異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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ズボラライフ2 ~新章~

10.祝福キャンペーン実施中

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レンメイさんとカルロさんにおかしなネタバレをした私は、間違いを訂正させてもらえる事も出来ずに日々を過ごしていた。

「特に何も変わってないから良いんだけどね」
「それにしても、みーちゃんが“神王様の御息女”って」

お茶菓子を食べながらププッと笑っている親(心)友を、半目で睨む。

「まぁまぁ。どっちにしてもアタシら人間からしてみれば想像も出来ないような尊い御方だよ。同じようなもんさね」

美味しい紅茶のおかわりをいれてくれるのは、今いる茶葉専門店の店主。トリミーさんだ。

「トリミーさんの言うとおりだね~。それに、神王様に御息女が居るのも間違いないしさ」

宙に浮いているベビーベッド(※オリバーさんからプレゼントされた)に転がって、すやすや寝息をたてている双子を優しい瞳で見つめたトモコは、トリミーさんのいれてくれた紅茶を飲んでにっこりと笑った。

本日から“ミヤビとトモコの服屋さん”に復帰した私は、現在トリミーさんのお店でアフターヌーンティー中なのだ。

「本当に可愛い赤ちゃん達だねぇ。安心しきって眠ってるよ」

双子にメロメロな顔を向けて眺めているトリミーさんは、人族と精霊のハーフだ。
本人はその事実を最近知って驚愕していたが、私が神王だという方がそれを上回って、自身の出生の秘密(?)が大したことない感覚になってしまっている。

「トリミーさんは子供は作らないんですか~?」

夫婦の繊細な問題を、空気を読まずに切り開いてしまったトモコにギョッとする。

「ウチは年齢がねぇ……」

困ったように笑うトリミーさんに、さらにトモコが言葉を紡いだ。

「年齢ならみーちゃんの薬もあるし、なんの問題もないですよ~? 世の中ベビーラッシュにわいてるって言っても、まだまだ人口は少ないんですから、子供が欲しいと思ってるなら作った方が良いですよ!」
「トモコちゃん……でもね、アタシらだけ特別扱いなんて、何だか他の人に悪いっていうか……」

人の良いトリミーさんは、特別扱いされる事に気が引けているらしい。

「大丈夫!! 子供が本当に欲しいって思ってて、きちんと育てる事ができるだろう信仰心の高い夫婦には、期間限定で神々の祝福キャンペーンを実施してる所だから、特別扱いにはなりません」
「き、きゃんぺーん…??」

トモコの悪ノリに純粋なトリミーさんが戸惑っているではないか。

「トリミーさん、子供については夫婦でも色々考えがあると思いますので、ご主人とも納得いくまで話し合ってから決めたら良いと思いますよ」
「ミヤビちゃん……」
「ちなみに、寿命に関しては、トリミーさんは精霊のハーフですし、ご主人は人族とはいえ精霊とつがった事もあり、普通の人族よりは長生きすると思います」

本来なら、トリミーさんのお父さんも長生きするはずだったが、魔素が枯渇してしまえば例え精霊とつがっても難しかったのだろう。

トリミーさんは現在50歳で、人族の寿命は地球と変わらないのだ。多分彼女のネックはそこにあるのだろう。
何しろ50代で子供を産んでも、成人前の子供に介護させる事になるかもしれないのだから。

「!? そ、そうなのかい? じゃあ、この年で産んだとしても、子供が成人するまで育てていけるって事なのかね?」
「余裕ですよ~。なんなら、孫の成人だって、曾孫の成人だっていけちゃうかも」
「そんなに!?」

トモコの言葉に驚いて身を乗り出すトリミーさんは、やはり子供が欲しかったのだろう。

「みーちゃん、もう薬渡しておいたら~?」

トモコの言葉に頷き、量を調節した若返りの薬を2つ取り出す。

「トリミーさん、これは“機能改善の薬”です」

本来ならトリミーさんにこの薬は必要ないが、魔素が枯渇していた頃の影響で多少内臓の機能が衰えている事、トリミーさんは徐々には回復しているが、旦那さんの方は今以上の回復は難しい事を伝え、二人で使用してほしいと説明する。

「ミヤビちゃん、本当にこんな貴重なもの、良いのかい?」

恐る恐る小瓶を手に取るトリミーさんに頷く。

「勿論です。ただし、用法、用量は守って使用してください。トリミーさんはこっちの量が少ない方で、旦那さんはこっちの多い方ですよ」
「わかったよ。何から何までありがとうね。旦那とも相談してみるよ」

これで少なくとも1年後には、トリミーさんはママ友だ。と心の中でニヤリとほくそ笑む。

トモコはアーディンがまだ子供なので難しいが、徐々に双子の友達候補を作っておかなければ。良き人格形成の為にも。
いつでもどこでもカシズかれる事が当然にならないよう育てなくては。  

「双子の友達候補ゲットだね!」

サムズアップする親(心)友に頷き、アフターヌーンティーを終えて自分たちの店に戻るのであった。



◇◇◇



「最近はお忍びで貴族のご令嬢も来ることがあるよ」

獣人のお客様が帰っていった後、そういえばと教えてくれた情報にまばたきで応える。

「ほら、ウチの服ってちょっとした幸運が訪れるって噂になったでしょう。あの頃から本当にたまにだけどやって来るんだよね」
「でも、ここには貴族らしい服は置いてないよ?」
「うん。お忍び用のワンピースやらを買いに来るみたい」

貴族街から最も遠い庶民の店にわざわざ? と首をかしげれば、トリミーさんの茶葉専門店もあるしとトモコは言うのだ。
確かに、ルーベンスさんにトリミーさんの店を紹介してから、貴族の御使いみたいな人がよく出入りしているのは確かである。

「でね、昨日来た貴族のお嬢様がね……どうもみーちゃんを探してるみた「ごめんくださいまし」……」

お客様の来店でトモコとの会話が途切れた。
「いらっしゃいませ」と声をかけ入り口を見ると、貴族のご令嬢がお忍びです!! と主張しているような女性が立っていたのだ。

噂をすればかぁ。とトモコが接客している所を眺める。


「いらっしゃいませ。昨日来ていただいたお嬢様ですよね」
「昨日の今日ですが、またうかがってしまいました。ワタクシどうしてもあちらのスカートが気になってしまって」
 
と楽しそうに会話をしている様子は、身分など関係のない普通の光景である。

「獣人族用のスカートですが、どうしても気になって……。やはり人族用はございませんの?」
「お嬢様は運がよろしゅうございますね。実は本日は縫製を担当している者が出勤しておりますので、在庫の確保も出来ておりますよ!」
「まぁ!! では人族用も用意が?」
「はい。ございます」

揉み手しながら接客するトモコ……それは一体何を参考にしたんだ。

「嬉しい!!」とテンションの上がるご令嬢と目が合った。

「もしかして、貴女が縫製担当の?」
「はい。お嬢様。ワタクシが縫製担当でございます」
ワタクシ、昨日初めてうかがわせていただいた時から、こちらのお洋服のファンですのよ! お会いできて嬉しいわ」
「ありがとうございます」

貴族仕様の笑顔と丁寧な言葉遣いで会話を交わした後、ご令嬢は気になっていたというスカートと、ブラウス等を買って帰っていった。

「貴族のご令嬢なのに話しやすくて感じの良い女性だったね」
「うん。ステータスを見たけど、特に問題なさそうだったし、常連になってくれたらいいな~」

等と、この時は穏やかな気持ちで閉店作業を始めたのだった。



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※オリバー: ロヴィンゴッドウェル家に仕える執事。元人族の神であったアーディンの最初の精霊。(番外編に登場)
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