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第五章
真剣な話の前に腹ごしらえを
しおりを挟む司祭の息子って…じゃあイアンさんは、ロードに暴力をふるっていた人の子供…?
「コイツら親子は、神の意向だなんだと信者から食い物や金目のもんを奪い、俺らガキからは尊厳も人権も奪って生きてきた奴等なんだよ」
ロードの言葉に一切反論せず、ただじっと聞いているイアンさん。聖人の称号を持ち、教会の不正を正そうとしている彼がそんな人間だとは思いたくないが…。確かにステータスを覗き視た時にそんな事が書いてあったのは事実だし、ロードは嘘をついてはいないだろう。しかし、
「イアンさん、貴方は本当にそんな事を…?」
やはりこういこういう時は双方から話を聞くに限ると、イアンさんにも尋ねる。
するとまた土下座し、ロードの言うとおりだと非を認めたのだ。
「そんなテメェが今更教会の不正云々で追われているとは思えねぇ。一体どんな目的でコイツに近付きやがった」
角を隠しもしないロードは、イアンさんを威圧し睨みをきかせる。彼はそんなロードに身体を震わせながら土下座をしたまま、昔ロードにした事は申し開きも出来ないしする気もないとはっきり口にしたのだ。
昔の自分は愚かだったと後悔し、贖罪の旅に出たともステータスにはあった。
自身の罪を素直に受け止め真摯に反省していたからこそ、本当の聖人になれたのだと私は思う。
「ロード、イアンさんは昔とは違うよ…私を守る為に警戒してくれてる事は分かってるけど、もういいんじゃないかな?」
ステータスを視れるロードは、とっくに分かっているでしょう? と見つめると、微かに瞳が揺れた事に気付く。
「ねぇ、神王に手を出せる人間はいないよ? ここにはロードも、ヴェリウスも、他の神々や珍獣達だって居るんだし」
「……」
無言で見下ろしてくるロードを見つめ返す。すると、はぁ…と深く息を吐きその眉を困ったように下げたのだ。
「…ミヤビにゃ敵わねぇな」
ロードはそう漏らして私の頭を撫でる。イアンさんは土下座したままなので表情は見えないが、困惑している雰囲気が伝わってきた。
「イアンさん、顔を上げて下さい。ロードも貴方が昔の事を後悔していると理解しているんです。ただ私を守る為にこんな頑なな態度を取っていただけで」
「そのように仰っていただいただけで、私は…っ」
畳に額を押し付けたまま身体を震わせているイアンさんだが、泣いているのだろうか。
「イアンさん…」
肩に触れようとした手をロードにとられ、抱き寄せたられた。
他の男に触るんじゃねぇと睨まれる。
どうやら声を掛ける為でもロードには許せないらしい。相手がイアンさんだからという事ではない。どんな相手であってもつがいが自分以外の男性に話し掛ける事はNGなのだ。
しかし話がまったく進まない。
バレないように嘆息すると、そこへ珍獣の女の子達が軽食を持ってやって来た。
「失礼致します。お食事の御用意をさせていただきます」とテキパキ準備し始めたのだ。
お粥の入った土鍋と、後のせの美味しそうな具が様々な種類並べられて良い匂いに食欲がそそられる。
ロードもイアンさんも食事はまだのようで、彼らの前にも所狭しと並べられていく様子を眺める。
イアンさんもロードの威圧の影響から回復していないしと、そんな事を理由に食事を楽しむ事を決めた私のお腹は、それを催促するかのように高い音を鳴らせていたのだ。
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