異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

文字の大きさ
上 下
328 / 587
第五章

尊い…っ

しおりを挟む


「まさか…っ まさかこの地に顕現されておいでとは…っ」

地に額をつけたままの土下座スタイルで、身体を震わせながら咽び泣く男性に唖然とする。
トリミーさんはギョッとした表情でこちらを見ているので苦虫を噛み潰したような顔になってしまうが男性は気付かない。

「いや、あの…」
「しかも私のような者にまで御声を掛けていただけるなど…っ畏れ多くも、恐悦至極にございます!!」

何言ってるかちょっと分からない。

「ああ…っ何と尊い…、もう、死んでもいい…っ」

怖いんですけどーー!?

「とりあえず顔を上げてもらえませんか? 話が出来ないので…」
「そんな…っ 神王様を御尊顔を拝ませいただけるなど、私の心臓が持ちません!! 幸せ過ぎて昇天してしまう!!」

昇天って…どこぞのアイドルの追っかけですか?

「み、ミヤビちゃん…あんた本当に…?」

トリミーさんが恐る恐る声を掛けてくるが、顔が引きつっている。今にも倒れそうだ。

「あー…えっと…」

んなわけないですよー!! とは言い辛い。何故なら、ガチな信者ファンが目の前で土下座して泣いてるからだ。
「ああ…神王様…っ 」と感動と興奮を織り混ぜた声で呟いているからだ。

「あたしゃ、何て失礼を…ッッ」
「あーーー!! それはもう止めて下さいっ」

トリミーさんまでもが土下座しようとするので全力で止める。
土下座が二人に増えるなんて、私のライフがゼロになる。

「ホント、もう勘弁して…」


◇◇◇


「まさかミヤビちゃんが神王様だなんてねぇ…」

先程の男性…名前をイアンさんと言うらしい。は、足を怪我しているのに土下座をした為痛みでそのまま気絶してしまい、現在使い物にならない状態である。これで私が足を治してしまおうものなら昇天しかねないので放置している。

「いやぁ…アレです。成り行きでそう呼ばれてるといいますか…」

ハハハと乾いた笑いしか出てこないが、トリミーさんの表情は盛大に引きつっている。

「神王様にこんな態度で接するなんて許される事じゃないけど…本当に良いのかい?」
「勿論ですよ。良いも悪いもトリミーさんの態度に失礼な点なんて無いですし、私そんな跪かれるような偉い人じゃないし」

誰よりも偉い御方なんだけどねぇと呆れた声で呟かれたが、そんな声は聞こえない。

「しかし、どうしようかねぇ。あの人は…」
「もうその辺に放置しときましょうか」

至極まじめに言ったが、トリミーさんは困ったように笑うだけで、そうさねぇ~と考え込んでしまったのだ。

「…このまま女性一人の家に置いておくわけにはいかないですし、取り敢えず私が連れ帰ろうと思いますが」

多分この家に泊まろうものなら、トリミーさんの旦那さんに殺されるだろうからと引き取る事にした。
浮島のエルフ街にでも放り込んでおくしかないだろう。

「連れて帰るって、そんな事したらあの人師団長様に殺されてしまうんじゃないかい」

慌てたように忠告してくれるトリミーさんだが、教会の不正の証拠を握り追われている人をここには置いておけないし、ロードは騎士だから会わせた方が良いだろうと説得した。それに家に連れ帰るわけでもないのだ。

「…確かにミヤビちゃんに預けた方が師団長様に報告も出来るし、何より神王様のお傍が一番安全だものねぇ」

等とトリミーさんは納得してくれたので、イアンさんは浮島に運ぶ事にしたのだ。

「女の子一人で大の男は運べないからねぇ…師団長様に連絡して来てもらうしかないだろうね」

痛みで気絶した割には幸せそうな顔で眠っているイアンさんを眺めながら、腰に両手を当てて溜息を吐くトリミーさん。

「大丈夫ですよ。転移扉を出しますから」

エルフ街に扉を繋げれば、気づいたエルフ達が手伝ってくれるだろうし。
そう思いながら転移扉を出現させれば、トリミーさんは呆気に取られたようにその様子を見ていた。

「誰か手伝ってくれませんか~」

エルフ街の広場前に繋がった扉から顔を出し叫べば、通りを歩いていたエルフ達が「神様だ」と気付いてわらわらと集まってきたのだ。

「どうかなされたのですか?」

エルフ達は首を傾げて私を見、お困りの事があるならば何なりとおっしゃって下さいと言ってくれるので、イアンさんを運んでほしいのだと頼む。
トリミーさんはもう何に驚いて良いのか分からず固まって動かなくなってしまった。

「かしこまりました!!」

男性のエルフが2人扉を越えてやって来たので怪我人である事と痛みで気絶してしまっている旨を伝え、出来るだけ丁寧に運んでもらう。

「トリミーさん、念の為この家とトリミーさんに危険が及ばないよう結界を張っておきましたのでおかしな事は起きないと思います。それに何かあれば直ぐ駆けつけるので安心して下さい」
「っミヤビちゃん、何から何までありがとうね。けど、教会って事でアタシはミヤビちゃんの方に何かありゃしないかと心配だよ…」
「大丈夫ですよ。私にはトモコもロードもついてますから」

心配してくれるトリミーさんにそう言って笑ってみせると、そうだね。師団長様は伝説の騎士だし、トモコちゃんもしっかりしてるからねぇとおかしそうに笑ってくれたのだ。
少しは安心してくれたらしい。

「明日にでもまた顔を出しますから」

お邪魔しました。と転移扉を潜りエルフ街へと移ったのだ。


「…が本当なら、一番心配なのはミヤビちゃんなんだよ……」

そう、トリミーさんが溢した言葉にも知らずに。
しおりを挟む
感想 1,621

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

処理中です...