325 / 587
第五章
神々と世界の意思 ~イアン視点~
しおりを挟むイアン・フェイ・コフトル視点
「クソ…っ 流石に王都には見張りがいるか…」
ルマンド王国の南にある“トレイク”という町の教会。そこで私は神官として過ごしてきた。
司祭の息子であり聖人と崇められ、いい気になっていたのかもしれない。
魔素の枯渇寸前の世界で、良い服を着て豪華な食事をする事が当たり前だと思っていたあの時の自分は今思い出しても恥ずかしいものだ。
そんな私が変われたきっかけは、町に住む同じ年の子供であった。
当時有頂天となっていた愚かな私は、教会があるというのに前を通り過ぎるだけで祈りを捧げないみすぼらしく痩せ細ったその子供に声を掛けたのだ。
何故教会で祈らないのか、と。
その子供は言った。
“祈りを捧げてお腹がいっぱいになるならいくらでも祈りを捧げるよ”
救いを求める人々から搾取したもので、当たり前のように良い暮らしをしていた私は、雷にうたれたような衝撃を受けたのだ。
一体私は何をしているのだ。こんな今にも死にそうな子供から、人々から奪っておいて、癒す力を持ちながら何もしていないではないか。
神の代わりに人々に施しを与え、神王様の、神々の教えを説き手を差しのべる事こそが教会の本当の役割だったはずなのに。
その為の“力”だというのに。
私はその時に自分の愚かさを知り、司教であった父の元を離れ世界中を巡る旅に出る事にした。
準備していた食料や資金はあっという間に尽きたが、食糧難で飢えているというのに人々は優しく、僅かな食料を分けてくれたりもしたものだ。
そんな人々に癒しの力を使い恩を返していく事が私の精一杯の誠意であった。
勿論その中で神々や神王様に祈りを捧げる事はかかしていない。
人族の神で在らせられるアーディン様のお声を聞いたのは、旅に出て10年後の事だった。
神との対話で私は聖人、聖女の本当の能力を知ったのだ。
神々と世界の意思を感じる能力。それが聖職者の条件であった。
そんな能力が自身に備わっていると教えられ、そこで初めて感じた世界の意思。
それはまるで親を亡くした赤子のようだった事を覚えている。
寂しい、悲しい、会いたい、帰って来て、と泣き叫んでいるようで…神々も同じような思いだったのだと思う。
全ては、神王様が御隠れになった事が発端だとアーディン様からお伺いした。しかしアーディン様はもうすぐ神王様をこの世界に連れ戻す事が出来るとおっしゃっていたのだ。
その後また10年以上経ってから魔素が満ちた時は、アーディン様の言うとおり、神王様がお帰りになったのだと分かった。
魔素が満ちてからは世界中を巡る旅を終え、私はトレイクの教会に戻って再び神官として過ごしていたのだが、あの日見てしまったのだ。
他の教会関係者が神王様の像を破壊している所を。
そして聞いてしまった。彼らが支持しているのが誰なのかを…っ
すぐ陛下にお知らせせねばとトレイクの教会を飛び出したが、すぐ追っ手がやって来てこれだけの時間がかかってしまった。
しかも王都に入ってからは教会関係者が街に溢れておりこうして路地裏で見つからないよう息を潜めているだけで精一杯っだった。
時間が無いというのに…っ
「おや、随分とボロボロになって…アンタ大丈夫かい?」
急に声を掛けられドキリとする。追っ手に見つかったのかと冷や汗がこめかみの辺りを流れていくのが分かった。
しかしどうも様子が違うらしい。
私に声を掛けてきたのは女性で、教会関係者ではないように思えた。
少し体の力が抜けたが油断大敵だ。
「良かったら休んで行くかい?」
ウチは目と鼻の先にあるからねと行った女性は、店舗らしき建物を指を差して言ったのだ。
掲げられた看板にはこう書いてあった。
“トリミーの茶葉専門店”
32
お気に入りに追加
2,574
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる