435 / 587
ズボラライフ2 ~新章~
6.サプライズ!!
しおりを挟むルーベンスさんの奥さん達に、双子達の外出のお墨付きをもらったので、この世界で出来た友人達に紹介しようと張り切ってやって来たのは、そう。王宮である。
何しろ知り合いの大半はルマンド王国の王都か王宮にいるのだ。
外出なのに屋内の王宮かよと思った方、わかってほしい。
お腹と背中に双子を抱え、王宮の広く長い廊下を歩く。
夕飯の買い出しにスーパーへやって来たはずが、異世界の城にトリップ!? の構図が出来上がってしまったが気にしない。
今日はこの子達をリンやカルロさんにお披露目するのだ。
え? 約束?
そんなものするはずないだろう。これはドッキリサプライズなのだから。
突然双子を連れて行き、産まれましたイエーイ! というアレなのだ。
すれ違う侍女達にぎょっとされ、2度見されながらも足早にカルロさんの執務室へと向かう。
王宮に転移したものの、リンは騎士団にいるのだしと近い方から訪ねる事にしたのだ。
カルロさんの執務室をノックし、暫く待ったが中から返事はなく、やはり突然の訪問はダメだったか…と若干の後悔を滲ませながらそこから立ち去る。
「気を取り直して、リンの所に行こうね」
とお腹と背中の我が子に話し掛け、何が楽しいのかキャッキャと小さな声をあげて笑っている二人に笑みがもれた。
さすがにリンは騎士団の訓練所か、その周辺にいるだろうと向かえば、軍隊のような男性の号令なのか、掛け声なのか。騎士団の宿舎に程近いこの廊下にまで聞こえてきたのだ。訓練所は宿舎のさらに奥にあるのでここからは遠いというのに。しかし、リンの居る部隊かは分からないが、訓練所に人が居るという事は分かった。行ってみる価値はあるだろう。
子供達をあやしながら向かえば、すれ違う騎士達が侍女達と同じようにぎょっとして私と子供達を2度見するので、ここでも早足になってしまう。
やっと到着した訓練所では、幾人もの全く知らない騎士達が訓練用の刃を潰してある剣で打ち合いをしている所だった。
「あれ? お嬢さんもしかして……」
リンはいないかなぁと目を凝らして見ていると、突然声を掛けられたのだ。
「やっぱり!! 師団長のつがいの!!」
「え??」
誰だ? と声を掛けてきた人を見る。
頭髪が後退…ゴホゴホッ 薄く…ハゲ、ゴホンッ ……制服から騎士だとは判断できるが、それだけである。しかし相手は私の事を知っているようで、お久しぶりです! とにこやかに話してきたのだ。
「あ、どうも……こんにちは」
知らない人だが、それを素直に言い出せない。
それに気付いたのか、彼はハハッと笑い「覚えていませんか? あまり良い思い出ではないので無理はないかもしれませんが」と遠慮がちに自己紹介してくれたのだ。
「自分は、あの“ヤコウ鳥の事件”で精霊様を取り調べさせていただいた者です」
ヤコウ鳥の事件って、私が逮捕されて死刑宣告された…………、
「ああ!! あの時の頭髪が後退したお兄さん!!」
「……やっぱり覚えてるのは頭髪なんですね」
◇◇◇
「━━…師団長のお子様!? え!? 本当に精霊様が産んだ……!? えぇ!?」
頭髪後退のお兄さんに事情を話し、リンの所へ案内してもらっているところなのだが、双子達の話しになり、何故かものすごく驚かれているのだ。
「?? 正真正銘私が産んだ子達ですけど」
「いや、ですが精霊様はまだ子供…いえ、お若く見えるのですが!?」
今子供って言った?
そりゃこの世界の人からしてみれば、背が低いし、若返りの薬飲んだし、さらに日本人は凹凸か無い分童顔に見えるらしいから仕方ないのかもしれないが、一応さんじゅうピー才のおばさんなわけで、子供も産めますからね?
「も、申し訳ありません! 」
「いえ、背は低いですけど、成人してますんで」
「そ、そうでしたか……いやぁしかし師団長と精霊様に似た愛らしくも凛々しいお子様ですね。将来はお父様の後を継いで騎士ですかね~」
気まずそうに話題をそらすお兄さん。それにのってあげると、ホッとしたように微笑まれたので、道中は双子とロードの話で盛り上がったのだ。
◇◇◇
頭髪後退お兄さんこと、ガトーさん(という名前だったらしい)に先程の訓練所とは異なる訓練所に連れてこられたが、こちらの方が訓練に気合いが入っているようで、剣と剣の打ち合いの迫力がすごいのだ。
さっきの訓練所はザ・練習といったていで、こちらは本気の殺りあいのような、そんな気迫が感じられる。
何故か双子の片割れ、女の子のロビン(※子供の名付けに関しては番外編をご覧ください)がキャッキャとはしゃいでいるのが気になる。
「精霊様、リンを呼んで参りますので少々お待ち下さい」
ガトーさんはそう言い残しどこかへ行ってしまった。
見学するのに丁度良いベンチに腰を下ろし、背負っていたディークを下ろしてゆっくりとベンチに寝かせる。
ディークはキョトンとした顔で私を見ているので、頬をプニプニとつまんでやる。
赤ちゃんの頬っぺたは柔らかくて気持ち良いものだ。
「ディークは訓練には興味ないのかな?」
ロビンはさっきからキャッキャと喜んでいるが、ディークははしゃぐでもなくご機嫌ななめでもなく、あぶあぶとヨダレを垂らしている。
「ミヤビ!!!」
と、そこへリンが慌てた様子で駆けてきたのだ。
「あ、リン! 久しぶり。なんでそんなに慌ててるの?」
「ッそりゃあお前が、子供連れてきたって聞いて、……!?」
ベンチに転がしているディークを見て、驚愕の表情をしたリンは、「何やってんだ!?」とあわあわし始めた。
「ん? ずっと背負ってたから、下ろして様子を見てたの」
「御子様をそんな粗末なベンチに転がすなよ!?」
「え? ダメなの??」
「当たり前だろ!! お前、神王様の御子様を訓練所の汚いベンチに転がすなんてあり得ないだろ!?」
その汚いベンチに神王様も座ってるんですケド。説教までされてるんですケド。
22
お気に入りに追加
2,574
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる