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第五章
夫婦の時間とマカロン
しおりを挟むあ~ひま~…ヒマヒマヒマヒマ、暇だーーー!!
「初心に戻って薬作りしてたけど、誰にあげるでもない薬は在庫が溜まる一方だし、もう倉庫はいっぱいだしさぁ…大体ロード以外誰も家に帰って来ないってどういう事? 目と鼻の先にある珍獣村に行くのも禁止されて何をしろっていうの?」
この世界に来た当初はそれでも良かったけど、今は遊びに行く場所も沢山あるのだ。
自由を許されたのが家と庭のみだなんて暇すぎる。
そう考えている自分に驚いた。
人間不信で引きこもっていた自分に、いつの間にか知り合いも出来て、遊びに行く場所も増えていた事に気付く。
その切っ掛けを与えてくれたのは、考えてみればロードだった。
ロードが私の前に現れなければ王都に行く事もなかったし、そこで知り合いが出来る事もなかった。
彼がいなかったら、トモコと仲直りする事も、出来なかったかもしれない。
まぁ今は反対に出してもらえないが…。
「変なロード」
引きこもりを引っ張り出して、今度は閉じ込めるんだもんね。矛盾だよ。矛盾。
ロードの変人、変態と呟いて、椅子の背もたれにだらしなく背をあずけ天井を見上げると…
「誰が変人で変態だコラァ」
私の目に映ったのは見慣れた天井、ではなくロードであった。
「ぎゃあぁぁぁ!!?」
驚いて椅子ごと倒れたのだが、地面に落ちる前にキャッチされ抱き上げられる。
「ったく、留守の間に旦那の悪口か?」
「いつからいたの!?」
「オメェがヒマヒマ言ってる所からだ」
全部聞かれてただと!?
「ここは薬の研究所なんだから勝手に入って来ないでくださーい」
「俺ぁここに来た当初から、この研究所とやらの出入りは禁止されてねぇよ。今更何言ってやがる」
またおかしなもん創ってんじゃねぇだろうなぁ。と怪しんでくるロードに、おかしなものなんて創ってません!! と反論したものの、この部屋にはおかしな薬しかない事に気付き目を逸らしたのだ。
「…まぁいい。そんな事より散歩行くぞ」
「何で突然散歩?」
「妊婦にゃ適度な運動が必要なんだろ? 後、気分転換だ」
確かに言ったが、何? これロードも散歩に付き合ってくれるって事? 仕事は??
空には燦々と太陽が輝いており、どう考えても仕事中の時間帯だ。
「休憩中だから大丈夫だ。今日からこの時間に森を散歩すっからな」
地面に下ろされ、手を握られる。行くぞとそのまま引っ張られるように外へ出ると、私の歩調に合わせて歩き始めたのだ。
「転げねぇよう足元気を付けろよ」
「あ、うん」
何だ? 良い夫アピールか? まぁ気分転換に森の散策は良いかもしれない。とマイナスイオンを浴びながら歩いていると、ズシン、ズシンと地面が揺れ、森の木々から黒緑の巨体が顔を出したのだ。
「あ~ミヤビ様とロードさんだ~。こんにちは~」
「マカロン、こんにちは。元気そうだね」
黒緑のドラゴンであるマカロンだ。
随分久しぶりに会った感があるが、実は毎日顔を合わせていた。というのも、ロードが私の護衛をするように言ったらしい。
毎朝、まだ私が寝ている時間帯に外から大声で挨拶してくる迷惑竜である。
「お散歩ですか~?」
「ああ。オメェは付いて来なくていいからな」
「え~。付いて行きたい」
「オメェが歩くと地面が揺れて腹の子に影響するかもしれねぇだろ」
「だったら飛ぶ~。歩かないから一緒に連れてって~」
「バカか。空を飛ぶ速度と歩く速度を考えろ」
マカロンとロードの会話を聞いていると、マカロンがどうしても飼い主と散歩に行きたい犬に見えてきた。
「そうだ~! 僕の背中に乗って散歩しようよ~。楽しいよ~」
それでは運動の意味がない。そしてマカロンはアホの子だから私を落としかねない。
「ミヤビは運動しねぇといけねぇんだよ。オメェに付き合ってる暇はねぇ。んなに暇なら、浮島にでも遊びに行ってこい」
「え、いいの~? じゃあ浮島に遊びに行ってくるよ~。最近白いドラゴンの友達が出来たんだ~」
「そりゃ良かったな。早く行け」
しっしっと追い払うロードに、マカロンは行ってきま~すと言って羽を広げたのだ。
ぎょっとした次の瞬間、土埃と台風のような強風が襲ってき、暫く目を開けていられなかった。
「~~~ったく! なんつー迷惑な奴だ!」
「ケホッ ま、まぁ…マカロンだしね」
お互い髪や体についた土埃を払うと、また手を繋ぎ、緑の中を歩き出す。
何とも穏やかな夫婦の時間であった。
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