異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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ズボラライフ2 ~新章~

71.ロードの神殿3

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薄暗い回廊に何処からか吹き込む冷たい空気。ゆらゆら揺れる蝋燭の火と私達の影。反響する足音が恐怖心をより大きくさせる。

「私達、ロードの神殿に来たんだよね?」
「のはずだけど、どう考えても神殿じゃない! お化け屋敷だよ~!!」
「神殿に入ったらお化け屋敷に転送された。とかそういう感じじゃないよね?」
「世にも不思議な世界!!!」

ヴェリウス達とはぐれた私達は、恐怖のあまり二人抱き合うように腕を組み、とにかく前へと進んでいる。
回廊は一本道なので、迷う事がないのは唯一の救いだ。そう思っていたのだが、暫く進むと左側に階段が現れた。

上に行くか、それともこのまま奥に進むか……。

「みーちゃん、このパターンだと普通は2階に進むよね……」

ホラーゲームならそうだろう。しかし、

「トモコ、私達はこのお化け屋敷から出る事が目標なんだよ。もしここで2階に行ったとしても、外に出る事は出来ないでしょ。ならこのまま奥に進んで出口を見つけるべきじゃないかな」
「みーちゃん、奥に行ったとして本当に出口ってあるの? パターンから言って、奥に行けば地下に行く階段が出てくるはずだよ。それなら2階で窓とか見つけて、そこから出た方が良い気がする!!」

成る程……ゲームの事ならトモコの方が圧倒的に詳しい。それならトモコの言うとおりに進んだ方が良いかもしれない。
地下には絶対行きたくないし。

「分かった。ここはトモコの言うとおり2階へ行こう」

私達は恐る恐る階段を上がる。しかし階段を上がった先も薄暗く窓も無い。1階の廊下と同じように蝋燭で照らされて不気味さは増すばかりだ。
今にも暗闇からドラキュラが出てきそうで恐ろしい。

「窓、無いね~」
「……外側には窓もあったし絶対どこかにあるはず。探そう!」
「う、うん。部屋に入れば普通窓はあるよね?」

左右を見れば、扉はいくつもある。
しかし何処か違和感があるのだ。

「……トモコ」
「何? みーちゃん」
「外観はあんなに大きいのに、中はこんなに狭いっておかしくない?」
「そう言えば……1階も一本道で幅も外観に比べて狭かったし、2階に上がってきても一本道……っ」

トモコの顔色が悪くなっていく。
そう。ここは外から見た建物の面積に比べて中がおかしな程狭い。しかも迷路のように道が別れている事もなく、ただ一本道を奥に進んで行くようになっている。
この分だと、窓を見つけたとしても開かないだろう。

「“幻覚”、かな」
「そうだね~。案内人とはぐれたら目的地に着けないような魔(神)法がかかってそう……」

つまり先程案内人とはぐれた私達は目的地にはたどり着けない、と。

「転移しかない!!」
「みーちゃん!? こんな魔法がかかってる中でみーちゃんの力を使ったら、最悪神殿内部が壊れちゃうよ!? 出来たばかりの神殿壊す気!?」

そうなのだ。今まで私達が外に転移しなかった理由はそこにある。
他神の許可なく自身以外の神殿内で力を行使した場合、力の弱い方にダメージを与える事になる。ちなみに私がアーディン(今はトモコ)の神殿で力を使った際は、気付かなかったが神殿の結界が破壊され、なんなら建物もちょっと消し飛んでいたらしい。
しかもそれを2度やらかしている。(だってそんな事になっているとは気付いてなかったんだもの)
後でトモコに滅茶苦茶怒られた。

「大丈夫!! 少し壊れる位のダメージで抑えられる気がする!!」
「気がするだけ~!?」
「よし!! やるよっ」

とにかく外に出る事が最優先だ。神殿が多少壊れても直せば良い!! だってこのままじゃドラキュラの餌食になるだけなのだ!!
そう思い転移しようとした刹那、

「“やるよ”じゃねぇ」

身体が浮き上がり、固く大きな何かに包まれたのだ。

「ロードさんだ!!」

トモコの声に驚きで固まっていた身体から力が抜ける。

「ったく。迎えをやったのに来ねぇから何してるかと思やぁ、まさか創ったばかりの神殿を壊そうとしてるたぁなぁ」

羽交い締めでヤクザな笑顔を浮かべる旦那に、ドラキュラとはまた違う恐怖が湧いてきた。

「誤解ダヨ! ワタシはこのホラー神殿カラ抜け出そうとしていたダケで、破壊の意思は無いヨ!!」
「ホラー神殿って何だ。片言で喋るんじゃねぇ」

羽交い締めから片腕に乗せるいつものスタイルに抱き上げられ、呆れたように溜め息を吐くロード。その後ろにはヴェリウス達の姿もある。

「ヴェリウス!」
『ミヤビ様、突然姿が見えなくなり心配しました』
「こっちはヴェリウス達が突然いなくなって焦ったよ……」

ヴェリウスさえ居てくれれば、ホラー神殿やドラキュラなんて何の問題も無かっただろう。きっと彼女ならばトモコの怖い話など笑い飛ばしてくれるはずだ。ショコラも空気クラッシャーという技がある。

『どうやったらあの一本道ではぐれるのですか』

本当にね。

「主様~! 心配しました~!!」

呆れ顔のヴェリウスから目をそらす。ショコラは私に抱きついてこようとしてロードに止められている。
ロードさん、ショコラの頭を押さえつけるのはどうかと思うよ。ショコラ女の子だよ。

「そんな事より!! ロードは何でお化け屋敷みたいな神殿を創ったの!?」
「お化け屋敷だぁ?」
「外の光が入らない真っ暗な建物内で、蝋燭の光だけ!! 更に外側と内側の面積の相違!! 脱出不可能な出入口って、お化け屋敷以外にないでしょ!? あと案内人の顔色の悪さね!!」
「あ゛? 内部が暗いのは案内人の役割を与えた精霊が光に弱いからだ。顔色も精霊の特色らしいぞ。幻覚魔法をかけてんのは主に侵入者対策だな。防衛面はどの城にも負けねぇ強固さだぜ。入口に関しては自動で開く仕掛けだろ。内側から開ける為にゃ少し距離を取る必要があるが普通に開くぜ?」

何だと!!?

『どうせトモコが神殿内の探検をしようとでも言い出して、ミヤビ様を無理矢理連れて行き迷子になったのでしょう。ミヤビ様も探検はよろしいですが、案内人も居るのですからまずはロードと合流しなくてはいけません。突拍子もない行動は控えていただかないと』
「は、はい……」
「ヴェリーさん酷っ!?」

結局ヴェリウスの説教を聞く羽目になり、私とトモコの頭の中からホラー神殿の事はすっかり抜けてしまったわけだ。
めでたし、めでたし。


◇◇◇


「それにしても案内役の人、本物のドラキュラみたいな見た目でびっくりしたよ」
「ね~。まさに!! って感じでホラー感増したよね~」
「うん。雰囲気出てたわ」

などと、今となっては笑い話になる神殿内の感想をロードに伝えていた私とトモコだったが、次の瞬間凍りついた。

「よく分かったな」
「「え?」」
「あの精霊が吸血鬼ドラキュラだってよぉ」

ロードの言葉と、旦那の後ろでニタリと笑う案内人に暫く絶叫が響いたのは言うまでもないだろう。

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