476 / 587
ズボラライフ2 ~新章~
45.阿鼻叫喚
しおりを挟む「死んでも王都にいれるな!!!!」
「火矢だ!! 矢先に火を付けろ!!!!」
「弓を引け!!!! っっ(はな)てーーーーーッ!!!!」
ビュンビュンと音をたて、火の灯った無数の矢が飛んでいき、地面にこれでもかと突き刺さる矢は炎を上げて草花を灰にしていく。
「イヤァァァァ!!!!」
地面に矢が刺さる度に虫の大群がザザっと避ける様はあまりにも気持ち悪く、門の中で勤務していた事務官が我慢できずに叫び声を上げた。
虫型魔物達はガサガサガサと素早い動きで矢を避け、なおも前進してくる。
門までの距離は1キロを切っていた。
「応援はまだか!!!?」
「武器を構えろ!!!!」
「一般人と事務官の避難を優先しろ!!!!」
「騎士団だけでなく冒険者にも協力を仰ぐべきでは!?」
怒号と悲鳴が飛び交う中、門周辺はパニックに陥っていた。
そんな状況がコロッセオに届くまでにそう時間はかからなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雅視点
「試合、全然始まらないね~」
開始の鐘が鳴ってしばらく経っているはずなのに、出場者どころか審判員すら出て来ないのだ。
勿論王様もロード達師団長も戻ってこない。
と、ようやく審判員が舞台上に出てきたと思ったたら、「皆様申し訳ありません!!!! 暫く会場内で待機をお願いします!! 外には絶対出ないようお願いします!!」と叫び始めたではないか。
観客席側にいるスタッフもその場での待機をお願いしている。
「何かあったのかな~??」
「嫌な予感しかしない……」
さらに少しして、会場内舞台側にぞろぞろと大勢の人が入ってきたではないか。
皆何が起きているか分からないという顔をしてキョロキョロしている。
「ヴェリウス」
『お呼びですか。ミヤビ様』
私の影からにょきっとヴェリウスが生えた。
「何かあったの?」
『………………人型の魔物が王都近くに現れたようです。すでにロードはそちらに向かっております』
ヴェリウスの変な間に違和感を覚えながらも、ふむと頷く。
「じゃあ試合は中止ってこと~?」
「そうなるね。リンも出て来ないし、きっと応援に向かったんだよ」
つまらなそうに唇を尖らすトモコに、機嫌を取る為ストックしていたクレープを渡す。
ロードの美味しいスイーツ特集の中でも上位に食い込むとっておきだ。
「うまぁ~!!」
そうだろう。そうだろう。
機嫌の戻ったトモコに頷きつつヴェリウスを見る。
最近ますます艶の増した体毛はサラふわで、顔を埋めたい欲求が増すがぐっと堪えた。
「ヴェリウス、人型の魔物の数は? ヘドロ玉にはロードの結界を張ってるからそれが狙いってわけではないんでしょう?」
『恐らく一体なのでしょうが………………いえ、ヘドロ玉は例の人間の中にある人型魔物の一部を誘き出す為に使用した為、本体にその存在を知られたのでしょう』
やはりヴェリウスの物言いがいつもよりモゴモゴしている気がする。
恐らく一体だなどと曖昧な表現をする事もいつものヴェリウスらしくないし、なんだかまるで人型以外に複数何かが居るような表現ではないか。
「ヴェリウス、 「皆様!! 現在王都周辺で魔物を確認しました!! 王都内への侵入は許しておりませんが、都民の安全を考慮し、各避難所へ誘導しております!! こちらの建物も緊急避難所として使用致しますので、これから大勢の人がやってきます!! その為できるだけ詰めて座っていただきますようご協力お願いします!!!!」 」
ヴェリウスに詳しく聞こうと口を開いたが、スタッフの声にかき消されてしまった。
『ミヤビ様、我々は天空神殿に移動しましょう。貴女様と御子様方を人間の目に触れさせるわけにはまいりません』
「え、でもロードを待った方が 「みーちゃん。私達が居ない分スペースが空くなら移動した方が良いよ~」 」
トモコの言葉に確かに。と納得し、ヴェリウスに『お早く』と急かされながら双子達と移動したのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とある門番視点
門付近はまさに阿鼻叫喚といった具合で、逃げ惑う人々の悲鳴と、それらを誘導する騎士のかけ声に、上司の怒号、そして迫り来る魔物への恐怖と地獄絵図のようだ。
隣にいる同僚なんて、「マジかよ…」と呟いた後は無言で魔物の群れを見ているが、その手は恐怖で震えている。
なんなら俺の足もさっきから震えが止まらない。
何故なら、放たれる火矢は草原を燃やすだけで巨大な魔物に効いているようには思えない。それどころか、嘲笑うようにその数を増している気すらしてくるのだ。
「俺、人生の中で何度も死ぬ思いしたけどさ、今回のはある意味一番最悪かも……」
「ああ。今までてピカいちの気持ち悪さだよな…」
「今度こそ滅んだな。ルマンド王国」
諦めの言葉が俺達の口から漏れたその刹那だった。
ドゴォォォォォォン!!!!!!!!
轟音と揺れ。その後に土埃が舞い、何かが焼けたような、独特の鼻を突き刺さす不快な匂いが漂ってきたのだ。
直ぐに視界が開けたが、そこで俺達が見たものは━━━……
「地面に穴が……」
呆けたような同僚の声に目を凝らす。
そこにあったのは、地面にぽっかり空いた巨大クレーターと、そこに転がる魔物の死体だったのだ。
「なッ 一体何が……っ」
「あそこだ!! あそこを見ろ!!!」
人が立ってるぞ!! との同僚の声に目を見開く。
確かに魔物の群れの側に、人が数人佇んでいたのだから。
************************
★ルマンド王国王都門番募集中★
月給:25万ジット
未経験者歓迎
各種保険完備/昇給あり/賞与あり/育休制度あり/交通費支給
条件:
①目がとても良い事
②体力がある事
③丈夫である事
④暑さ寒さに強い事
年齢制限なし。性別問わず。種族問わず。
騎士団の一員として都民を守る遣り甲斐のあるお仕事です。
先輩達の声:
●開放的で楽しい職場です。
●いつも遠くを見るおかげか、益々目が良くなりました!!
●風を体いっぱいに感じられるよ!!
ご応募お待ちしております。
ルマンド王国第3騎士団 人事課
ロードの部下: 「師団長、本当にこんな“チラシ”っつー紙一枚で人が集まるんスか? なんかめちゃくちゃ怪しいんスけど。大体各種保険ってなんなんスか」
ロード: 「俺のつがいの言う事に間違いはねぇ」
ロードの部下: 「…………」
★ズボラ世界のお金
1ジット=1円玉と同サイズの銅貨
10ジット=10円玉と同サイズの銅貨
50ジット=50円玉と同サイズの銀貨
100ジット=100円玉と同サイズの銀貨
500ジット=500円玉と同サイズの銀貨
1000ジット=1円玉と同サイズの金貨
5000ジット=50円玉と同サイズの金貨
10000ジット=1円玉と同サイズの白金貨
21
お気に入りに追加
2,533
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる