異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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第五章

神々と世界の意思 ~イアン視点~

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イアン・フェイ・コフトル視点



「クソ…っ 流石に王都には見張りがいるか…」

ルマンド王国の南にある“トレイク”という町の教会。そこで私は神官として過ごしてきた。
司祭の息子であり聖人と崇められ、いい気になっていたのかもしれない。
魔素の枯渇寸前の世界で、良い服を着て豪華な食事をする事が当たり前だと思っていたあの時の自分は今思い出しても恥ずかしいものだ。

そんな私が変われたきっかけは、町に住む同じ年の子供であった。

当時有頂天となっていた愚かな私は、教会があるというのに前を通り過ぎるだけで祈りを捧げないみすぼらしく痩せ細ったその子供に声を掛けたのだ。
何故教会で祈らないのか、と。
その子供は言った。

“祈りを捧げてお腹がいっぱいになるならいくらでも祈りを捧げるよ”

救いを求める人々から搾取したもので、当たり前のように良い暮らしをしていた私は、雷にうたれたような衝撃を受けたのだ。

一体私は何をしているのだ。こんな今にも死にそうな子供から、人々から奪っておいて、癒す力を持ちながら何もしていないではないか。
神の代わりに人々に施しを与え、神王様の、神々の教えを説き手を差しのべる事こそが教会の本当の役割だったはずなのに。
その為の“力”だというのに。

私はその時に自分の愚かさを知り、司教であった父の元を離れ世界中を巡る旅に出る事にした。
準備していた食料や資金はあっという間に尽きたが、食糧難で飢えているというのに人々は優しく、僅かな食料を分けてくれたりもしたものだ。
そんな人々に癒しの力を使い恩を返していく事が私の精一杯の誠意であった。
勿論その中で神々や神王様に祈りを捧げる事はかかしていない。

人族の神で在らせられるアーディン様のお声を聞いたのは、旅に出て10年後の事だった。

神との対話で私は聖人、聖女の本当の能力を知ったのだ。

神々と世界の意思を感じる能力。それが聖職者の条件であった。
そんな能力が自身に備わっていると教えられ、そこで初めて感じた世界の意思。
それはまるで親を亡くした赤子のようだった事を覚えている。
寂しい、悲しい、会いたい、帰って来て、と泣き叫んでいるようで…神々も同じような思いだったのだと思う。
全ては、神王様が御隠れになった事が発端だとアーディン様からお伺いした。しかしアーディン様はもうすぐ神王様をこの世界に連れ戻す事が出来るとおっしゃっていたのだ。


その後また10年以上経ってから魔素が満ちた時は、アーディン様の言うとおり、神王様がお帰りになったのだと分かった。

魔素が満ちてからは世界中を巡る旅を終え、私はトレイクの教会に戻って再び神官として過ごしていたのだが、あの日見てしまったのだ。
他の教会関係者が神王様の像を破壊している所を。
そして聞いてしまった。彼らが支持しているのが誰なのかを…っ

すぐ陛下にお知らせせねばとトレイクの教会を飛び出したが、すぐ追っ手がやって来てこれだけの時間がかかってしまった。
しかも王都に入ってからは教会関係者が街に溢れておりこうして路地裏で見つからないよう息を潜めているだけで精一杯っだった。

時間が無いというのに…っ


「おや、随分とボロボロになって…アンタ大丈夫かい?」

急に声を掛けられドキリとする。追っ手に見つかったのかと冷や汗がこめかみの辺りを流れていくのが分かった。
しかしどうも様子が違うらしい。

私に声を掛けてきたのは女性で、教会関係者ではないように思えた。
少し体の力が抜けたが油断大敵だ。

「良かったら休んで行くかい?」

ウチは目と鼻の先にあるからねと行った女性は、店舗らしき建物を指を差して言ったのだ。
掲げられた看板にはこう書いてあった。


“トリミーの茶葉専門店”
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