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ズボラライフ2 ~新章~

89.砂上の楼閣

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「私のせいでルーベンスさんが陥れられる……っ」

どうしよう。そんな事になったらルーベンスさんに会わせる顔がない!! それに執務室に遊びに行けないのも嫌だ!! だって午後のお茶とお菓子の時間が無くなる!!

「こうなったらあのオジサン達の記憶を消すしか……っ」
「ミヤビ、記憶を消しても奴らはまた同じ事を繰り返すと思うぜぇ」
「師団長のおっしゃるとおりです。それに今回の事は彼らの思い通りにはいかないと思われます」

ん? どういう事??

「例え彼らから宰相が王位を狙っていると聞かされても、陛下は宰相が王権奪取を考えているとは疑いもしないでしょう」
「だろうな。なんならあの陛下バカの事だ。チャンスといわんばかりに、ルーテル宰相が王になるなら喜んで譲るとか言い出しかねない」

ええ!? 確かに王様って権力を行使できる代わりに、休みもなく労働を強いられるブラックさだもんね。あのルーベンスさんでさえ宰相の仕事で疲れてる位だし。それを思うと王様の過酷さは相当だろう。

「宰相の疲労の原因は半分オメェのせいだと思うぜ」
「そんな事ないでしょ!? ねぇアナさん!!」
「ぇ……と、」

ただでさえ合わない目をさらに反らされただと!?

「しかしアナシスタ。もう一つの目的であるミヤビとの距離はどうしても取らざるを得ねぇぞ。俺ぁ嬉しいが、奴らが図に乗るのはなぁ」
「それでしたら問題はありません。ミヤビ様がお一人で宰相の部屋に入っていた事が問題だったのですから、今後は護衛か師団長を伴えばよろしいのです」

護衛? 私、護衛なんて居ないんですけど。常にロードとルーベンスさんを訪ねるのも嫌だし。多分ルーベンスさんも嫌がる。

「護衛ねぇ……ショコラが居るが、見た目がガキだからなぁ。なめられる可能性もある」

あ、そういえばショコラは護衛だったな。私の中では家族に入ってるから忘れてたよ。

「御子様方の御披露目でお側にいらした方々は護衛ではないのですか?」
「ああ。3人娘か。あいつらでも構わねぇが、ショコラがなぁ……」



◇◇◇



「主様の護衛はショコラです!! 他に任せるつもりはありません~!!」

結局護衛の話は何も決まらず、ロードの仕事が終わるまで膝の上に拘束され続けた。
その後深淵の森に帰ってロードがショコラに先程の話をしたのだが、案の定私の護衛を他の珍獣に任せる気はないらしい。

「言うと思ったぜ……」
「私はショコラで問題ないと思うけどなぁ。大体“精霊”に護衛が居るのもおかしな話だし、とにかくルーベンスさんの部屋で2人にならなきゃいいんだよね?」
「まぁ、そうだけどよぉ」

私の頭に頬擦りしつつ、いまいち納得してない風にうーんと唸っているロード。それに対し、ショコラはニコニコ上機嫌だ。

「ショコラは嬉しそうだねぇ」
「はい!! ショコラは護衛なのに修行の身で主様の御側にあまり居る事が出来ませんでしたから、これからはしっかり護衛出来ると思うと嬉しいのです~!!」

そういえばヴェリウスが、ショコラとマカロンに修行させてるって言ってたなぁ。『本来であれば護衛にはティラーが向いておりますが、奴らの序列ではミヤビ様が最初に名付けされたショコラが1位ですので……』とか言ってたような気がする。それでティラー姉さんは双子の護衛になったんだっけ。3人娘は侍女的なポジションだしね。

「しゃーねぇか。ショコラ、相手は人間だ。くれぐれも本気を出すんじゃねぇぞ。力のコントロールは出来るようになったんだろ?」
「はい!! ショコラは頑張りました。コントロールは完璧です~!! マカロンとは違って、ヴェリウス様にも褒めていただきました~」
「ヴェリウスが褒めたなら大丈夫そうだな。よし。ミヤビを頼んだぜ」

ロードは極力ルーベンスさんに会いたくないのか、ショコラに任せる事にしたらしい。
ルーベンスさんとアナさんにも話しておかないとなぁと思いながら、ジョリジョリする頬擦りに身を委ねたのだ。



「それにしても、精霊と仲が良いだけで王様になれるもんなの?? 王様って血筋とか重要なんでしょう?」
「精霊と関係があるって事ぁ国民の支持も高くなるし、神に近ぇ存在が国に居りゃあ祝福だなんだって国が安定すると考えてんだろうよ。となりゃあ、王の血筋よりゃ精霊をとった方が国の為にも良いだろ」
「なるほど。でもルーベンスさんには子供はいないし、作る気もないらしいよ?」
「関係ねぇよ。それなら現陛下の子や他の公爵家から養子をもらやぁ良いだけだしな」
「うぇぇ~。結局精霊関係なしに血筋に戻るんだ」
「重要なのは、精霊から親のように思われている宰相の家から王を出す事だからな」

国が安定するならそっちを優先するけど、それも表面上の事かぁ。そりゃあそうだよね。

「王様の地位って砂上の楼閣なんだね……」
「ルマンド王国は精霊だの神獣だのが王宮をうろうろしてっからな。普通はそんな事ねぇよ」

私のせいだった。

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