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番外編

ディーク10歳。鬼人族に遭遇する3

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「過酷な環境?」

家族皆が揃って首を傾げた。
何故なら、この森には沢山の木の実や果物が豊富に成っているからだ。

現にオレがさっき父さんに連れられて歩いてきた獣道にも、途中、途中で様々な果物や木の実を見つけた。
勿論食べられるもので間違いない。

なのにこの鬼人は腹を空かせていて、と言ったのだ。

「アナタのすぐそばにも木の実が成っているし、ここにも食べられる植物が生えているわ。それなのに過酷って、一体どういう事なの?」

家族を代表してロビンがそう問いかければ、鬼人は首を横に振って口を開いたんだ。

「我等鬼人族は、肉を好んで食すのです。果物や野菜、木の実なども多少ならば大丈夫ですが、腹一杯に食おうものなら体調を崩してしまう…」

その言葉に、眉間にシワを寄せた母さんが声を上げた。

「こんなに水も綺麗で食べ物も豊富にある森に動物がいないわけないでしょ? それに、肉なら“幻の豚”がいるはずだよね?」

このブートキャンプ一番の目的である、“幻の豚”を話題上げた母さんは、今のところまともなことを言っていると思う。

「幻の…? ブタ……いえ、“ブタ”は肉ではなく植物の一種ですが…?」

戸惑う声が返ってきて母さんは目を見開いた。

「植物…!? “幻の豚”が植物!?」
「はい。ブタというのは、緑色の棘がある葉を繁らせた植物で、その葉は薬にもなりますし、勿論食べる事もできます」
「緑の棘がある葉っぱ…」

殺菌作用や沈痛効果があるため、火傷をした時に肌にぬっても良いですし、食べれば整腸作用があると人々には言われているようです。と鬼人は説明してくれてるいるが、母さんは「それアロエじゃん!!」とつっこんでいる。
アロエなら確かウチの庭にも生えているから、幻じゃないと思う。

「この森に肉…いえ、動物がいないのは、その“ブタ”が原因なのです」

鬼人は難しい顔をして語りだしたんだ。

「“ブタ”は聖雷の泉の水でしか育ちません。幻と言われるのはそれが所以です」

ならウチの庭のアロエとはやっぱり違うものなのだろう。
そりゃそうだよ。聖雷とか言われる聖なる森とウチの森を一緒にしたらダメだって。

「その“ブタ”が、小動物や虫が嫌う匂いを発している為にそれらはこの森に居着く事もなく、その小動物や虫を食べる大型の動物も必然的にいないというわけです」
「虫や動物がいないのに、森が存在する…ねぇ」

母さんは鬼人と同じように難しい顔で周りを見渡した。

「はい。この場所は、我等の“神様”のお力の一端が宿っておりますゆえ…」

チラリと父さんを見た鬼人に、母さんが慌てて「そそそ、そうなんだぁ。その神様は虫が嫌いなのかなぁ!?」とよくわからない事を言っていた。父さんなんて、「ミヤビは虫が駄目だしな」とさらに理解不能な事を言う。
まるで父さんがこの森を作ったみたいな言い方にため息が出る。

「鬼人族の神様なら、環境に合った森にしてくれそうなのにね」

ボソリ呟くと、鬼人は目を見開きオレを見てきたんだ。

自分たちの神とか言いながら、実は違う神を間違って主だと思ってるんじゃないかな。なんて考えていたのがバレたのか、「我等を鍛える為の試練だと考えております」などと返されて、そうなんだ…としか答えられなかった。

「えー…と、他の鬼人たちはどうしたの?」

気まずかったので話を変えて、他の人達の事を聞けば、この森にはもう居ないというのだ。

さっき試練とか言ってなかった?

「聖なる森で飢え死にするわけにもいかず、私以外の鬼人は森の外へと移住致しました」

この鬼人は独り、守り人としてこの泉や森を守っているのだとか。食事はたまに森の外に出てウチの森で狩りをしていくとか。で、なんでお腹を鳴らしていたのかというと、ただ単にまだ昼御飯を食べてなかったからなんだってさ。

「なぁんだ。もっと深刻な問題があるのかと思った」

だってマンガとかでは、ここから話が広がっていくだろ。だから、もっとこう…お助け~!! みたいな展開になるかと思ってたんだよ。

「こらっ人の不幸を面白がるんじゃないの!」

母さんに怒られたが、まぁいい。鬼人のおっさんは外見は怖いけど良い人だし、肉弁当を与えたら、作った父さんはこの鬼人にとって神扱い。しかも子供のオレ達も神の子供だって丁寧に接してくれるようになったしね。

母さんなんて、虫がいないって聞いて大喜びだよ。
この森に別荘作ろうなんて言い出してさ。

鬼人のおっさんにいいの? って聞いたら、「我が神の伴侶様の仰る事ですから勿論大歓迎です」ってさ。いやいや、守人。ちゃんと森を守れよな。




結局、母さんの楽しみにしていた“幻の豚”は、アロエに似たすごい植物だったけど、鬼人(おっさん)の友達が出来たからまぁいっか。



◇◇◇



「でもこの“ブタ”、やっぱりウチのアロエとそっくりなんだよな~…」

聖雷の森から採ってきた“ブタ”を、自分の部屋で眺めながら考えるのは、ウチの庭に生えているアロエの事だ。
見れば見るほどそっくりなアロエと“ブタ”に、一度物知りのルーベンスじい様に聞きに行くかな。なんて思いながら“ブタ”を亜空間にしまいベッドに寝転んだ。

「あー今日は疲れたな~…何かショボい終わり方だったし。もっと衝撃の事実が!! とかないのかなぁ~」

ま、ウチは平凡だからそんな事あるわけないか。

もぞもぞと布団の中で動きながら呟く。

「ゲームやマンガみたいに、異世界で冒険したりとかなんて、現実ではあるわけないよな~」

そんな事を思いながら、今日も10秒後にはしっかり眠りにつくのだった。
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