異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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第五章

陣痛

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「ぅおおおお!! ふぁ、ファイトォォ!! いっぱーーーッ、あ゛ーーーぃた、痛い!! ファイト一発しても痛いものは痛いーー!!」

リビングで痛みにもがき、もんどりうつ私。
残念ながら誰も帰ってくる気配なし。

この痛みって、陣痛ってやつ? いや、まだ8ヶ月ですけど!? 出産は“とつきとおか”って言うじゃないか!! まさか早産!?

どうしよう…と痛むお腹を押さえて蒼白になる。
出産経験が皆無の私は不安しかないのだ。

こうなったら…ッ

ラグマットの上でゴロゴロしていたが、決意した。
助けを求めよう!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ルーベンス視点


集中して書類を捌く。この作業をはじめて9時間…そろそろ終わろうかと、眉間の辺りを摘まんでマッサージしていると、

「イタタタターーーー!!」

静かな執務室に、突然奇声が上がったのだ。

「なんなのだね、一体…」

どうせミヤビ殿が転移してきたのだろうと見れば、やはり想像通りで、しかし、床に転がったまま起き上がろうとしないのだ。

「ミヤビ殿…?」
「ぃた…ッ うぅ…お腹、痛いです…っ」

それを聞いた私は驚き、すぐさま駆け寄った。

ふくれた腹を触ると、かなり張っているようだった。

「いつから痛みがあるのかね」
「ぅ……さっきから…っ」
「ふむ…陣痛ならばいずれ痛みが引くだろうが…すぐに医師と第3師団長を呼ぶ。待っていなさい」

ミヤビ殿をソファに運び、外に居る者に声を掛ける。

「出産には早いだろうが、神王ともなると人間とは違うのかもしれんしな…」
「ぅ~~ッ」

額に浮かぶ玉のような汗をハンカチで拭ってやっていると、少し痛みが落ち着いてきたのか、きつく閉じていた瞳を薄く開いたのが見えた。

「痛みが引いたかね?」

私の言葉に頷くミヤビ殿は、少し楽になったのか身体を起こして、「突然すみませんでした。家に誰も居なくて…急に痛みだしたからびっくりして…」と謝るので、家に誰も居ないとはどういう事だとこちらが驚いたのだ。

「ミヤビ殿、神王様である貴女のそばに、使用人が誰も居ないとはどういう事だね」
「え?」
「いくらつがいの本能で他を寄せ付けたくはないといっても、留守にするならば使用人を置いておくのが常識。まして君は妊娠しているのだ」
「あ、いや~…」

いつもはトモコやショコラが家に居るのだと言うが、彼女らは友人で使用人ではないだろうと言えば、頷いて、使用人…? と首を傾げるので呆れた。
もしかしたら本当に世話人が居ないのだろうか…?

「ミヤビ!!!!」

バチバチと雷のような音と光を散らし、またも突然私の部屋に転移してきた者が……。

「第3師団長、君はノックをして扉から入ってくる事は出来んのかね」
「るせぇ!! それよりミヤビは!?」
「今は痛みも治まっている。陣痛だろう」
「陣…!? ミヤビ!! 大丈夫か!? 産まれるのか!? ど、どうすりゃ…っ そうだっ医者!! すぐ医者に連れてってやるからな!!」

ミヤビ殿の姿を見つけ、駆け寄った第3師団長は目に見えて狼狽えている。

「初めての出産でパニックになる気持ちは分からんでもないが、医師はもうここに呼んであるので向かう必要はない。それよりも、神王様の出産は人間と同じように考えても良いのかね?」

それに、妊婦を家に一人にするとはどういう事だと募れば、師団長は慌てて神獣様の名前を叫び出したのだ。

「ヴェリウス!!!! すぐルーテル宰相の執務室に来てくれ!! ガキが産まれそうなんだ!!」

刹那、私の執務室の温度が急に下がり、美しい氷の結晶が舞ったかと思うと、

『ミヤビ様!! 御子が産まれそうとは誠ですか!?』

また増えた…。

「ルーベンスさんは陣痛だって…」

不安そうに私を見るミヤビ殿は、第3師団長の腕の中に大切そうに閉じ込められている。

『ルーベンスよ、誠か!?』
「医師に診せてはおりませんので断言は出来ませんが」
『ふむ…昼に診た時は多少活発化していたが、問題はなかったはず…』

神獣様が唸っているが、どうやら自らミヤビ殿の診察をしているらしい。

『ミヤビ様、失礼致します』

前足をミヤビ殿の腹の上に置くと、その前足が青白く光る。

魔力…いや、神力を流して腹の中を診ているのか…。

『ふむ…確かに御子が今にも出てきそうな程御子の神力が活性化されております…』
「じゃあ、あの痛みは陣痛? でも陣痛って破水してからくるものじゃ…??」

やはり出産間近のようだ。
ミヤビ殿は初めての出産に戸惑いが隠せないようだが、しかし、神獣様も初めてなのだろう。一見冷静そうに見えるが、戸惑いが見え隠れしている。

「ミヤビ殿、陣痛や破水の順番は人それぞれなのだよ」
「へぇ、さすがルーベンスさん!!」

痛みが引き、余裕が出たのだろう。いつもの笑顔を見せてくる。

「神獣様。神王様の御出産は人間と同じ方法なのですか? それとも…」
『…ミヤビ様の“器”自体は人の構造と変わりはないが、魂は神王様のそれである。正直こんな事は初めてなのでな……わからぬのだ。
しかし、神の出産も人と変わりないが、出産する時は神域からは出る事はない』
「…出産時は力が弱まるから危険という事でしょうか?」
『神の場合はな。ミヤビ様にそれが当てはまるとは思えぬが…』

どうやら手探り状態のようだ。
どう考えても私の執務室から移動した方が良い気がするのだが。

「神王様の神域に助産師はいらっしゃるのですか?」

ミヤビ殿には世話人すらいないような状態だと推測される。もしや助産師など居ないのではないかと確認すれば、神獣様は居ると答えられた。
それならば何故…?

「ミヤビ殿、何故助産師の所へ行かず、私の執務室に来たのだね」
「え? 助産師?? だって私の知り合いではルーベンスさんが一番出産の知識があるし、頼りになるから」
「待て。君はもしかして君専用の助産師が居る事を知らなかったのか」

ミヤビ殿の反応に、まさか…と聞けば、そのまさかのようだった。

「第3師団長! 妊婦に世話人を付けないどころか、助産師の存在も知らせんとはッ 君はつがいを殺す気でいるのか!?」
「はぁ!? んなわけあるか!! ミヤビの世話は俺が居ない時はヴェリウス、トモコ、ショコラが見ている!! 助産師は出産まで必要ねぇんだから、ミヤビにどこにいるか言う必要はねぇだろ」
「必要ないわけがないだろう!! 助産師は、妊婦に出産の知識を与えたり、悩みの相談を受けたりしてくれる存在でもあるのだ!! 出産間近のミヤビ殿の知識がここまで乏しいなど有り得ぬ事だぞ!!」

妊娠、出産に関する知識が無い状態は、どれ程不安だっただろうか。その不安がお腹の子供や母体を危険にさらす事もあるのだと第3師団長を叱れば、彼は意気消沈し、蒼白になっていた。

「とにかく、すぐにその助産師の元へ」
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