情報収集も行うつもりだ」
「それならオレがここに残ります!!」
「ここの領主にも話を聞く必要がある。それは貴族である私の方が円滑に事を進めやすいだろう。君は君の出来る事をしっかりやりきるんだ。いいな」

アナさんってロードより師団長らしくない? リンもキラキラした瞳をアナさんへ向けてるよ。
って違う! このまま何も手に入れられずに王都に戻る事はできないのだ!!

「アナさん、私はまだ王都には戻りません。だってその魔物を倒せば全て解決でしょう?」
「ミヤビ!? お前まさか……っ」


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