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第五章
おめでたですってよ!!
しおりを挟む「ミヤビィ!! オメェ魔法研究所でなにしてくれたんだ!?」
怒鳴りながら帰って来たロードを、私は呆然とソファに座ったまま迎えた。
「ロード…」
「あ゛? ミヤビ、どうした」
私の様子がいつもと違う事に気付いたのか、ロードはすぐに寄って来てソファの前に敷いているラグマットの前に膝をつき手をとったのだ。
『ミヤビ様! 新鮮な肉を獲ってきました!! これで栄養をつけて…ん? なんだ、貴様帰っていたのか』
「帰ってたら悪ぃか。それよりミヤビの様子がおかしいんだよ。何があった」
『それはお前がミヤビ様に直接聞くが良い。話が終わったら私が新鮮な生肉を馳走してやろう』
「はぁ?」
変に機嫌の良いヴェリウスに、そう言われて眉間にシワを寄せるロードがこちらをチラリと見てくる。
しかしこちらは大いに戸惑っていた。
ヴェリウスが足音もたてずにリビングから出て行き、気まずい沈黙が訪れる。
私は先程ヴェリウスに言われた事を思い出していた。
『ーー…ミヤビ様、よく聞いて下さい』
そう切り出したヴェリウスの顔は真剣そのもので、よほどの事が起こったのだと、背筋を正して彼女を見返したのだ。
『先程ミヤビ様のお腹に触れた時、少し違和感を感じました』
触れたっていうか、最初は踏んづけたよね。
『神力を流し診察してみた所…』
まさか腫瘍があったとか!?
父を癌で亡くした私はその事に思い至りゾッとした。
いやいや、私の今の能力なら直せるはずだと冷静に努めるが、ヴェリウスの真剣な顔にどんどん不安になってくる。
『ミヤビ様のお腹に生命が宿っている事を確認致しました』
「はい?」
一瞬何を言われたのか分からなかったが、『おめでとうございます』とヴェリウスからの一言に、自分のお腹をそっと撫でていたのは条件反射だったのだろうか。
その後はソファに座って呆然としていたら、ロードが怒鳴りながら帰って来たというわけなのだ。
「ミヤビ、本当に何があったんだ? ヴェリウスも何か変だったし、俺に教えてくれねぇか」
怒鳴り込んできた人とは別人のように優しく問い掛けてくる。
「ロードは何で怒ってたの?」
「そりゃオメェ、魔法研究所で…って、そうじゃねぇよ。今はオメェの事だろ。何があったかちゃんと言ってくれ」
でないと心配だろうが。と私の手を握り見つめてくるのだ。
「怒ってた事をもう怒らないって約束してくれたら言う」
よく分からないが、怒られたくはないので交換条件を出すことにした。これで怒られなくて済むだろう。
「あ゛ぁ゛? んなもん約束出来るか。怒られるような事したオメェが悪ぃんだろ」
「じゃあ言わない」
顔を背けると、両頬をガシッと捕まれて無理矢理ロードの方を向かされた。首の骨が折れるかと思った。
「顔を背けるんじゃねぇ。さっさと吐けや」
「どこのヤクザ!? 妻に向ける態度じゃないよね!?」
「るせぇ。吐かねぇなら無理矢理吐かせるぞ」
等と言って擽ってきたのだ。
「止めろぉぉ!! ぅはっひゃひゃひゃ!!」
「吐くまで止めねぇ。どうだ? 白状する気になったか」
「ギャハハ…っま、負けな、ひゃひゃひゃ!!」
ソファの上でロードの擽りの刑によって転げ回る。
まるで陸にあげられた魚のようにびちびち跳ねて、笑いすぎて涙を流す。
もう勘弁して下さい。
途切れ途切れに絞り出した言葉はロードに届き、やっと止めてくれたが、何故かロードは興奮気味にこちらを見てくるので顔が引きつった。
「ミヤビ…話の前に寝室に「バカヤロウ!!」」
全身全霊のツッコミという名の拳をロードの頭に叩きつけてやったわ。
「えー実はですね、私、“おめでた”らしく、暫くそういった行為はご遠慮願います」
姿勢を正し、ゴホンッとわざとらしく咳をしてはっきりロードに伝えると、さっきまで興奮して擽ってきていた変態は固まり動かなくなったのだ。
「おーい、ロードサン?」
「…ッ…ッ」
声を掛けるが、今度は口をパクパクさせ声にならない声を紡いでいるらしい。どんどん顔が真っ赤になっていく様は面白い。
「“おめでた”ですよ。分かる? えーっと、アナタとワタシの子供が出来たのヨ~」
説明するのが何だかとてつもなく照れくさくて、冗談めかして言ってしまうのは大目に見てほしい。
「っっミヤビ!!!」
突然叫んで抱き締めてきたロードに驚いて直立してしまう。
「ミヤビっ」
「な、何でしょうか!?」
「ミヤビ…っ俺の、子が、ここに居んのか…?」
抱き締めていた腕を緩め、大きな手でお腹に触れてきたロードに頷いて手を重ねる。
「ヴェリウスが、神力を流して診察してくれたから間違いないと思う」
神力でエコー検査が出来るとは初めて知ったが、何とも便利なものである。
そして“犬の産婦人科医ヴェリウス”。有能である。
「そうか…ッ 俺とミヤビの子が、ここに…」
潤んだ目で私を見て、崩れ落ちるように膝をつき、私のお腹にすがりついたロードは、そうか、そうかと何度も繰り返して、そして言ったのだ。
「ミヤビ、ありがとう」
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