異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

文字の大きさ
上 下
441 / 587
ズボラライフ2 ~新章~

12.人族の神が抱える問題

しおりを挟む


上も下も、横を向いても白、白、白。

視覚から得られる情報は白しかないといんばかりのこの場所は、人族の神の神域内に建つ神殿の中だ。

そう、トモコを助け出す為(?)に来たっきり訪れていなかったあの建物である。
何故私がそのような場所に居るのかといえば、先日トモコから聞いた精霊の話に起因する。

アーディンを人間に転生させた後精霊達がどうなったか聞いた際、トモコのお茶を濁したような返答が気になったのだ。
もしかしたら何か問題があるのではないかと考えた私は、こうして抜き打ちチェックにやって来たというわけだ。

「それにしても、こうも白一色だと目がチカチカしてくるな……」

さっきから誰も居ない静かな廊下を道なりに歩いている。
ピカピカに磨きあげられた大理石の床はツルッツルッで、気を抜くと転びそうだ。

あの一度だけ転移して来た時は、トモコが寝かされた寝室だったからな……どこに件の精霊が居るのやら。

眉間にシワを寄せて、視界の端に捉える扉達を開けるか開けまいか悩みながら通りすぎていく。

だって何の部屋か分からないし、これで個人の部屋だったとして、勝手に開けてとんでもなく恥ずかしい状況を目撃してしまった時、どうしたら良いの? 

そんな事を考え出すと迂闊に扉を開けられなくなり、さっきからこの廊下を行ったり来たりしてもう30分位徘徊しているのである。

「━━…あの、」
「あ゛ーーーどうしよう。こんな事ならトモコと一緒に来れば良かった!」
「あの……」
「ここの階に精霊達の部屋があることは分かってるんだよ。でもさ、プライベート空間に勝手に入るとか無理だよね。ズカズカ人の部屋に入るなんてモラルを問われるわ」
「……」
「大体何で呼び鈴とかないかなぁ? 各部屋にインターフォンとかあれば全て解決する事だよね?」
「ノックしてください。それで全て解決します」
「ああ! ノックね!! それは盲点だっ、た……ん?」

今独り言に返事がかえってこなかった?

周りうかがえば、後ろから「こちらです」と声が掛けられ心臓が跳ね上がった。

「先程から声を掛けさせていただいておりましたが、驚かせてしまい申し訳ありません……」

後ろを振り返ると、見たことのある男性に丁寧な口調で謝罪されたのだ。

「あれ? 貴方は確かあの時の……」

真正面から顔を見て思い出す。
このそこらの女性より綺麗な顔は、あの時ショコラを攻撃して幻獣の核を奪った精霊で間違いない。
あの時とは違い丁寧な口調だが、私の精霊像をぶち壊した男なので覚えていたのだ。(※忘れた方は第2章“核と神王”近辺を読み返してください)

「ッ……貴女様は…」

相手も私の後ろ姿しか見ていなかったのか、顔を見て息を飲む。

「その節は御無礼の数々、誠に申し訳ありませんでした」

突然頭を下げ、謝罪してくる男に目を見開いた。
初めて出会った時とは別人レベルの謙虚さだ。

トモコが再教育したと言っていたが、本当にそうなのだろう。
魂も問題なく浄化されているようだし……なのに何故トモコはあんなに言い淀んでいたのだろうか?

「精霊はアーディンの魂が穢れた影響を受けていたからね。それに主に逆らう事はできないし、今はその影響からも脱したみたいだから、ヴェリウスやトモコが決めた罰の他には何も言うことはないかな」

ショコラにした事を許せるかといえば、どんな理由があろうと許せる事ではない。しかし、アーディンからの影響を考慮すれば、ヴェリウスとトモコの罰は妥当と言えるだろう。

私は彼の謝罪にそう返すと、他の精霊達の事を聞き出そうと話し掛けたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



トモコ視点



この間、みーちゃんに突然アーディンの精霊達の事を聞かれて曖昧に返事をしちゃったけれど、その問題は今私の中でも一番頭を痛めていることでもあるんだよね。

「トモコ様、お願いです! どうかアーディン様の元へ行かせて下さい!」
「オレ達はアーディン様の精霊です! あの御方が人族へ堕ちたなら、オレ達も共に人族へ堕ちるべきではないですか!?」

そう。ヴェリーさんと一緒に再教育を施して、アーディンの穢れの影響から抜け出しまともになってきていたから、最近ようやく仕事に復帰させたというのに、アーディンの末路を知ったこの精霊達は、自分達も人族に転生したいと言い出したの。

お見通しだとでもいうように、精霊達の事を気にしていたみーちゃんはさすが神王様だなって思うよ。

「ダメだよ。アーディンは魂が穢れてしまっていたから、救う方法は人間への転生しかなかったけど、貴方達は影響を受けていたものの転生するほどではなかったんだから、今の生をまっとうしないと」

アーディンが創った精霊の中でも、特に核強奪事件で中心的に動いていた精霊達に関しては、私がアーディンの力を引き継いでも忠誠までは引き継ぐ事ができなかったみたい。
勿論逆らったりはしないけど、やっぱりあるじのそばがいいのかな。

何度も何度もこの掛け合いがあったけど、精霊達の気持ちは変わらないどころか日々強くなる一方で、本当に頭を悩ませてるんだよ。
でもこれは、現人族の神である私が解決しないといけないんだって事は分かってるの。みーちゃんに頼っちゃダメだって。

分かってるんだけどね……みーちゃん、私一体どうしたらいいの?
しおりを挟む
感想 1,621

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...