395 / 587
第五章
閑話 ~ 結婚の挨拶3 ~
しおりを挟む「精霊……」
そうか、先程の違和感はだからか。と納得する。
人族の時には分からなくても、鬼神になったからかステータスを見なくても人間とそれ以外の違いは多少分かるようになっていたのだ。
「うまく擬態していたから分かりにくかったかもしれないけど…」
ステータスを見たのだろう。間違いないと言い切るミヤビを抱き寄せる。
「だから警戒してたのか」
「…ごめん。ロードの信用してる人なんだろうけど…私を精霊だと聞いているだろうに、あの人はどうして嘘を吐いたのか気になって」
「何も謝るこたぁねぇだろ。しっかし、オリバーが精霊だったとはなぁ…」
考察しながら、腕の中にいるミヤビを不安にさせねぇよう顔中にキスすれば、くすぐったそうに身をよじるのであまりの可愛さにオリバーが精霊という事がどうでもよくなってきた。
「ローディー!! 待たせたなっ」
バンッと扉を開け入ってきた義兄にうんざりする。
ノックぐらいしろ。そして“ローディー”は止めろ。今は俺達しか居ねぇだろ。
「お前に会いたがっていた者を連れて来たぞっ」
会いたがってた奴だぁ?
「スレイダ様。部屋にノックも無しに入るなどお行儀が悪ぅございますよ」
この声は…
「当主の無作法をお許し下さい。ロード様、精霊様」
義兄の後ろから入ってきたのは、
「ヴィヴィアンか!!」
俺の教育係兼世話係だった侍女のヴィヴィアン。当時40才を過ぎていた人族の女性だった。
「お久しぶりでございます。ロード坊っちゃま」
「おいおい。坊っちゃまは止めろ。しっかしまぁババアになっちまって」
そりゃそうか。家を出てから20年帰ってなかったしなぁ…。親父やお袋はたまに王宮に来ていたが、ヴィヴィアンは伯爵領から出るこたぁなかったから顔を合わせる機会もなかったしな。
「ババア…ですか? ロード様はいつからそのような愚かしい言葉を吐くようになったのでしょうか」
大仰にため息を吐くと、ババアとは思えない鋭い目で俺を睨み、低い声で
「再教育が必要でございますね」
と言うもんだから、変な汗が背中を伝った。
「あ、いや、そうだ!! コイツが俺のつがいのミヤビな!!」
「おい!? 今完全に話をそらせる為に私を紹介したでしょ!?」
悪ぃなミヤビ。つがいを助けると思って目眩ましになってくれ!! ヴィヴィアンは怒らせると恐ぇんだ!!
目で合図を送れば、ミヤビは胡乱な目で俺を見た後、仕方ないという諦めの表情をして俺の腕の中から抜け出したのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミヤビ視点
「初めまして。ご挨拶が遅れ申し訳ありません。ミヤビと申します。宜しくお願い致します」
カーテシーなど出来ないのでお辞儀をすると、ロードのお義兄さんも上品な老女のメイドさんも目を丸くして私を見ていたのだ。
失敗したか? と気まずくなっていると、老女のメイドさんが「まぁまぁ」と瞳を輝かせ始め、お義兄さんは慌てて背筋を伸ばし、
「改めまして、私はこの家の当主でスレイダ・オドス・ロヴィンゴッドウェルと申します」
と自己紹介を始めたのだ。
「私はロヴィンゴッドウェル家の侍女頭を担っております。ヴィヴィアンでございます」
老女のメイドさんからは美しいカーテシーを返されいたたまれない。
「まさか愚弟のつがいが精霊様だとは想像もしておりませんでしたが、いやはや、思いもよらぬ事もあるもんだ」
と豪快に笑い出すお義兄さんにビクッとする。
血が繋がっていないと聞いたが、お義兄さんもロード位に大きいし、筋肉もムキムキだ。ロードみたいに無精髭は生やしていないが、見るからに脳筋…。
「うるせぇ愚兄。デケェ声で急に笑い出すんじゃねぇよ。ミヤビが怖がってんだろ」
またしてもロードに抱き込まれ、恥ずかしさに下を向く。
「ミヤビは身籠ってるから吃驚させんなって言っただろ」
「すまん、すまん! しかしあのローディーにつがいがなぁ!! しかも子供まで…っ」
「だーかーら! ローディーは止めろ!! 後余計な事言ったらぶっ殺す」
やっぱり家族の前だとロードが少し幼く見えるなぁと観察していると、
「ご懐妊されております女性を、兄弟喧嘩でお待たせすべきではございません。さぁさミヤビ様、お部屋の準備は出来ておりますのでこちらに」
老女のメイドさんに声を掛けられ首を傾げる。
「お部屋の準備…??」
確か日帰りだってロードからは聞いてたんだけど…。
「ヴィヴィアン、俺らは親父達に会ったらすぐ帰るから部屋はいい「何を仰っておいでですか!! 身重の女性を休ませもせずに帰るなどとんでもございません!! 殿方と違い、女性は繊細なのですよ!!」」
眦を決してロードを怒鳴る老女のメイドさんは確かに迫力がある。ロードが怖がるのも無理はないだろう。
「いや、でもな…」
「でももへったくれもありません!!」
「う…っ」
完全にロードが気圧されている。そして老女のメイドさん…ヴィヴィアンさんはロードへの態度とはうって変わり、
「さぁミヤビ様、お部屋にご案内致します」
にこやかに案内してくれたのだ。
勿論ロードも慌てて付いて来たのだった。
21
お気に入りに追加
2,533
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる