427 / 587
番外編
神王様の薬4
しおりを挟む謎のお兄さん視点
この国には強者が集まっている。まるで神々に導かれるかのように。
王城には言わずもがな、人類最強の名を欲しいままにするルマンド国四天王の一人、第3師団長のロード様。
その師団長様を支える第3師団の強者、副師団長のリン様。
この二人は群を抜く強さで、神にも一目置かれているとか。
第2師団長のカルロ様は穏やかで、四天王一のモテ男。ただ、顔が良いだけでなく王様の側近として護衛の仕事のみならず、政治でも手腕を発揮する頭脳。さらに魔法、剣の腕と万能タイプのパーフェクトヒューマンと呼ばれている。
第1師団長はレンメイ様。その頭脳はルマンド一とも言われ、学者達ですら彼の頭の回転にはついていけないのだとか。彼も四天王の一人だ。
冒険者ではSSランクの“焔の鳥”。そして伝説のSSランク冒険者もルマンド王国、王都のギルドに籍を置いているらしい。
18年前、白髪と不自然な程に白い肌、という異形で生まれた俺には親というものがいなかった。
不思議な事に、10年間どう生きてきたかの記憶は一切ないが、8年前運良くルマンド王国の王都で、宿屋を営む夫婦に拾われてここまで育ててもらった。
そんな義父母に恩返しすべく冒険者となった俺は、憧れの“焔の鳥”を目標に掲げ、深淵の森へとやって来たんだ。
勿論腕に覚えもある。
しかし、深淵の森に住む動物達は決して甘くはなかった。
魔物ではなく動物という事で油断していた事もあったが、それでもこの森の動物は手強かった。
腹に深手を負い、生死の境をさ迷ったのだ。
そこで出会ったのが、夢物語にでてくる奇跡のような薬を持つ子供だった。
その薬は子供の母親が趣味で作ったのだとか。
そんな嘘みたいな話を聞きながら、もしかして子供は精霊様なのだろうかと考える。
しかし、その考えも即否定された。
奇跡の薬で助かった俺は、深淵の森に住んでいるという仰天の発言をした子供と共に、ヤコウ鳥の巣へと向うことになる。
どうしてこうなったのか俺にもよくわからない。
子供を危険な目に合わせるわけにはいかないと、何度もついてくるなと注意したのに、全く話を聞かないこの子供は、「うるさい」だの、「わたしがいないと森をさ迷うことになるわよ!」だのと生意気な事を言うのだ。
先頭きって走っていく子供を追いかけていれば、いつの間にかヤコウ鳥の巣にやって来ていたらしい。
強風で土埃が舞い上がり、目が開けていられない。
けれど子供を守らなければと咄嗟に子供の前へ出る。
すると突然、風がピタリと止んだのだ。
━━…その瞬間。
「ゲギャアァァァア!!!!!!!!」
けたたましい咆哮が耳を震わせる。
視界が晴れた俺の目の前に居たのは…………
美しい羽をこれでもかと広げ、威嚇している巨大な鳥の姿であった。
こめかみを汗が伝い、地面に落ちて染みていく。
こんな魔物、一人で勝てるわけがない。
対峙して初めて気付いた事実に、血の気が引いた。
しかも俺の後ろにはまだ幼い子供がいるのだ。巻き込んでしまったこの子供だけは、なんとしてでも守らなければならない。
「…おい、」
掠れた声が出た。
「なぁに?」
俺とは違い、子供に緊張は見られない。
図太いガキだ。
でもこれなら、俺を囮にすればコイツだけでも逃がせるかもしれない。
「俺が囮になっている間に逃げろ」
「え? なんで?? せっかくヤコウ鳥が出てきたのに」
危機感の欠片もない子供は、威嚇で声をあらげるヤコウ鳥を前にしても、逃げる様子が見受けられない。
一体どういう神経をしているんだ。
「ッここまで案内してもらって悪いが、今の俺じゃああんなヤベェ奴相手にできない…」
だから、俺が囮になっている間に逃げろと包み隠さず伝える。こうでも言わないと、この図太く生意気なガキは逃げようとはしないだろう。
「? やっぱり怪我が治ってないの? 」
「は? 何を……ッ」
マズイ!!
ヤコウ鳥が攻撃を仕掛けてきた!!
コイツらは自らの羽根を鋼のように固くし、何十本もを一気にとばしてくるのだ。
つまり、鋼の刃が何十と降ってくると思ってほしい。
避けきれない!!
俺は咄嗟にガキに覆い被さる。
折角怪我が治ったと思ったのに、すぐにお陀仏かよ……。
背中に刺さる羽根の痛みに意識が朦朧となりながら、ガキをどう逃がせばいいのか考える。
コイツだけでも守らないと…ッ
けれど、ガキを抱き締めたまま俺の意識は遠ざかっていく。
ダメだ…。もし俺が死んだらこのガキは……それに、俺の夢も潰えちまう……
「っく、そ……ついてねー……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ロビン視点
「ちょ、何するのよ!?」
いきなり押し倒されて抱き締められたものだからビックリしたじゃない!
しかも体重をかけてくるから重いのよ。
「もう! 折角ヤコウ鳥が出てきたのに逃げちゃうじゃな、い……」
お兄さんの身体を押し上げて立ち上がると、お兄さんの身体は抵抗もなく、ドサリと音をたてて地面に倒れたの。
「お兄さ、ん…」
お兄さんの背中には、ヤコウ鳥の羽根が沢山突き刺さっていて、服が真っ赤に染まっていた。
「…ねぇ、何寝てるの…? 起きてよ……」
揺さぶってもお兄さんは目を開けないの。
「なんで……?」
…………なんで、息をしていないの?
「ま、ママのお薬……っ」
だめ…。もう、リュックの中には入って無いわ。さっき使っちゃったもの。
「ど、どうしよう…」
「ゲギャアァァァァァ!!!!」
一生懸命考えてるのに、ヤコウ鳥がうるさくて集中できない。
「ゲ、ギャ……」
足元にあった石を投げて黙らせると、わたしはお兄さんに向き直ったの。
ピクリ……
お兄さんの指が微かに動いた。
良かった。生きてる!!
「もう!! 息を止めてわたしをからかってたのね!!」
なんて悪趣味な遊びかしら!! 本当に死んじゃったって思ったじゃない!!
お兄さんを睨むと。急に立ち上がって……
「…………やっとこの“器”に入れたぜ」
首を左右に傾けボキボキ音を鳴らすと、「っテェなあ」と眉間にシワを寄せて背中を手で触って確認し始めたの。
そして舌打ちすると、
「消えろ」
なんの感情のこもっていない声を発すると、まるで何もなかったかのように、何十もの背中に刺さった羽根が消えたのよ。
「え……何? どうやったの??」
「あ? ……誰だ、テメェ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数日前から小説家になろうでも、ズボラを掲載しております。
ほんの少し修正して、加筆しておりますので、気になる方はよかったらご覧になって下さい。
11
お気に入りに追加
2,516
あなたにおすすめの小説
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる