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第五章
子供らしくない
しおりを挟む「そなたが聖女か」
桜色の髪の毛が玉座でさらりと揺れ、その場の空気が張りつめた。
「…お初にお目にかかります陛下…ヘルナンデス・ティモ・ベルーナと申します」
あんなにふっくらとしていたお嬢様は一回り小さくなった身体で美しいカーテシーを披露し、微笑みを湛えたままルマンド国王と対峙している。
その横には先日王宮の廊下で出会った大司教様と呼ばれる老人が居り、お嬢様の保護者のように彼女を国王に紹介していた。
「我が国から聖女を輩出した事はとても誉れな事である。これからは神々に奉じ、聖女として努めてほしい」
「…無論にございます」
国王から聖女へと一言あり、聖女がそれに応じる事で謁見は終わる。広い謁見室の出入口付近には、教会関係者や貴族、騎士の姿も見受けられた。
ちなみに私はといえば、定番の認識阻害魔法で姿を隠しその様子を謁見室の玉座の傍で眺めていたりする。
玉座の周りにはカルロさんやレンメイさんの姿があり、守りを固めていて気配で斬りかかられても怖いのでその辺も抜かりなくバレないようにしているわけだ。
ロードは王宮内の警備ではなくどちらかといえば外側の警備なのでここには居ない。
聖女との謁見が終わり、お嬢様は大司教と共に退場していく。それに続いて貴族や教会関係者も謁見室からぞろぞろと出ていっている。
この後は食事会だと貴族が話していたのを盗み聞きしたのだが、とりあえず聖女と大司教の後を追うことにする。
「ー…ベルーナ、さぞ緊張しただろう。よく頑張ったね」
「大司教様…」
聖女に宛がわれた部屋の中、まるで孫娘にするようにお嬢様の頭を撫でている大司教。
聖女としてこのひと月教会に閉じ込められていたお嬢様たが、今は大司教に微笑んでいる。この2人の仲は良好のようだ。
「次は食事会だが、もう一頑張り出来るかな?」
「はい」
コクリと頷くお嬢様を、愛しい孫を見るように目を細めた大司教が口を開いたその時、扉がノックされて黒い祭服を着た男性が入ってきたのだ。
「失礼致します…大司教様、少し宜しいでしょうか」
大司教は頷くとお嬢様に、人が呼びに来るまでここでゆっくりしておいでと微笑み、黒い祭服の男性と部屋を出て行った。
チャンスと思いその場に顕現すると、お嬢様は初めて会った時の反応そのままに驚いた表情でこちらを見て口をパクパクさせる。
「お久しぶりです」
今回はこちらから声を掛ける事に成功した。
「あ、貴女…今度は王宮に?! 見つかったら捕まってしまうわ!」
「大丈夫ですよ」
自身の唇に人差し指をあてて静かにしてというジェスチャーをすると、ハッとしたように自分の口を両手で塞ぐお嬢様は子供らしくて可愛らしい。
「未だに助けてあげられなくてごめんなさい」
私の掛けた言葉にふるふると首を横に振り、小さな声で貴女のせいではないのだから謝らないでと言われた。
「あの後カルロ様の計らいで、何とか両親や友人とだけは面会する事が出来るようになったのだもの。歴代の聖女達に比べればわたくしは幸せだわ」
子供らしくない眉を下げた微笑みが痛々しい。
「けれどお嬢様は教会を出たいのでしょう?」
「…もし仮に、聖女で無くなり教会を出れたとしても…わたくしはお父様に捨てられてしまうわ」
なんて事だろう。たった12歳の女の子が、自分の現状を把握してそれでも泣かずその顔に笑みを湛えているのだ。
もしかしたら教会関係者の誰かが、お嬢様が逃げ出さないようにそう教えたのかもしれない。
「それなら今の方がずっと良いもの。それにね、大司教様もお優しいからわたくしは大丈夫よ」
「…人族の女性は、つがいに会える事を夢見ている方が多いと聞きましたが?」
言えばお嬢様は俯き暫くして、もう無理だもの、とポツリ溢した。
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