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第五章
閑話 ~ 結婚の挨拶7 ~
しおりを挟む「ほぅ…ミヤビ様がご自身を精霊様と謀ったと」
成る程。と頷くお義父さんに侍女は益々笑みを深くした。
しかし、その勝ち誇った笑みは義父の次の一言で崩壊することになる。
「で、それがどうした」
「な!?」
思ってもみなかったというように彼女は表情を崩し、何を言われたのか分からないといったていで口をパクパクさせている。
「どうした…って、自分を精霊だと偽っているのですよ!? 大罪ではないですか!!!!」
「確かに嘘はいかんな」
お義父さんはチラリとこちらを見てすぐ、侍女にもう一度「で?」と問うた。
「アイツらは犯罪者なのよ?! で? ってどういう事よ!?」
遂に義父にまで口調が崩れてしまった侍女に、ヴィヴィアンさんは眉をしかめ、お義母さんは扇で口元を覆って蔑むように見据える。
刹那、ロヴィンゴッドウェル家の人々が瞠目し、何て事…っ とお義母さんが息を飲む。
「…どうやら、“犯罪者”はお前のようだ」
お義父さんが顔をゆがめ、不快感を露にした声で言い放った。
「はぁぁ!!? どうして私が犯罪者なのよ!! おかしいんじゃないの!?」
侍女は、ねぇ、アンタ達も何とか言いなさいよ!! 私に賛同してたでしょ!! と仲間の使用人の方へ助けを求め振り向いた途端、目を見開いた。
「う、嘘でしょう!? アンタ達背信者だったの!!!」
叫び声を上げる侍女に、同じような顔をした使用人達が声を荒げる。
「は、“背信者”なのはお前だろう!!? まさかお前、俺たちを騙してたのか!!」
「キャアァァ!! “背信者”が私の周りにいたなんて!!」
「まさかッ 私は教会の事件とは一切関わりなんてないわよ!!」
使用人達は互いを見て悲鳴を上げ、パニックになっている。
なんという事だろうか。
使用人達の顔には、くっきり“背信者”の文字が浮き出ていたのだ。
「ぅええ!? ろ、ロード、あれ、ええ!?」
まさかの事態に動揺していると、そりゃそうだろ。とロードは当然のように言って一歩前へ出た。そして、
何で!? どうして!? と悲鳴を上げている使用人達に、静かに語りだしたのである。
「…コイツは、確かにお前らの言う通り精霊じゃねぇ」
聞いているのか聞いていないのか、使用人は大パニックで騒いでいる。
しかしその中で先程の侍女が、「ほらっやっぱり嘘なんじゃない!!」と糾弾してきた。
「それはテメェらみてぇなバカ共が、コイツを利用しようと群がってくるかもしれねぇから吐いた嘘だ」
「な、何よそれっ どういう事よ…」
ロードの迫力に圧倒されながらも負けじと応戦する侍女の根性が凄い。
「テメェらの顔に答えは出てんだろ」
「は…?」
侍女は自身の顔に手をやり、ペタペタ触っている。
この場にいる者で、“背信者”の文字が浮かんでいないのは、ロヴィンゴッドウェル家族と、ヴィヴィアンさんにオリバーさん、そして料理人の2人である。
彼らはまさか…と私を見ているが、背信者の文字がある者はパニックになっていて聞いていないか、侍女のように理解していないか、だった。
「テメェらが嘘つきだと罵り、犯罪者扱いしたコイツは正真正銘“神様”だよ」
その瞬間、先程よりも大きな悲鳴が上がった。
「イヤァァァァァ!!!」「ち、違う!! 俺は騙されたんだ!!」「まさか…っ そんな…」等と喚きだす使用人達がまるで得体の知れないもののようで、鳥肌がたった。
「嘘よォ!! また嘘を吐いているんだわ!!」
ロードの言葉を信じられない侍女は金切り声を上げてまくしたてる。
「テメェらの顔に出ている文字が証拠だって言ってんだろうが。それは、“神を排除しようと行動した者に出る証”だ」
「そんなのおかしいわよ!! なら、どうして奥様には出てないの!? 奥様は私と旦那様に報告に行ったのよッ 文字が出ないなんておかしいじゃない!!」
どうせこれはアンタ達の悪戯なんでしょ!! とお義姉さんを巻き込もうとする侍女に、我慢ならなかったのはお義兄さんだった。
「バカな!! アリアナがお前のように愚かな事など考えるわけがないだろう!!」
ミヤビ様を追い出すだと!? 何とあさましい。
アリアナはお前と違い、ミヤビ様が罰せられるかもしれんと私に助けを求めてきたのだ!! お前と一緒にするな!!
そう怒鳴るお義兄さんに怯む侍女。
だって…ッ 違う! と悔しそうに唇を噛み、お義兄さん夫婦に鋭い視線を向けている。
お義兄さんの話を聞いていると、お義姉さんは昨夜盗み聞きをした侍女に私が嘘を吐いていると報告され、その嘘が公になれば私が国に罰せられるかもしれないと大層心を痛められたそうなのだ。
急いでお義兄さんに助けを求めに行き、侍女が盗み聞きの件を同じようにお義兄さんに報告し終えると、その場で口止めをしてから退出してもらい、2人で私を助ける方法を考えていたらしい。
もしかしたらロードとの身分差を気にしてそんな嘘を吐いているのでは。などと色々考えて、きっと私が嘘を吐いているのではなく、周りが勝手に勘違いしたのだという結論に達したそうだ。ならばそれを理由に陛下に奏上すれば助けられるのではないかとまで考えていたらしい。
その前に真相をロードに確認しようと思っていたそうだが、タイミングがはかれず、このような騒ぎが起きたのだとか。
それでさっき何か言いたそうにしていたのかと納得した。
しかし、元弟のつがいといえど、己を精霊と嘘を吐いた者を何とか救おうとするこの夫婦…どんだけ人がいいのか…。何だか申し訳なく感じる。
それにもかかわらず、
「ミヤビ様…申し訳ありませんっ 私が侍女達の前で話を聞いたばかりにこのような事になってしまって…ッ」
全て私の責任ですわ。とお義姉さんは泣きながら私に謝ってくるのだ。
いやいや、お義姉さんがどこで話そうと結局あの侍女が話を広めたと思うし、むしろ私を助けようとしてくれたのだから謝る必要はないのでは…と戸惑いながら対応しているのだが、助けを求め視線をさ迷わせても、ロードも義父母も使用人への対応に手一杯で助けてくれそうにない。
「嘘よっ こんなの間違ってる!! 私はこの家を救おうとしたのよ!? それなのにどうして責められるの!? どうして私が背信者なのよォ!!」
その顔を真っ赤になっても擦り続けながら、どうして…っと叫ぶ侍女に、義父が言い放ったのだ。
「私はお前達に伝えたはずだ。大切な客人が来るのだと。
それを主の許しもなく勝手に追い出そうとするなど、言語道断!!! 貴様らは一体何様のつもりだ!!!」
その日、特大の雷(怒り)が使用人達に落ちたのだった。
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