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番外編

神王様の薬4

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謎のお兄さん視点


この国には強者が集まっている。まるで神々に導かれるかのように。

王城には言わずもがな、人類最強の名を欲しいままにするルマンド国四天王の一人、第3師団長のロード様。
その師団長様を支える第3師団の強者、副師団長のリン様。
この二人は群を抜く強さで、神にも一目置かれているとか。

第2師団長のカルロ様は穏やかで、四天王一のモテ男。ただ、顔が良いだけでなく王様の側近として護衛の仕事のみならず、政治でも手腕を発揮する頭脳。さらに魔法、剣の腕と万能タイプのパーフェクトヒューマンと呼ばれている。

第1師団長はレンメイ様。その頭脳はルマンドイチとも言われ、学者達ですら彼の頭の回転にはついていけないのだとか。彼も四天王の一人だ。

冒険者ではSSランクの“焔の鳥”。そして伝説のSSランク冒険者もルマンド王国、王都のギルドに籍を置いているらしい。



18年前、白髪と不自然な程に白い肌、という異形で生まれた俺には親というものがいなかった。

不思議な事に、10年間どう生きてきたかの記憶は一切ないが、8年前運良くルマンド王国の王都で、宿屋を営む夫婦に拾われてここまで育ててもらった。
そんな義父母に恩返しすべく冒険者となった俺は、憧れの“焔の鳥”を目標に掲げ、深淵の森へとやって来たんだ。
勿論腕に覚えもある。

しかし、深淵の森に住む動物達は決して甘くはなかった。

魔物ではなく動物という事で油断していた事もあったが、それでもこの森の動物は手強かった。

腹に深手を負い、生死の境をさ迷ったのだ。

そこで出会ったのが、夢物語にでてくる奇跡のような薬を持つ子供だった。

その薬は子供の母親が趣味で作ったのだとか。

そんな嘘みたいな話を聞きながら、もしかして子供は精霊様なのだろうかと考える。
しかし、その考えも即否定された。

奇跡の薬で助かった俺は、深淵の森に住んでいるという仰天の発言をした子供と共に、ヤコウ鳥の巣へと向うことになる。
どうしてこうなったのか俺にもよくわからない。

子供を危険な目に合わせるわけにはいかないと、何度もついてくるなと注意したのに、全く話を聞かないこの子供は、「うるさい」だの、「わたしがいないと森をさ迷うことになるわよ!」だのと生意気な事を言うのだ。

先頭きって走っていく子供を追いかけていれば、いつの間にかヤコウ鳥の巣にやって来ていたらしい。




強風で土埃が舞い上がり、目が開けていられない。
けれど子供を守らなければと咄嗟に子供の前へ出る。

すると突然、風がピタリと止んだのだ。


━━…その瞬間。

「ゲギャアァァァア!!!!!!!!」

けたたましい咆哮が耳を震わせる。



視界が晴れた俺の目の前に居たのは…………
美しい羽をこれでもかと広げ、威嚇している巨大な鳥の姿であった。



こめかみを汗が伝い、地面に落ちて染みていく。

こんな魔物、一人で勝てるわけがない。

対峙して初めて気付いた事実に、血の気が引いた。

しかも俺の後ろにはまだ幼い子供がいるのだ。巻き込んでしまったこの子供だけは、なんとしてでも守らなければならない。

「…おい、」

掠れた声が出た。

「なぁに?」

俺とは違い、子供に緊張は見られない。
図太いガキだ。
でもこれなら、俺を囮にすればコイツだけでも逃がせるかもしれない。

「俺が囮になっている間に逃げろ」
「え? なんで?? せっかくヤコウ鳥が出てきたのに」

危機感の欠片もない子供は、威嚇で声をあらげるヤコウ鳥を前にしても、逃げる様子が見受けられない。

一体どういう神経をしているんだ。

「ッここまで案内してもらって悪いが、今の俺じゃああんなヤベェ奴相手にできない…」

だから、俺が囮になっている間に逃げろと包み隠さず伝える。こうでも言わないと、この図太く生意気なガキは逃げようとはしないだろう。

「? やっぱり怪我が治ってないの? 」
「は? 何を……ッ」

マズイ!!
ヤコウ鳥が攻撃を仕掛けてきた!!

コイツらは自らの羽根を鋼のように固くし、何十本もを一気にとばしてくるのだ。
つまり、鋼の刃が何十と降ってくると思ってほしい。


避けきれない!!

俺は咄嗟にガキに覆い被さる。

折角怪我が治ったと思ったのに、すぐにお陀仏かよ……。

背中に刺さる羽根の痛みに意識が朦朧となりながら、ガキをどう逃がせばいいのか考える。

コイツだけでも守らないと…ッ

けれど、ガキを抱き締めたまま俺の意識は遠ざかっていく。

ダメだ…。もし俺が死んだらこのガキは……それに、俺の夢も潰えちまう……


「っく、そ……ついてねー……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ロビン視点


「ちょ、何するのよ!?」

いきなり押し倒されて抱き締められたものだからビックリしたじゃない!
しかも体重をかけてくるから重いのよ。

「もう! 折角ヤコウ鳥が出てきたのに逃げちゃうじゃな、い……」

お兄さんの身体を押し上げて立ち上がると、お兄さんの身体は抵抗もなく、ドサリと音をたてて地面に倒れたの。

「お兄さ、ん…」

お兄さんの背中には、ヤコウ鳥の羽根が沢山突き刺さっていて、服が真っ赤に染まっていた。

「…ねぇ、何寝てるの…? 起きてよ……」

揺さぶってもお兄さんは目を開けないの。

「なんで……?」


…………なんで、息をしていないの?


「ま、ママのお薬……っ」

だめ…。もう、リュックの中には入って無いわ。さっき使っちゃったもの。

「ど、どうしよう…」
「ゲギャアァァァァァ!!!!」

一生懸命考えてるのに、ヤコウ鳥がうるさくて集中できない。

「ゲ、ギャ……」

足元にあった石を投げて黙らせると、わたしはお兄さんに向き直ったの。



ピクリ……

お兄さんの指が微かに動いた。

良かった。生きてる!!

「もう!! 息を止めてわたしをからかってたのね!!」

なんて悪趣味な遊びかしら!! 本当に死んじゃったって思ったじゃない!!

お兄さんを睨むと。急に立ち上がって……

「…………やっとこの“器”に入れたぜ」

首を左右に傾けボキボキ音を鳴らすと、「っテェなあ」と眉間にシワを寄せて背中を手で触って確認し始めたの。
そして舌打ちすると、

「消えろ」

なんの感情のこもっていない声を発すると、まるで何もなかったかのように、何十もの背中に刺さった羽根が消えたのよ。

「え……何? どうやったの??」
「あ? ……誰だ、テメェ」



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