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第五章
人の為の土下座と己の為の土下座
しおりを挟む「わ、私はッ神王様が御隠れになったと思っていたのです! だから教会の象徴を変える事に賛同しただけで、神王様が帰ってこられたと知っていれば賛同などしませんでした!!」
「私もです!! 大司教に騙されたのです!!」
顔色を青くしていた者達が次々と主張してくる。
その内容は自分勝手で、全てを他人のせいにするものだった。
「貴方達は、何をおっしゃっているのですか!!」
あの大人しいお嬢様、ベルーナちゃんが大声を張り上げた事に驚き見れば、彼女は怒り慣れてないのか猫のようにはふーふー言いながら拳を握りしめている。
「っ例え神王様が御隠れになっていたとしても、この世界の創造神たる御方を排する等という不遜な考えを持つ事自体がおかしいとお考えにならないのですか!! それを大司教に騙されたと、人のせいにして…っ一体あなた方は何をおっしゃっているのです!!」
まだ子供だというのに、大の男を怒鳴るのは勇気がいるだろうに、お嬢様は顔を真っ赤に染めて震えながらもはっきりと物を言うのだ。
だというのにこの男達は反省の色もなく、
「な!? そ、それは大司教に脅されたからで…っ」
なおも罪を認めようとはしないのだ。
「…おぬしらにとっては今回の罰は都合の良いものではないか? 何せわしを祀っておった教会は無くなるのじゃ。好きなものを信仰出来るではないか。何をそんなに焦っておる」
微笑んで言ってやればますます顔色を悪くする教会関係者と一部の貴族達。
「自身の好きな神なり、何なりを信仰すれば良かろうて。それが本来の宗教の在り方じゃ。まぁ身近な者を信仰するのはすすめんがのぅ」
自分で言っておいて何だが、そう考えると教会を取り潰す事は何の罰にもならない気がしてきた。
「ミヤビ…大司教に協力した奴らは、人々の信仰心を利用して暴利を貪ってきた奴らだ。教会が無くなれば破滅するのは目に見えてるから充分罰にはなってるぜ。…まぁ、俺がそれだけじゃ終わらせねぇけどよ」
ロードがこっそり教えてくれたので、罰はこれで良かったのだとホッとする。
お嬢様を見ると、まだ拳を握ったままでふるふると震えていた為そばに寄れば、お嬢様は私が近付いてきた事に驚きその瞳を瞬かせていた。
「ベルーナ、おぬしはよう勇気を出して怒ってくれたのぅ。大の男に立ち向かうのは恐ろしかったじゃろう」
頭を撫でてやると、握った拳は緩みその瞳が徐々に湿っていく。
お嬢様は顔をさっきとは違う意味で真っ赤に染め、唇をかんで涙を我慢している。それが何とも健気だ。
「わ、わたくしは、この世界を創って下さった神王様を蔑ろにする人達を許せなかったのです。それに…自分達の罪を人のせいにする事はダメな事ですもの」
「そうじゃの。自分が悪いのに人のせいにするというのは、幼子でもダメじゃと分かる事じゃな。
悪い事をしたら罪を償わんといかん。全ての行いは自身にはね返ってくるのじゃ。それが“世界の理”だからのぅ」
はいと返事をするお嬢様に目を細め、教会関係者や人々を見れば気まずそうに目をそらす者達が目立つ。
全く、大人が情けない。
「も、申し訳ありませんでした!!」
真っ青な顔で土下座する者を皮切りに、大司教の協力者が次々と土下座していく。
民の為に土下座した国王と違い、己の為に土下座する者の何と愚かしい事かと哀れに思う。
「お前達が謝らねばならんのはわしではない。今まで欺いてきた人々にじゃろう」
私は特に何もされていないしね。
「陛下」
ロードが国王に一声掛けると、それにハッとした国王は騎士達に向かって言い放つ。
「捕らえろ」
騎士達はその声にすぐ反応し、土下座している者や顔色の悪い貴族を拘束していく。
何か異世界っぽくて格好良い。
「神王様、御前を騒がせてしまい申し訳ありません。
おこがましいお願いではございますが、彼らは人の法で裁かせていただきたく…っ」
震えながらそう願いまたもや土下座してくる国王に、この人本当に人の為に行動出来る人だなぁと感心する。
「ふむ。なれど教会を取り潰す事は変わらんが良いのか?」
「はい。それは教会の暴走を止められなかった我等人間の罪。彼等には人が定めた罰を受けさせたく思います」
いつものおどおどした瞳ではなく、その真剣な眼差しに「よく分かった」と頷く。
「大司教を含め、この者らの処罰をルマンド国王に任せよう」
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